ある日のお兄ちゃん

撮影スタジオのドリンクコーナーにさりげなく放置されていたスポーツ新聞。
何気なくそれに目を遣った蓮は、小さな記事に釘付けになった。

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【ニュースリリース】
カインドードリンコは23日から、清涼飲料「キュララ」の新CMを全国でオンエア開始する。現在、人気上昇中の 若手女優・京子が出演し、爽やかな浴衣姿を初披露するという内容で、注目を集めそうだ。
 新CMのキーメッセージは『夏、爽やかキュララ』。「夏の自由型ドリンク」をテーマに、真夏の水分補給を好きな時に、お気に入りの場所で、楽しみながら、を提案。さまざまな場面での“ひとくち”を京子が演じる。

今回放送されるCMの設定は、木漏れ日とそよ風が差し込む夏の庭で、浴衣姿の京子が友人とおしゃべりをしながらキュララを楽しむというもの。庭の草木に水やりをしたり、空気を入れたビニールプールに足をひたして涼んだりなどを、はじけるような笑顔で生き生きと表現している。

京子によると、初めての浴衣姿での撮影とのことで、とりわけ新鮮だったようだ。「大好きな浴衣を着て撮影したので、テンションが上がってしまいました。浴衣を着ると背筋がピンと伸びるイメージがあるので、元気いっぱいに演じつつも、ちょっとした仕草や手の動きに気を配り、“浴衣美人”に見えるように意識しました。これを見た人から『色っぽいね』『女の子らしいね』って言ってもらえたら嬉しいな、なんて!(笑)」とコメントしている。

今回身につけた、赤や黄色の花をあしらった淡い生地に薄紫色の帯をあわせた浴衣も撮影のモチベーションを高めてくれたという。「やさしい印象で、色のバランスが素敵。とっても可愛くてお気に入りです!プライベートでも年に1回は浴衣を着ると決めているので、今年は浴衣姿で花火を見に行ったりしたいですね。浴衣姿でスカイツリーを眺めてみたり・・・、なんていうのも素敵かも」と、すっかり夏気分に浸っていた。

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「蓮!そろそろ時間だぞ。」
ドリンクコーナーに現れた社が、座ったままの蓮に声をかけた。
その言葉に蓮が、ゆっくりと目を上げる。

「社さん・・・スカイツリーに俺が行ったら目立ちますかね。」
「そりゃ、目立つだろう。そんなの聞くまでもないじゃないか。あれ?お前行ってみたいの?意外だなあ。そんなのに興味なんてからっきしないと思ってたのに。
・・・って、おい。なんだ。そういうことか。お前、それ見たんだろ。」
社が蓮の目の前にある新聞記事を指差して、にやりと笑う。

「下町散策も、スカイツリー見学も、ぜ~ったいだめだからな。昼だろうと夜だろうと、お前が行ったら目立ち過ぎ。とてもじゃないけど、許可できません!」
両手を腰に当て、子どもを叱りつける母親か教師のような口調で言う社。

「ま、そんな時間はとてもじゃないけどとれないだろうし、それ以前にキョーコちゃん相手じゃ、そう簡単にOKしてもらえないだろうけどな。」
茶化すように両手を挙げた社に、蓮はむっとしたように軽く眉をひそめる。

「だれも、彼女を誘っていくとか言ってないじゃないですか・・・。」
「えええ?違うの?じゃ、誰と行くつもりだったわけ?まさかお前が1人で行くわけないよね。」
「試しにちょっと聞いてみただけで・・・。」
「ふうん。じゃあ、キョーコちゃんに言ってもいいんだ~?蓮が誰かとスカイツリーに行きたがってたけど、キョーコちゃん、相手は誰だと思う?な~んて。」
「社さん・・・。」

(・・・やばい。言い過ぎた。闇の国が・・・)

「あ、いや。何でもない。気のせい、気のせい。それより蓮。お兄ちゃんがいいこと教えてやるよ。」
「なんですか。急に。」

訝しげに社の顔に目を向ける蓮。

「あ。お前、せっかく俺が“いいこと教える”って言ってるのに、ちーっとも信じてないだろう。そんな疑い深い子に育っちゃって、お兄ちゃんは悲しいぞ。」
「社さんに育てられた覚えはありませんけど・・・。」
「うん。俺もこんなでかいの育てた覚えないな。」

そう言うと社はにやりと笑って見せた。

「まあ、いいや。ほんとはもうちょっと黙ってるつもりだったんだけど、いいタイミングなんで、教えてやる。・・・あのさ。お前のマンションのリビングルームにやたら広い二面窓あるだろ。」
「はあ。たしかにありますけど。」
「あそこから、たぶん見えるんだなぁ~。あれが。」
「なにが、ですか?」

いつになく反応の鈍い蓮に、社はも~しょうがないなぁとでもいうような表情を見せ、調子よく喋り出す。

「おいおい、今話してたじゃないか。スカイツリーだよ。スカイツリー。」
「え?」
「方角的にも、距離的にも、高さ的にも、たぶん間違いなく見える。」
「そうなんですか!?」

一瞬喜びを顔に出しかけ、はっと気付いたように慌てて表情を抑える蓮を見て、社は我が意を得たりとでもいうようににたりといや~な笑いを浮かべた。

「ふふん。どうせお前のことだから、窓の外の景色なんて今まで気にも留めたことなかったんだろ。」
「あ・・・はい。まあ・・・。」
「だろうな。帰ったら見てみろよ。たぶんちゃんと見えるから。」
「はい・・・。」

珍しく勢いづいた社のペースに完全に巻き込まれている蓮。

「ほら、キョーコちゃん、べつにスカイツリーに行きたいって言ったとは書いてないだろ。ここには、“スカイツリーを見ながら”って書いてある。だから、場所はどこでもいいんじゃないかな。たとえば、お前ん家のベランダでも。そ、の、う、え・・・。」

社がさらに、にたっと少々いやらしい笑顔を浮かべた。

「なんと偶然にも来週、神宮の花火大会が開かれます。」

どうだっという顔をして宣言した社だが、蓮にはちっとも意味がわかっていなかったらしい。それがなにか?と言いたげな顔つきで不思議そうに社を見つめている。

「あ、お前分かってないだろ。じつはさ、お前のところからなら、花火もスカイツリーも両方同時に見えるはずなんだよね。つ、ま、り。花火とスカイツリー。なんとキョーコちゃんがその記事に書いている“浴衣姿でみてみたい”ものが両方、お前の家から見られるというわけ。」

にやにやと笑いが止まらない様子の社。
社の言葉に、ハッと気付いたように目を見開く蓮。その目が食い入るように社を見つめる。

「さて、ここで、いつもしっかり真面目に働いてくれる蓮くんに、お兄ちゃんからご褒美です。」

急に姿勢を整えると、社はさも得意げに話し出した。

「マネージャーとしての威信をかけて、・・・というのは言い過ぎだけど、お前のスケジュールも、ついでにキョーコちゃんのスケジュールもしっかり調整し、なーんと、来週の花火大会の夜、キョーコちゃんに夕食の依頼を済ませておきました。」
「え!?」

思わず驚きを声に出した蓮を見て、社がよしよしとうなずきながら満足そうな微笑みを浮かべる。

「どうせ2人とも現地に足を運べるわけがないからな。まあ、浴衣を着るかどうかはともかく、せめてベランダから2人でしっぽりスカイツリーと花火を楽しんでちょっとはソレらしい雰囲気作りに勤しんだらどうだ?」

再びにやりと笑い、そこで声を少しだけ顰める。

「ほら、そこで『色っぽいね』とか『女の子らしいね』とか言ってあげてさ。少しは進展させてみろよ。2人のか・ん・け・い。」

(ま、どうせ無理だろうけどな・・・。)

心の中でそう思ったことだけはしっかり隠し、社はそっと蓮の肩を叩き、耳元で悪魔のように囁いた。


「あ、ちなみに例の浴衣の販売元も俺、ちゃんと調べてあるから。もし知りたかったらお兄ちゃんに“お願い”してね。れ、ん、さん♪」





fin

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コメント

  • 2017/03/19 (Sun)
    23:07
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