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【捧】 人魚の呪縛 (2)

イラスト中心ブログ」のなべちさんが8/27にUPしていらしたイラストへの捧げSSです。(初掲載:amebaブログにて)




「え?ショートムービー、ですか?」
「ああ、そうなんだ。この間撮影したビデオクリップ。あれがものすごい評判でね。今度15分ほどのショートムービーを作ることになったんだよ。そこで、またぜひ君に主役をお願いしたいんだ。宜しく頼むな。」

以前撮影した人魚姫のビデオクリップがオンエアされるようになって僅か1ヶ月。瞬く間に、その映像はテレビやネットで話題となり、ネット上にアップされた動画も何千万回もの再生数を記録した。その反響の大きさから、今回の話も生じたのだという。
内容は、前回同様人魚姫をモチーフにしたショートムービー。セリフはなく、音楽と映像で物語が綴られる、抒情性を重視した作品になるらしい。

「いいかい。物語は嵐の海から始まる。蒼く澄んだ海の底。そこにゆらゆらと1人の青年が沈んでくる。
生と死の狭間を漂うその青年と1人の人魚の邂逅。2人は出会った瞬間に互いにひと目で恋に落ちる。その心を確かめあるようにゆっくりと交わす口づけ。
しかし、その瞬間に人魚姫は気づくんだ。その青年がまだ生きていることを。地上に愛すべき家族や仲間がいることを。
そして、彼女は彼のためを思い、青年を地上、すなわち自分とは相容れない世界に戻すことを瞬時に決意する。愛を得たからこそより強く感じる孤独と悲哀を心に秘め、それでも彼女は黙って、意識を失った青年を地上へと運んでいく。
ここでシーンは反転。ここから先は、海の中でひとり青年を想う人魚の切なく哀しい姿が映し出される。ただ、彼女に喜びもをもたらすのは青年の瞳と交わした口づけの記憶だけ。
海の中での出来事をすべて忘れた青年の、地上での生活がフラッシュバックされるなか、人魚の哀しさだけが全面に映し出される。で、ジ・エンド。」

「今回は、相手役がいらっしゃるんですね。」
映像を頭に思い浮かべながら、キョーコは尋ねた。

「ああ、そうなんだ。でも、君もよく知ってる相手だから、安心したまえ。」
「知ってる・・・?」
「たしか、同じ事務所だったよな。敦賀蓮くん。彼が今回の相手役だ。」
「つる・・が・・さん。」
「ああ、彼ほどの俳優がこの仕事を受けてくれるとは思わなかったよ。打診してみるもんだな。しかし、君の演技力も俺は相当なものだと思っている。2人の共演、楽しみにしてるから、よろしくな。」

監督の言葉に強い動揺が走る。
(敦賀さんが・・・相手役?う、そ・・・。)


*


1人になってからもキョーコは複雑な思いに捉われていた。

もし、本当に敦賀さんが相手役なのだとしたら、見られたくないと、見られちゃいけないとずっと願ってきたビデオクリップ。あれもきっともう見られてしまっただろう。
どうしたらいい?
もし、私が必死に隠しているこの想いも、すでに知られてしまったのだとしたら。

そこまで考えて、キョーコは自分に言い聞かせるように頭を振る。

ううん。きっと平気。
仮にこの想いに気付かれたとしても、それが自分に向けられたものだということまではわからないはず。
それさえ隠し通せば、きっと大丈夫。
きっと、まだ今までどおりでいられる・・・。


それより、敦賀さんとキスシーン、ですって?
今の・・・こんな想いを抱えた私が敦賀さんとキスなんて・・・本当にできるの?
キスシーン自体、経験もなくて怖くてならないのに。
それなのに、想いを寄せる本人を前にして、私はちゃんと演技ができる?
この気持ちを隠し通せる?

キョーコの頭の中を、ぐるぐると様々な思いが駆け巡る。

でも・・・。
ちゃんと演技ができなければ、敦賀さんに嫌われてしまう。
キスシーンだって難なくこなせなるくらいじゃなきゃ、そのくらいのプロ意識も持てないのかって呆れられてしまう。
そんなの・・・絶対にいや。


それなら―――。
溢れ出るこの想いをすべて演技なのだとごまかして、全力でやりぬくしかない。


ただ・・・人魚になりきって。



* * *



「社さん。ちょっとお願いがあるんです。」
「お?なんだ、蓮。俺にお願いだなんて珍しいな。最近、お前ちょっと落ち込んでるみたいだったしな。お兄ちゃんに出来ることなら何でも聞くぞ。」

「じつは・・・1本どうしてもやりたい仕事があるんです。」
「仕事?今だって目一杯仕事が詰まってるのに、まだなにかやりたいのか?」
「・・・はい。これだけはどうしても。」

「なんだ、またキョーコちゃん絡みか?」
「ええ、まあ。あの・・・最上さんが今度出るショートムービー。あれの相手役をどうしてもやりたいんですが、なんとか捻じ込んでいただけませんか。」
「は?キョーコちゃんのショートムービー?ああ、人魚姫をモチーフにってやつか。ははーん。お前、あのビデオクリップ、見たんだろ。」
「え?あ。まあ。」

「ふうん。まあ、そういうことなら、お兄ちゃん頑張るけどさ。だけどその代りに、お前も頑張ってちゃんと王子になるって約束しろ。そしたら、何としてもこの仕事押さえてきてやる。」
「王子・・・ですか?」
「ああ。それも童話通りじゃない。ちゃんと人魚姫と結ばれる王子だ。」
「・・・・・・。」

「おいおい、そんな顔するなよ。だいじょうぶ。お前ならできるって。」
「社さん、本気で言ってますか。相手は・・・彼女ですよ。」
「え?ああ。まあ、それもそうだな。ごめん。と、とにかく俺はお前を全力で応援してるからさ。そろそろどうにかなってくれよ。」
「それは俺だけの問題じゃ・・・とにかくよろしくお願いします。」
「ああ、まかせとけっ。」


事務所に足を運んだとき、耳にした彼女のショートムービーの話。
初めてのキスシーンがあるけれど、果たしてラブミー部員にこなせるのかと、椹さんが頭を抱えていた。

キスシーンだって?
その瞬間、危うく頭が沸騰しそうになった。
いくら演技といったって、そんなシーン、ほかのやつになんかやらせるわけにいかない。

絶対に。
何があっても阻止してやる。

そう心に誓った。
その決意が後に何をもたらすか、そのときは想像もせずに。




(続く)

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