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背中文字

その日も俺は、ラブミー部室で最上さんと幸せなひとときを過ごしていた。

もっとも、幸せに感じているのは俺だけで、彼女がどう思っているかはよくわからない。
ただ、楽しそうな笑顔を浮かべ、仕事のことや学校のことを、いろいろおしゃべりしてくれる彼女をみていると、この時間が彼女にとっても、けっして嫌な時間ではないんだなとほっとする。

「敦賀さんっ、ちょっとゲームしてみませんか?」
ふいにそう声をかけられた。
「ゲーム?」

小首を傾げ、悪戯っ子のようにくすくす笑う彼女が本当に可愛くて、思わずキスしそうになる。
いけない、いけない。
抑えなきゃ。

無表情になってしまった俺を見上げ、何か勘違いしたのか哀しそうな色をその瞳に浮かべる最上さん。
俺は、慌ててフォローに回った。

「どんなゲームなの?」
俺が浮かべた笑顔にほっとした表情を見せて、彼女は続けた。

「先日出演した番組でしたゲームなんですけど。背中に文字を書いて、なんて書かれたか当てるんです。すぐわかるかなって思ったんですけど、これが案外分からないものなんですよ。私もなかなか当てられなくて。敦賀さん、試してみませんか?」

「背中に文字を書くの?」

「ええ。私が一文字ずつ書いていきますから、なんて言葉を書いたか当ててください。」

「うん。わかった。じゃあ、ちょっと待って。」

着ていた上着を脱ぎ、シャツ1枚になって、彼女に背を向ける。

「ふふふ。敦賀さんの背中、ほんとに広いですね~。書き甲斐があります。」

彼女の手が俺の背にそっと触れるのを感じ、思わず心臓がドキンと跳ねる。
一気に鼓動が高まり、頬が熱くなっていくのを必死に抑える。

まったく、ちょっと背中に触れられただけでこれだ。
我ながら、この純情ぶりにはほんと呆れるよ。


「じゃあ、行きますよ~。」

俺のこの動揺になど、まったく気づいていない様子の最上さん。

君は本当に・・・そうやってすぐ簡単に俺を振り回すんだから。
このまま振り向いて、一気にどうにかしてしまおうか。
なんて、頭に浮かんだ邪な考えを慌てて振り払う。


『た』

彼女の指が背中を走る。
くすぐったいのか、気持ちいいのか、よくわからないけど。ただ、すごく気持ちがうきうきと浮き立ってくるのだけはよくわかった。

ほんと・・・バカだな、俺。

「た?」

「あ、全部書き終わったら終わりって言いますから、それから答えて下さいね。」
「うん分かったよ。」


『た』 『す』 『き』

「はいっ終わりです。」


「う~ん・・・たすき?」

背後からぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。

「すごい!正解です!じゃあ、次行きますよ。」

『す』 『き』 『や』 『き』


「・・・すきやき?」

「わあっ、また正解!敦賀さん、すごいですね!」

「そうかな?最上さんがわかりやすく書いてくれるせいだと思うよ。」

「そうかな。じゃあ、今度はすこし難しくしますよ~」


・・・・






ねえ、最上さん?


・・・俺の気のせいだろうか?

さっきから書いてくれる言葉に必ず「す」「き」が入っているように思えるのは。
そして、その言葉だけ、ほかよりも力がこもっているように感じるのは?

単なる気のせいとは、とても思えないんだけど。


ねえ、最上さん?


いくら鈍感な俺でも、さすがにこれだけ続くとおかしいと思うよ。
まさか、気づいてないなんて・・・ことはないよね?

わざとやってるって、思ってもいいよね?

うぬぼれても・・・いいよね?


ねえ、最上さん?


俺、今急に振り向いてもいい?
君がどんな表情(かお)をしているのか、どうしても確かめたいんだ。

どうしても。
確かめなきゃいけないと思うんだ。

君の気持ちを。


ねえ?



・・・ねえ?







「最上さん」

背を向けたまま、俺は最上さんにそっと声をかけた。

「はい。なんでしょう。」

答える声が少し震えてる。

「今度は俺の番。」

「え?」

「レディの背中に触るのは失礼だから、手のひらに文字を書くよ。当ててくれる?」

言いながら、後ろにいる彼女に向かって右手を差し出す。

「手、貸して?」

最上さんは何も言わず、差し出した手にその可愛らしい手をのせてくれた。

「目をつぶってね。いい?」

「はい。」

のせられた手が、声と同じくらい震えてる。
たぶん・・・。
俺の手も、声も、同じように震えてると思うんだ。
君はそのことに・・・気づいてる?


「じゃあ、いくよ。」


『ア』 『イ』 『シ』 『テ』 『ル』


書き終える少し手前で、さっと逃げようとした彼女の手を素早く握り締める。
そして、その手を少し強引にぐっと引いた。

不意の衝撃にバランスを崩し、倒れかかってきた身体を、振り向きざまにしっかり抱きとめる。
そのまま、すとんと俺の腕の中に収まる彼女。

びっくりするほど華奢で、マシュマロみたいに柔らかいその身体があまりに心地よくて、ついもっと力をこめて抱き締めてしまう。

この腕の中で、ギュッと目を力いっぱい閉じたまま真っ赤になってプルプル震えている君が、何よりも愛おしい。



――――ああ、俺は・・・ようやく君を手に入れられた。そう思っても、いいかい?


しばらくそのままでいると、彼女が静かにその瞳を開き、俺をじっと見つめて呟いた。
「ほんとう・・・ですか?信じても、いいんですか?」

揺れる瞳とともに言葉が漏れる。
俺が何よりも待ち望んでいた言葉。

「信じて、最上さん。ずっとずっと昔から、君だけを愛してる。誰よりも、何よりも、大切に想ってる。本当だ。」

ほしかった言葉とともに腕の中から届けられた彼女の甘い香り。
それが、必死に抑えていた本能を呼び起こしてしまう。

俺はどうにも我慢しきれず、そのさくらんぼのような唇にそっと口付けた。
ただそれだけで、身体中に広がっていく悦び。

その気持ちを噛み締めながら、至近距離にあった真っ赤な耳に囁く。


「ようやく・・・つかまえた。もう、ぜったいに離さないからね。」
俺はわざと彼女が帝王と呼ぶ笑いを浮かべた。

「覚えておいて。君はもう俺のモノだから。俺だけのモノだから。」



そして俺はもう一度、彼女の唇を奪った。





fin

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