酒は飲んでも飲まれるな (前編)

打ち上げ会場は、大いに盛り上がっていた。

それは、蓮が主役を演じ、端役ながらキョーコも出演したスペシャルドラマ。
局をあげてのと銘打った作品だけに、出演者も多く、打ち上げも派手だった。

ごった返すホテルのパーティールームで、ひと際華やかな空気を醸し出しているのは、主演を演じた蓮と彼を取り囲む容貌自慢の女性たち。
ヒロインを演じた美人女優はもちろん、ほかにも容姿自慢の女優陣が我も我もと蓮を取り囲み、片時も離そうとしない。

むんとした香水の匂いが入り混じる状況に少々閉口しながら、蓮は誰にも気づかれぬよう愛しい少女の姿をそっと目で追っていた。
当の少女はいうと、蓮の懸念そのままに、今若手俳優からのアプローチを受けている。
蓮は、つかず離れずの距離をなんとか保ち、さりげなくその動向を見守っていた。

(あいつ、たしか・・・)
記憶から探り出すように思い出す。
自分ともキョーコともほとんど絡むシーンのなかったその男は、たしか最近なにかと話題の若手アイドル俳優。
といっても、話題に上るのはもっぱらスキャンダルな方面。
『共演女優を食いまくる』といった言葉とともに名前が挙がることの多い男だが、どうやら本人はそれを“名誉なこと”と考えているらしい。

(なんで、あんな奴が最上さんに目を付けたんだ・・・。)
周囲には笑顔を振りまきながらも、心の中では苛立ちと焦りが募る。
まとわりつく女性陣を振り払うこともできず、気が付けば、進められるがままに杯を重ねていた。


*


(ああ、また新しいグラス・・・。)
キョーコもまた目の端で蓮の姿を追っていた。

(たしか、ついさっき風邪薬を飲んだばかりなのに)
最後のロケで、海の中に立ち尽くすシーンを演じたせいだろうか。
風邪をひきかけている様子の蓮に、社が薬を渡していたのをキョーコは知っている。
いつかのように倒れたらいけないと、薬をちゃんと飲んだのはいいけれど、その直後にお酒を飲むのはいただけない。

(お酒はもうやめるように、注意しなくちゃいけないわ。)
さっきからそう思っているものの、蓮を取り囲む女性陣の何重にも連なった華やかな輪を崩す勇気が出せずにいた。
それでもやはりと足を向ければ、今度はキョーコのほうが誰かに話しかけられ、行く手を阻まれる。
今もまた、踏み出したキョーコの腕を誰かがぐっと掴んだ。

「京子ちゃん。ちょっといいかな?」
そこにいたのは、最近テレビなどでもてはやされている若手アイドル俳優。
そういえば共演したんだっけと、キョーコはあまり思い出せない彼の印象を頭の中から必死に探る。
蘇ってきたのは、ろくでもない演技とろくでもない態度。
正直、悪印象しか残っていない。

「・・・?なんでしょう?」
それでも芸歴を考えれば彼は先輩、仕方なくキョーコは丁寧に頭を下げる。

「いや、じつはこの間の撮影のときからちゃんと話したいなって思ってたんだよね。今回の役もよかったけど、ダークムーンの打ち上げの京子ちゃん、すごくきれいで印象的だったから。俺、忘れられなくてさ。」
いかにも自信ありげな顔つきで、笑いかけてくる男。

(こういう笑い方、どこかでみたことあるような・・・。)
そう思って、ああと気づく。
(そうか。ショータローだわ。エラそうに上から目線のバカ笑い。ショータローがよく見せる。あの笑いに似てるんだ。・・・ってことは、この人もきっとあのどーしょもないバカと同じ穴のムジナってことね、)

思わず後ずさりした身体を引き戻すように背に手を回され、キョーコは笑顔を張り付けつつ、心の中で大きく顔をしかめた。
しかし相手は、キョーコが内心嫌がっているとは夢にも思っていないらしい。
逆に微笑みかけられたことに調子に乗って、にやにやといかにもな笑いを浮かべながら、すり寄ってきた。
この俺の誘いを断るわけないよな、といったさも自信ありげな態度が、キョーコにはますます気に障る。

(あーもう、離してよ。それより、敦賀さんのことが気になってるのに。)
心の中でため息をつきながら、ちらりと蓮を盗み見た。

(また飲んでる・・・。)
幾人もの美人女優に寄り添われながら、華やかな笑顔を振りまく蓮。

(あ・・・)
不意に中の1人が蓮の肩に手をかけ、耳元になにか囁いた。
視線を絡めて微笑みあう2人の姿に、なぜか胸がギュッと疼き、思わずキョーコは目を逸らしてしまう。


(やっぱり、私の出る幕なんてないわよね・・・。)





(続く)

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