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雨が雪に変わるまで (13)

頼まれた仕事など、本当はなかった。

いつのまにか降り出した雨。
まだ昼過ぎだというのに、そうは思えぬほど暗く憂鬱な空が広がっている。
その空の下を、キョーコは傘も差さず、近くにある自宅マンションへと走っていた。
カバンから取り出したコーンをひっしと握り締めて。

打ち付ける雨が身体中を濡らし、零れ落ちる涙を隠してくれるから。
こみ上げる嗚咽が漏れても、激しい雨音が隠してくれるから。
降りしきる雨も今はありがたかった。


どうして敦賀さんはあんなことを私に言うんだろう。
ただの共演者、だなんて。
どう考えたって、敦賀さんのキョーコちゃんはあの人なのに。
あの人以外、ありえないのに。

頭の中の混乱が収まらないまま、ひた走るキョーコ。
その身体に濡れたブラウスが張り付き、次第にその身体のラインを露わにしていく。
まるで今の心の形が丸裸にされていくように。

ああ、そうか。そうよね。
事務所がなんとかもみ消そうとしてるのに、「違う、本当に彼女のことが好きなんだ」なんて。
いくら愛に寛容なLMEが相手でも、簡単に言えるわけないわよね。
だって、敦賀さんはあの“敦賀蓮”なんだもの。
ましてただの後輩に・・・本当のことなんて言えるはずない。


頭の中に次々と浮かぶ蓮の面影。
振り払っても、振り払ってもそれを消すことはできない。
それどころか、淋しくて、悲しくて、辛くて、苦しくて・・・そんな気持ちが露呈していくだけだった。



――――もう自分で自分をコントロールできない。

こんなに好きになって・・・どうすればいいんだろう。
隣にいる誰かと微笑みを交わす敦賀さんを、こうやって思い浮かべるだけで、身体中の細胞が悲鳴をあげる。

会って・・・顔を見て・・・声を聞いたらよくわかった。
3年前になんて戻れない。
演技なんて、できない。
どんなに自分に言い聞かせても、どんなに違う自分を作ろうとしても、敦賀さんに向き合うだけで、ふっと元の自分に戻ってしまう。

私は・・・こんなにも敦賀さんが好き。
どうしようもないくらい好き。
たとえあの人が誰を好きだろうと・・・この気持ちを捨て去ることなんてできない。



走りながらキョーコは、蓮への気持ちを何度も反芻する。
マンションに着くころ、雨はいつの間にか土砂降りに近くなっていた。


* * *


その頃、事務所ではスキャンダルの裏側が次々と明らかになり、対処が進められていた。

清純派女優として鳴物入りでデビューした深見恭子は、当初こそ人気を集めたものの、その後今一つぱっとしなかった。
そのため、今回運よく蓮の相手役を射止めたのをいいことにスキャンダルをでっち上げ、注目を浴びようとした。それを踏み台に清純派一本のイメージから脱却、話題を集め一躍のし上がろうと画策したらしい。
マネージャーが、蓮が指輪を頼んでいるという情報をどこからか入手したのが、計画開始のきっかけとなった。
宝石店で偶然会えるよう待ち伏せし、あらかじめ待機させておいたカメラマンに写真を撮らせ、スキャンダル写真を売り込んだのだ。


―――――社長室。

「いずれにせよ簡単にもみ消せるような話じゃなかったってことですかね。」
マスコミ対応に追われ、疲れきった顔をした松島がいう。

「だとしても・・・油断してました。本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
頭を下げる社と蓮。

「いや、今回は向こうも相当計画的だったからな。どうしようもなかっただろう。」
ローリィがねぎらう。
「まあ、あんまり気にするな、社。ハリウッドの件についても、予定通り進められそうだから安心しろ。ただ、記者会見だけは避けられそうにもないからそのつもりでいてくれ。」
「・・・はい。」
「記者会見は準備ができ次第行う。交際は全面否定だ。」
そう宣言するとローリィは、ぐるりと全員を見回した。

「今回の件は、すべてテレビドラマの番宣だと思わせる方向で進める。宝石店の件をつっこまれたら、そこのCMを蓮がすることになって打ち合わせしてたってことにでもしろ。先方も了承済みだ。まあ、顧客のプライベートが流出するような店だと思われたら店にとっても不利益だからな。」

話を聞いていた3人が一様にうなずく。

「深見サイドとも、お互い否定の方向でなんとか話をつけた。だからもう心配ない。安心しろ。」

その言葉に、松島と社は少しほっとした顔を見せた。
「わかりました。」
「おう。そうしたら、2人はさっそく記者会見の手配に動いてくれ。蓮は・・・少しここに残れ。」

*

「おい、蓮。」
2人が去った部屋で、残された蓮はローリィの視線をまともに受けていた。

「お前、さっそく偶然のふりして最上君に会っただろ。・・・ったく、我慢のできないやつだな。まあ、どうせあっさり撃沈したんだろうが。」
その言葉に、蓮はくっと唇を噛みしめる。それをみてローリィがにやりと笑った。

「で、どう攻略するつもりだ?それとも・・・このままあきらめてハリウッドにいくのか?」
「あきらめません。あきらめられるわけないじゃないですか。」
思わず声を荒げる。が、ローリィはまったく意に介さず、逆にふふんと鼻で笑った。

「ほう、そうか。しかしタイムリミットまではあとわずかだがな。」
「笑いごとじゃありません。俺だって必死なんです。捕まえられると思った矢先に、理由もわからずに逃げられて・・・。」
そっぽを向き、唇を噛み締めながら蓮が、吐き出すように言い放つ。
それをみて、ローリィはからからと楽しそうに笑った。

「お前がそんなに感情を露わにするようになるとはな。正直こんな状況でなければ、めでたくてパーティでもしているところだ。おい、蓮、そうやってると、年相応に見えるぞ。ただの恋愛音痴な若造にな。」

「面白がらないでくださいっ。俺にとっては冗談で済まない話なんですから。」
「そらそうだわなー。指輪まで用意しといて、このざまなんだから。」
鼻で笑う。
「抱かれたい男NO.1とか言われてるお前が、手も足も出ないどころか、愛の言葉ひとつ言えずに、そのうえ何にもしてないのに振られてるんだからな。まったく笑っちまうよ。」
いかにも楽しそうに笑いながらローリィは、テーブルの引き出しから小さな小箱を取り出し、蓮へ放り投げた。

「ほらよ。」
危うく受けとめる蓮。

「こ、これは・・・。」
「代わりに受け取っておいた。まあ、いつ渡せるかわからんが、お前があそこまでしてせっかく用意したんだ。無駄にしないよう、せいぜいがんばれ。」
そう言うと、ローリィは目の前のテーブルに両手をつき、頬杖をしながら蓮をじっと見つめ直す。


「いい加減、捕まえてみせろ。それと・・・何があってもあきらめるな。逃げ出すな。ちゃんとすべて受けとめろ。わかったな。」


* * *


キョーコは、ずぶ濡れになった身体を両手で抱え込むようにしながら、部屋に足を踏み入れた。
がらんと薄暗い空間。
(寒い・・・。)
身体がぶるりと震えた。
急いで電気を点けようとして、室内の電話が光を点滅されていることに気付く。

留守番電話・・・?

めったに使うことのない、あまり番号を知らせてもいないこの電話に・・・?
電気を点けるのも後回しに、急いで録音ボタンを押す。
ピーという電子音の後、掠れた声が響いた。


『もしもし、俺・・・。』




(続く)

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