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雨が雪に変わるまで (15)

…side 蓮…

1日、また1日とタイムリミットが近づく。
クリスマスまでに、彼女を捕まえなければ、取り返しのつかないことになる。
そんな予感が俺の心のすべてを占めていた。
ただ・・・どうすればいいのか、わからずにいた。

スキャンダルの件は、記者会見後、急速に収束へと向かった。
しっかり根回ししてあったことに加え、ちょうどドラマが佳境を迎えていたのも幸いし、ありがたいほど思惑通りに事が進んだ。
こうしてすべては以前のとおりに戻っていった。
ただ、最上さんと俺の関係を除いては・・・。

相変わらず電話はつながらない。
偶然会うこともなくなった。
社さんに彼女のスケジュールの確認を依頼したが、
「ごめん。蓮。まだ、例の件がきっちり片付いてないってことで、お前のとこにキョーコちゃんを行かせるわけにはいかないんだ。お弁当頼んだりもしにくくてな。でもな。これでもなんとか偶然会えるよう、いろいろ探っては調整してるんだぞ。だけど・・・なんでか会えないんだよなあ・・。」
そう言われた。

社さんは、不思議そうに首を傾げていたが、避けられていることにすぐ気づいた。
やっぱり・・・あのとき感じた俺の勘は間違っていなかった。
そう、思った。

だからといって簡単にあきらめられるはずがない。
必死になって、彼女を追いかけた。
そして、ようやく彼女を捕まられたとき、カレンダーはもう12月を迎えていた。


「最上さん!」
その日、見覚えのある茶色い頭をみつけた俺は、周囲も顧みず叫んだ。
遠目から見てもわかるほど、びくんとその頭が揺れる。
逃げる!そう思った瞬間、俺は取るものもとりあえず駈け出し、彼女の肩を捕まえていた。

久し振りに見た彼女。
やっと会えた、それだけで胸に熱いものがこみ上げてくる。
(やっぱり・・・好きだ。たまらなく・・・好きなんだ。)
けれど、彼女は笑顔よりも先に少し怯えたような目で俺を見つめ、ふっと視線を逸らした。
その現実が、何よりも辛い。

彼女の中で今、どんな変化が起きているのか。
会うたびに変わるその様子に、俺はただ、惑わされている。

それにしても・・・ずいぶんやつれたような・・・。

「お久しぶりです。敦賀さん。お元気ですか?いきなり肩を掴まれたので、驚いてしまいました。」
気を取り直したようにきれいなお辞儀をする彼女の、肩のラインはやはり以前よりずっと細い。
「うん。そうだね。相変わらず、ってとこかな。最上さんこそ元気?なんだか、少し・・・痩せたように見えるけど?」
さりげないふりをして聞いた。


そんなに憔悴したのは俺のせい?
俺は君にどんなひどいことをしたの?
いったい何をしたのか、聞いたら素直に教えてくれる?
それとも無理やり・・・聞き出してしまおうか。


驚いたように瞳を見開いたかと思うと、すぐ柔らかい微笑みに切り替え、彼女は答えた。
「ら、来春から始まるドラマの役作りなんですよ。それより、敦賀さんこそ、お元気といいながらなんだかお痩せになりましたね。どんなに大変でも、忙しくても、ちゃんとお食事は摂らないとだめですよ。」

最後に会ったときと変わらぬ抑揚のない喋りに、一瞬心が凍りつきそうになり、
「最上さんの作る食事を食べていないから・・・。」
思わず口にした言葉に、今度は彼女が息を飲む音が聞こえた。

「私が作らなくても・・・作れなくても・・・それでも・・・ちゃんと食べなきゃだめですよ。」
絞り出すような声。

「ちゃんと食事を摂って・・・しっかり演技して・・・私が目標にしている敦賀蓮でありつづけると・・・そう約束・・・してくださいね。」
彼女らしからぬその声に、その言葉に、ハッとする。

(なぜだろう。今・・・“色”が・・・見えたような気がする・・・。)

この前会ったときからつい今しがたまで、モノクロだった彼女の声。
それが今は・・・声の中にまっすぐ俺に向かう感情の“色”が見えたような気がした。

それは、小さな小さな若葉を滑る、朝露ほどの煌めき。
よく見なければ気づかないほどに薄く、ほんの一瞬煌めいたその光を、俺はその声の中に確かに感じ取った。
絶望が薄れ、淡い期待と微かな希望が胸を走る。

(今、このときを逃したくない。)
彼女をなんとか捕らえようと手を伸ばしたとき・・・、


「おお、最上君!!!チケットとれたぞ~!」
廊下の向こうから椹さんの声が響いた。
あっ!と顔色を変えた彼女は、俺に向かってちょこりと頭を下げると、瞬く間に椹さんのもとへと駆け寄っていった。
椹さんの声に一瞬戸惑ってしまったことを悔しがってももう遅かった。

廊下の奥で、椹さんとなにやら会話を交わしたかと思うと、彼女は封筒に入った何かを受け取り、そのまま俺のもとには戻ることなく去っていく。

なにをしてる。追いかけて彼女を捕まえるんだ。
そう思ったとき、後ろから社さんの声が響いた。
「れぇ~ん!時間だぞ。」
その声に焦って時計を見る。
もう、彼女を追いかける時間は残されていなかった。

それにしても・・・・・・チケット?
何かが心に引っかかる。

慌てて椹さんを捕まえて尋ねた。
「今、最上さんに話してたチケットって何なんですか?」
「ああ、最上君に航空券の手配を頼まれたんだよ。彼女、社長から年末に特別休暇をもらってたんだけど、そのタイミングでNYに行くんだと。ブロードウェイで本場の芝居を見て勉強したいっことでな。
まあ、そういうならって休暇も延長が認められて、年内は向こうにいることになったんだ。まったく、せっかくの休暇なんだからゆっくり休めって言ったんだけどな。相変わらず熱心な子だよ・・・。」


ニューヨーク・・・?
あいつが・・・いる・・・。あのニューヨーク?
まさか、今さら・・・?


あの日、俺は社長に答えた。
「ぜったいにあきらめません。彼女を捕まえるためなら何でもします。過去を公開してもかまわないと思っています。」
その言葉に偽りはない。
ただ・・・今までは、彼女の気持ちを第一に考え、大切にしたい、尊重したいと思っていた。
だからこそ、彼女に気持ちがないのなら俺が出る幕はもうないんじゃないかと、そんな想いに捉われはじめてさえいた。

でも、違う。
彼女の気持ちがどこへ向いていようと、俺はこの想いを捨てられない。
彼女をあきらめるなんて、何があっても有り得ない。

ほんの僅かでも希望が残されているなら・・・。
たとえ、相手が何者だろうと。彼女の心にどんな壁があろうと。俺はすべてを打ち砕き、彼女を絶対に手に入れる。

何としても。
絶対に。


・・・それがどんなに無様で、みっともない、諦めの悪い姿であったとしても。





(続く)

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