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【捧】 人魚の呪縛 (3)

イラスト中心ブログ」のなべちさんが8/27にUPしていらしたイラストへの捧げSSです。(初掲載:amebaブログにて)




「ストォーップ!ダメダメ!もう一度!」



監督のうんざりした声がかかる。
朝から続くキスシーンの撮影に、もう何度リテイクが繰り返されていることだろう。

「どうもうまくいかないな。2人とも、そんな大根じゃなかっただろ。
互いの瞳に心が吸いこまれていくように自然に惹きつけ合い、そして口づけを交わすんだ。もっとしっかり見つめ合って。気持ちを最後までもたせてくれ。
君たちの演技力なら、そう難しいことじゃないと思うんだが・・・。
とにかく、しっかり役に入り込んでくれ。しっかりと、なっ!」

監督の檄が飛ぶ。

「「申し訳ありません。」」
2人は揃って頭を下げたが、じつはミスを繰り返していたのは、蓮の方だった。

見つめ合い、引き寄せられるように顔が近づき、唇を寄せていく・・・その瞬間、小さく躊躇する。
ほんの僅かなためらいと戸惑い。
だが、カメラにアップで映し出された表情にはそれが如実に映し出され、リテイクにつながっていた。

「監督、申し訳ありませんが、少し休憩をいただいてもいいですか。気持を立て直して撮影に臨みたいので。」
蓮の言葉に監督が腕時計に目を向けた。
「うーん、そうだな。このまま続けても埒があかなそうだし、休憩を挟むか。じゃあ、1時間後によろしく。」

監督の許可が下り、蓮は振り向いて、後ろに立っていたキョーコに謝ろうとした。
「最上さん・・・。」

その瞬間――。
キョーコがはじかれたように走り出した。
慌てて蓮もその後を追いかける。

よびかける蓮の声に脇目もふらず、そのまま楽屋に飛び込んでいくキョーコ。
閉まりかけた扉をこじ開け、自分も部屋に入ると、蓮は静かに鍵を閉めた。
そして、奥の壁に向かって俯いたまま立ち尽くすキョーコの背後に歩み寄る。

「最上さん・・・ごめん。」

その声にハッとしたように肩が揺れ、キョーコがゆっくりと振り返った。
瞳に涙を溢れさせながら、それでも必死に微笑みを浮かべて。

「いえ、いいんです。そうですよね。いくら演技でも、私みたいな色気ゼロで恋愛対象外のお子さま相手に、敦賀さんのように大人で素敵な方が愛を込めたキスをしようなんて、そんなの無理がありますよね。腰が引けて当然ですよね。」

肩を震わせながら、しゃくりあげるように話すキョーコ。
それを遮るように蓮の鋭い声が飛んだ。

「ちがうっ!」

その瞬間、キョーコの肩がびくりと震える。

「ちがう、ちがうんだ。逆なんだ。逆なんだよ。最上さん。」
ためらいがちに伸ばされた蓮の両手が、キョーコの肩にわずかに触れた。

「俺が君に触れられなかったのは・・・、演技できなかったのは、君がお子さまだからじゃない。色気がないからでもないし、それに・・・対象外でもない。」

蓮はそこで大きく息を吸い込んだ。

「それは、俺が君を・・・君を本当に愛してるからなんだ。」

吐き出すようにそう漏らすと、蓮は何かが抜け落ちたように両手をばさりと落とした。

「言うつもりはなかった。でも、俺はもうこれ以上自分の心を欺くことはできない。どうしても本当のことを言わなくちゃいけない。
俺は・・・全身全霊で君を愛している。君に心のすべてを奪われている。
その君に・・・演技のキスなんて、できない。どうしても・・・無理だったんだ。」

「冗談はやめてください」
うっすらと瞳を潤ませ、キョーコは小さく声を荒げた。それに対し、

「俺は大真面目だよ。」
蓮が恐ろしいほど静かな声で答える。
その顔が真っ青になっていなかったら、キョーコは告げられた言葉を一切聞き入れなかったかもしれない。

「怒るなら怒ってもいい。否定するならそれでもかまわない。覚悟してるから。
言うのが早すぎたね。俺はもっと待たなければいけなかった。でも・・・本当なんだ。」

キョーコの瞳が大きく揺れた。

「怖がらなくてもいい。何も無理強いするつもりはないから。
そうやって怖がられて、傍にいられなくなるのが恐ろしくて、ずっと言えずにいた。君の笑顔が見られなくなるのが何より怖くて、ずっと言えなかった。
だけど・・・もういい。」
切なげに瞳を細め、蓮は瞬きを繰り返した。長い睫毛が幾度も上下するのが見える。

「君が誰を想っているのかはわからない。でも、相手が何者だろうと、俺はいつか必ず君を振り向かせてみせる。だから・・・傍に居続けるのを許してほしい。今はまだ尊敬する先輩でかまわないから。ただ、君を愛し続けることを許してほしい。
・・・もっとも、俺が君を愛するのを止めさせようとしても、それは無駄なことだけどね。」

いつも冷静な漆黒の瞳がいつになく強い色を湛えているのに気付き、キョーコは息を呑んだ。
蓮の眉目秀麗な顔は紅潮し、まるでとりついた情熱がそのまま彼を動かしているようにさえ見える。

「俺は君の傍から片時も離れたくない。もし、俺が君から離れている間に誰か知らないやつが現れて君を丸ごと奪っていってしまったら、きっと耐えられないから。そう、絶対に我慢なんかできない。そんなことがあったら、俺はきっとすべてを滅茶苦茶にしてしまうだろう。君も、その相手も、そして俺自身も。」

狂気に似た色が蓮の瞳に浮かび、キョーコの心に突き刺さる。

「だから・・・。俺を君の傍にいさせてほしい。このまま愛し続けさせてほしいんだ。」

瞳に宿った力を急速に失い、うなだれる蓮を見ながら、
(本気・・・なの?敦賀さんが私を・・・信じていいの?)
逡巡するキョーコの心には、恐ろしいほど力強く甘美な何かが、ドクドクと流れ込んできていた。


――刹那、沈黙が通り過ぎる。


(私は・・・・・・この言葉を信じたい・・・。この人を信じたい・・・。)

不意にキョーコの瞳から一滴の涙が零れ落ちた。
あのビデオクリップのラストで人魚姫が流していたソレに似た雫が、キラキラと輝きながら頬を滑っていく様を見つめながら、蓮はどんな宝石もこれほど美しくはないだろうと思う。



そして――。
まるで自分の持っているものを全部差し出すかのように、キョーコはその両手を差し出した。

「敦賀さん・・・。私はあなたに値するような人間ではないけれど、それでもこんなつまらないものを望んでくれるなら、私はあなたのものです。」

「君はつまらないものなんかじゃない。ちっともつまらなくなんかないよ。いや、待って。・・・それより、今君は何て言った?」
蓮の瞳が驚いたように見開かれた。

「俺のものになってくれると、・・・今、そう言った?」
キョーコは小さくうなずいた。

「君は以前、俺を尊敬しているといった。その気持ちからそんなことを言ってるんじゃなくて?」
「尊敬じゃ・・・ありません。」

「いつも相談にのってくれて嬉しいと言っていた。その感謝の気持ちからじゃなくて?」
「感謝でも・・・、ないです。」

「俺が・・・あんまり情けなく君に縋るから憐みをかけた?同情なんて・・・いらないよ。俺は君の愛が欲しいんだ。」

「どうして、そんなに疑り深いんですか?私もずっと・・・ずっと前からあなたのことを好きだったんです。何度も諦めようと思った。何度も否定しようと思った。でも・・・できなかった。」

そう言うとキョーコは、もうどうなってもかまわないというように自分から蓮の胸の中に身を投げ、黙ってその身体にすがりついた。
蓮もその身体をひっしと受けとめる。

沈黙が2人を包み・・・やがて蓮から小さな呟きが吐息とともに零れ出た。

「よかった。」

それが合図になったかのように蓮は大きく破顔し、両腕にぐっと力を込めると目の前の栗色の頭に顔を埋めた。
その動作に、キョーコがぽっと頬を赤らめる。
それから、つい心の赴くまま身を委ねてしまったことを恥じらうかように身をよじらせ、抱き締める腕から抜けだそうともがいた。

「だめだよ。そんなに早く逃げ出しちゃ。」
囁くと蓮は、抱き締めた腕はそのままに、キョーコの額にそっと自らの額を押しあてた。

「もう少し、このまま君の温もりを感じさせて。ずっと、ずっと望んできたこの温もりを、俺はやっと手に入れることができたんだから。」

キョーコの動きが止まった。
キラキラと輝くつぶらな茶色の瞳が、蓮の顔をじっと見上げる。
蓮はたまらずそっと顔を寄せると、その唇にやさしくキスをした。
瞬く間にキョーコの身体が固まり、小さな震えが蓮の身体へと伝わってくる。


震える耳元に唇を近づけ、蓮はもう一度囁いた。
「逃げないで。俺から離れていかないで。お願いだよ。」
そして、これ以上ないほどの力でキョーコの身体を抱き締めると、そのつむじに何度もキスを重ねていく。

「・・・逃げたら、どこまでも追いつめちゃうから・・・覚悟してね。」

そう言うと、蓮はようやく顔を離し、キョーコの瞳をそっと覗きこんだ。
端正で艶やかな美貌に、これ以上ないほど甘く優しい微笑が浮かび上がる。



「さあ、撮影に戻ろうか。今なら、いくらでも愛に満ちたキスができる自信があるよ。それも演技なしで。
ただし・・・俺だけの人魚姫さん限定で、ね。」





fin

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