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酒は飲んでも飲まれるな (中編)

「あ、京子ちゃん。はい、これどうぞ。」

隣でなにやら自分勝手なおしゃべりを繰り返していた男の声が急に耳に飛び込んできた。
慌ててキョーコはそちらに注意を戻す。
うさんくさい笑顔とともに、差し出されたグラス。

「ありがとうございます。」
不快な気持ちをそのまま顔に出すわけにもいかず、笑顔を象りそれを受け取ろうとした。
その瞬間――――。

目の前を大きな手が遮った。

驚いて見上げると、いつの間に来たのか、そこには眉を寄せた蓮の姿があった。
背筋が震えそうなほどキツく鋭い視線で、キョーコにグラスを差し出した男を見つめている。

「君、これお酒入ってるでしょ。最上さんはまだ未成年なのに、そんなの飲ませていいと思ってるの?」

「え?」
蓮の言葉に目をぱちくりさせて、手元のグラスと相手の男を交互に見遣るキョーコ。

一方男は、蓮の凍りつくような視線と言葉に、目を逸らしながら困ったように薄笑いを浮かべると
「あれ?いや、ジュースと勘違いしてたんだよ。ごめんね。京子ちゃん。あ。じゃ、俺はちょっと向こうで呼ばれてるから。」
慌ててその場を立ち去っていった。

空いた場所にぐいっと入り込み、蓮は黙ってじっとキョーコを見つめる。
「相変わらず、無防備というか、危機感ないよね。最上さん。」

(ひいいいいい!!!怒ってる!!!)

「前にも言ったけど。こういう席では君の面倒をちゃんと見るように、社長から頼まれてるんだよね。まったく、ちょっと目を離すとこれだから・・・。」
そういうと蓮は片手を額にあて、大きくため息をついた。

(ど、ど、どうしよう・・・。敦賀さん、本気で呆れてる。)

「ご、ご、ご、ごめんなさい!・・・わたし・・・また性懲りもなく考えなしで、敦賀さんにご迷惑を・・・」
慌てて土下座しかけたキョーコの腕をぐいと引いて立たせると
「ほらほら、君も女優さんなんだから、こんなところで土下座はしない。それより・・・」
言いながら、身を屈めてキョーコの瞳を覗きこみ、
「なるべく俺の傍を離れないこと。いいね。」
キョーコだけに聞こえるように、小さな声で囁いた。

とくん。
途端にキョーコの心臓が不自然に跳ねた。
目の前に並ぶ漆黒の瞳に、濡れたような帝王の色が過って見えたのは・・・気のせい?

「そろそろ帰ったほうがいいね。」
蓮の声にハッと我に返る。

え?と視線を戻すと、そこには似非紳士がにこやかに微笑んでいた。
硬直したキョーコの背にさりげなく手を回し、出口へと誘(いざな)う。

「さあ、行こうか。」

背中に当たる手が妙に熱く感じてキョーコはあせった。
先ほど男に同じようにされたときとは、全く違う不思議な感覚。
その温もりを感じれば感じるほど、怖いくらいに鼓動がどんどん早くなる。

「つ、敦賀さん。大丈夫です。私ひとりでも帰れますし。敦賀さんは主役なんですから、抜け出しちゃ・・・。」
追い立てられるように連れて行かれながら、あわあわと答えるキョーコに蓮がにっこりと微笑んだ。

「大丈夫。もう十分役目は果たしたから。それより少し風邪気味だからね。早く抜け出そうとタイミングを見計らっていたんだ。」
そう言われ、キョーコは杯を重ねる蓮の姿を思い出す。

「そういえば・・・、敦賀さん、お薬飲んでるのにお酒を何杯も飲んでいらっしゃいましたよね。」

蓮の足が止まった。

「・・・俺のこと見てたの?」
「もちろんです!勧められるがままにお酒飲んでらして。ずっと気になってたんですよ。ほんとは何度も注意しようと思ったんですけど、でも・・・敦賀さん綺麗な女性に囲まれていたから・・・。」

話しているうちに先ほど見た顔を寄せ合う2人の様子が頭に浮かび、先細りに小さくなるキョーコの声。
その変化には気づかぬように、
「そうか・・・。ずっと見てたんだ。」
ぼんやりつぶやいた蓮の顔を、キョーコが心配そうに眉をハの字に下げて覗き込んだ。

「あの・・・敦賀さん。大丈夫ですか?なんだか少しお顔が赤くなってきましたけど・・・。もしかして、熱が出てきたりしてませんか?」

言うなり、そっと額に手を伸ばす。
小さく温かな手のひらが、蓮の額を優しく包み込み、そのはずみで蓮の鼻先に栗色の頭がぐっと近づいた。
そのとき・・・。
不意に蓮の表情が固まった。

「えっと・・・、その・・・」
急な表情の変化にとまどい、手を下すこともできずに固まるキョーコの頭に、蓮はさりげなく顔を近づける。

(やっぱり・・・。)
髪からうっすらと漂うタバコの残り香。
(あいつか・・・。)
知らず知らずのうちに顔がゆがんだ。

キョーコにまとわりつく知らない男の気配。
ほんのわずかでもそんなもの感じたくない。
それがたとえキョーコにはまったく罪のないことだとしても・・・それでも許せない。
いわれのない焦燥感がひどく胸を締め付ける。


―――瞬間、意識がぐにゃりと歪んだ。

パーティの場を抜けて、敦賀蓮を取り繕う必要のなくなった気の緩みからだろうか。
それとも急に早足で身体を動かしたせいだろうか。
いや、あるいは天国から地獄への感情の激しい上下が一番の原因か。
焦りと葛藤で重ねた杯の酔いが、一気に身体中に回ったらしい。


(あれ?俺、どうしたんだ・・・。)

「敦賀さん!」
足元をふらつかせた蓮に驚き、キョーコが腕をとるようにして支える。

「大丈夫ですか?」
うっすらと聞こえるキョーコの声。
温かな手に引かれるように、壁際に身体を寄せる。
俯く蓮の隣で膝を屈め、心配そうに顔を覗き込むキョーコ。

ぐらぐらと重力を失ったように揺らぐ視界の中で、蓮が今認識できているのは、目の前で輝く、愛する少女の瞳だけ。

(・・・君はそうやって、いつだって無邪気に、その瞳で俺の心を惑わすんだ。)

蓮の鼻腔に、再びタバコの香りがふわりと漂った。
現実なのか夢なのか、判断力を失った頭に、先ほどの焦燥だけがぐっと頭をもたげる。
こみ上げる感情が、自制を失った唇から漏れ出た。


「君は俺を怒らせたいの?あんな男にあんな可愛い笑顔を向けて。」






(続く)

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