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雨が雪に変わるまで (11)

「おうっ、来たか。そこに座れ。」
憔悴した蓮にとくに気を払う様子もなく、ガウン姿のローリィがソファへと促す。2人は促されるままソファへと腰を下ろした。
「まったくとんでもないことになったな。まあ、仕方ない。社、とりあえず状況を説明しろ。」

事情を聞いたローリィは、視線を床に落としたまま黙り込む蓮に目を向け、咥えていたパイプの煙をぷかーっと吐き出した。

「ったく、さっさと行動しておかないからこんなことになるんだ。どうせ急にハリウッド行きが決まって気が焦ったんだろう。しかし、まさかお前がこんなに脇を甘くするとはな。(これだから恋愛オンチは・・・。)」
あきれたように笑い、それからすぐに顔を引き締める。

「まあいい。蓮、今日はこのまま俺の家に来い。どうせ家にいれば、報道陣に囲まれてくたくたになるだけだ。事の次第がわかるまでうちでのんびりしてろ。社、スケジュール的には問題ないか?」

社は急いで手帳をめくる。
「来年のことを考えて仕事を絞っていたので、数日であればなんとかなると思います。」
うなずくローリィの瞳が蓮を見遣りキラリと光った。
「ああ、それから蓮。自宅に戻れるようになっても最上くんを家に呼んだりするなよ。しばらくはお前から連絡とったりするのも一切禁止だ。わかったな。」

その言葉に、蓮がさっと顔を上げる。追い詰められた表情。
「でも、社長!」
「“でも”も“だって“もない。」
「しかし、これはすべて・・・。」
「ガセだって言いたいんだろ。そんなの分かってる。だがな。相手に否定する気がない以上、こっちとしてもまず、向こうの出方をみなきゃいかんのだ。お前のハリウッド行きの件もある。しっかり対策しないととんだ事態になりかねない。
それに・・・これはお前を守るためだけじゃなく、最上君を守るためでもある。彼女も大事なうちの看板タレントだからな。ここでお前のスキャンダルに巻き込むわけにはいかん。」

ローリィの言葉に、蓮はそれ以上反論できなかった。
確かに自分の我儘を通す状況でないのはわかっている。しかもキョーコを守るためといわれればなおさら言葉を返せない。

(でも今、彼女とちゃんと話をしなければ・・・。)

強く唇を噛む蓮を横目で見ながら、社が小さく声をかける。
「蓮。キョーコちゃんには俺から話するから。とにかくお前は動くな。」
「すみません。社さん。お願いします・・・。」

蓮を安心させるように笑顔でうなずくと、社はローリィへ向き直った。
「それより社長、ひとつ気になることが。今撮ってる・・・蓮が深見恭子と共演してるドラマですが、最終回が来月末なんです。で、その番宣を兼ねて2人でバラエティに生出演する予定が入ってるんですよ。内容的に出演キャンセルはなかなか難しいかと思うのですが・・・。」
「番組はなんだ?」
「“やっぱきまぐれロック”です。ちょうどドラマの前枠で、年末特番で生放送の予定だとか。」
「・・・仕方ないな。あれはうちのタレントがMCをしてるからどうにかなるだろう。だが、それまでにある程度沈静化させる必要はあるな。こっちでも裏を調べさせるが、社、お前も状況の把握に努めろ。とにかく向こうが否定しないってのが引っ掛かる。」
「蓮が嵌められた・・・ってことですか?」
「たぶんな。」

ふーっと大きく息を吐いたローリィは再び蓮を見た。
「ところで蓮。お前、指輪を買っていたというのは本当か?」
蓮がハッと顔を上げた。

指輪・・・
彼女への想いを込めた大事なプレゼントだから、自分ですべて手配したかった。
これだけは、誰にも頼りたくなかった
それが・・・まさか裏目に出てしまうなんて。

表情をみただけで、ローリィには答えがわかったらしい。
「相変わらず、ずれた行動をとるやつだな。焦る気持ちはわかるが、そういうのはまず最上くんとうまくいってからだろうが。まあ、ようやく行動しようと決めたことだけは褒めてやる。しかし・・・覚悟しろよ。蓮。これでラスボスがさらに難攻不落になったってことをな。」

* * *

それから数日間は予想通り大騒ぎだった。
これまでスキャンダルとは無縁だった芸能界一イイ男のゴシップに、芸能界は騒然とした。相手である深見恭子のコメントが騒ぎに拍車をかける。蓮のマンションには大勢の報道陣が昼夜を問わず押しかけ、LMEは対応に追われた。

その多忙の間隙を縫って、社はキョーコに連絡を入れた。
「あ、キョーコちゃん、あのね・・。」
「あ・・・社さん。お久しぶりです。」
電話の向こうの声だけでは、その表情は読み取れない。

「あの、ね、蓮のことなんだけど・・・。」
「テレビで見ましたよ。びっくりしました。相手の方・・・深見恭子さん?すごくきれいな人ですよね。一度敦賀さんとご一緒のところにお会いしました。とってもお似合いで・・・。こっちが照れちゃうくらい・・・お2人、仲良しだったんですよ。やっぱり敦賀さんにはあれくらいきれいな方がお似合いですよね。」
「あの、キョーコちゃん?」
「あんな素敵な方がいらっしゃるなんてちっとも知らず私ったら、敦賀さんにいろいろ頼ってご迷惑ばかりおかけしてすみませんでした。これからはちゃんと配慮するようにしますから。社さんにもご心配をおかけしちゃってごめんなさい。」
「ちょ、ちょっと、キョーコち・・」
「敦賀さん、今は大変でいらっしゃいますよね。お身体くれぐれも大切にしてほしいってお伝えください。ちゃんとご飯食べないとだめですよって・・・あっ、それは彼女さんがいう言葉でしたね。ふふっ。ごめんなさい、つい。」
「キョ・・・」
「いけない!申し訳ないんですが、今から撮影なんです。これで失礼しますね。」

取りつく島もなかった。蓮になんと伝えたらいいのかわからない・・・。

この数日、社長の家に待機していた蓮だが、明日には仕事に復帰する予定になっていた。キョーコに会うどころか連絡も禁止され、すっかりやつれて見える蓮を、社はなんとか元気づけたかった。だが、肝心のキョーコがこの調子では・・・。

「社さん、最上さんと連絡つきましたか?」
恐る恐るといった様子で社に尋ねる蓮に社はとまどう。
「・・・まあな。お前のスキャンダルについてはそれほど気にしている感じはなかったぞ。大変だろうけど身体を大事にしてほしいって心配してた。あと、ちゃんと食事するように伝えてくれって。ただ・・・彼女も忙しそうで、それくらいしか話せなかったよ。すまないな。」
それでも社の返事を聞き、蓮の眼に小さな光が宿る。

(嘘は・・・ついてないよな。俺・・・。ただ、余計なことはしゃべってないだけで。)
社の良心が少し咎めた。

「社さん、明日は俺たち事務所へ顔を出す予定ですよね。すみませんが、彼女のスケジュール、確認してくれませんか。とにかくどうにかして直接顔を合わせて話がしたいんです。社長も、偶然でも会わないようにしろとまではいいませんでしたから・・・。」


* * * * *


あの日、モー子さんから借りたサングラスと帽子を身につけ、泣き腫れた顔を隠すようにして私は帰途についた。

どうして気づいてしまったんだろう。
あの人を好きだということに。
どうして認めてしまったんだろう。
気づかなければ、認めなければ、微妙な距離のままずっと傍にいれたのに。
後輩という曖昧な立場で、それでも傍にいれたのに。

何度も繰り返しそう思い、そのたびにモー子さんの言葉を思い返す。
けれど何度考えても、モー子さんが言ったような答えは出せなかった。

3年前に戻ろう。
敦賀さんの後を何も考えずひたすら追いかけていたあの頃に。
尊敬する先輩俳優に早く追いつき、認めてもらいたいとただそれだけを願っていたあの頃に。
この気持ちはもう誰にも見せず、心の奥の自分でも気づかないような場所にもう一度しっかり封じ込めて。
そして、あの頃の自分になってしまえばいい。
そうすれば・・・きっとまだ、もう少しは・・・一緒にいられる。
大丈夫。
だって私は昔の私とは違う。まだまだ駆け出しでもいっぱしの女優になったんだもの。3年前の自分くらい、演じられなくてどうするの?自分で自分のことだって、騙せなくてどうするの?

それがモー子さんが言う“逃げ出す行為”だとわかっていても、結局私に出せる答えはそれしかなかった。

*

翌日、ドラマの撮影に向かっていると携帯が鳴った。
(会社から・・・?)
番号を確認し、慌てて電話に出る。
「あ、キョーコちゃん、あのね・・。」
飛び込んできた社さんの声。出てしまったことを悔やんだが後の祭りだった。
敏感な社さんに心の動揺を気づかれぬよう、精一杯さりげなく、何気ないふりをして言葉を返す。
3年前の自分を思い起こしながら。
あの頃の自分を・・・演じる。


3年前。3年前。3年前・・・。
社さんとの電話を切ったあとも、ずっと念じていた。いつ敦賀さんに会っても大丈夫なように、自分で自分に暗示をかける。
家にいても、自転車に乗っていても、テレビ局にいるときも。

事務所にいてもそうだった。
3年前、3年前。3年前・・・。
唱えていないと余計なことをどんどん考えてしまう。
だから、心の中で呪文のようにその言葉を繰り返した。
エレベーターの到着を待つ間も。
そのとき―――、ぼんやりとただ視界に映っていただけのエレベーターの扉が音もなく開いた。

(敦賀さん!)

誰よりも逢いたくて、誰よりも逢いたくない人がそこにいた。
呆然とする頭を振り、思考をクリアにしようと試みる。

「最上さん・・・。」

涙が出そうなほど懐かしい声が全身に沁みわたっていく。
待ち望んでいた優しい微笑みを向けられ、震えそうになる身体を必死に抑える。

『本番スタート!』

そのとき、頭の中でカチンコが鳴った。





(続く)

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