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雨が雪に変わるまで (10)

・・・side 社・・・

スキャンダル発覚の第一報が俺にもたらされたのは、蓮とともに日本へ戻ってきてすぐのことだった。

夕刻、空港に着いた俺は、そのまま帰宅する蓮と別れ事務所へと向かった。
「おいっ社!こっちこい!」
俳優セクションの扉を開けた途端、固い面持ちの松島さんに呼ばれる。
「ちょっと会議室にいいか?大事な話がある。」

(なにか起きたらしい。)

嫌な予感がした。
反射的に頭に浮かんだのはキョーコちゃんのことだった。
キョーコちゃんとのことがマスコミにばれたのかもしれない。
以前に比べずいぶん積極的になった蓮は、何かと理由をつけてはキョーコちゃんを呼び、家に泊めている。蓮はもちろん、キョーコちゃんだってかつてと違い最近はマスコミから大注目の売れっ子女優だ。いくら蓮が注意深い男といっても、どこに落とし穴があるかわからない。

(まあ、でもキョーコちゃんなら。)

そういう思いもないわけではなかった。2人がそのつもりなら、その交際を反対する人間は社長以下社内には誰もいないだろう。この3年の間にキョーコちゃんも若手とはいえ確固たる地位を築きつつある。昔と違い、アイドルや俳優の恋愛も当たり前と受け入れられるようになった昨今、それほど大きな問題は生じるまい。そんな気もした。

しかし、会議室に入ってなお松島さんが周囲を気にしながら俺に囁いた内容は、予想を大きく裏切るものだった。
「蓮の写真が出る。相手は深見恭子。困ったネタ付きで、しかもあちらさんは否定しない気らしい。」
予想外の内容に空いた口がふさがらなかった。
(深見恭子・・・?)
一瞬誰か分からない。それが今、蓮が共演している若手女優だと気付くまで、少し時間がかかった。
「ネタ付・・・ですか?」
「ああ、蓮が宝石店にいるところを目撃されている。しかも指輪を注文していたらしい。お前知ってたか?」

口がぽかんと開いた。蓮が・・・指輪・・・?
どういうことだ。キョーコちゃんとうまくいったなんて話は聞いてないぞ。いや、それより深見恭子とツーショットってどういうことだ?
さっぱりわけがわからない。

油断していた。
蓮のマネージャーになって約5年。スキャンダルなど噂の欠片も出さない担当俳優の隙のなさに甘え、どうやら俺の気はすっかり緩んでいたらしい。
今回の撮影に同行が決まったときも、「まあ1週間のことだから」と不在中の蓮に関する事務処理をつい新人に依頼してしまった。
が、それが仇となった。
そのネタの買い取り要請があったのが、ちょうど1週間前。上手く対応ができず抱え込んだ新人のミスで、気づいたときにはもう記事を押さえることができなくなっていた。自分のしくじりを悔やむとともに、蓮の、そしてキョーコちゃんのことが頭をよぎる。

この数年で、ずいぶん距離を縮めた二人。
傍から見れば、もうつきあっているかのようにさえ見える。
けれど、どんなにそう見えても、二人の心がまだしっかりと結ばれてはいないのを俺は知っている。
そのことに蓮がかなりあせりはじめていることも。
そんな矢先に浮上したこのスキャンダルが2人にいったいどんな影響をもたらすのか・・・正直考えたくなかった。


とにかく蓮に連絡をとらなければ。
気持ちが焦る。
慌ててカバンから携帯を取り出し、蓮の番号をプッシュした。
プーップーップーッ・・・プツンッ

話中?と思った瞬間、電源が落ちた。
「しまった!」
手袋をし忘れたことに気付いたときにはもう後の祭りだった。
まったく、俺は何をやってるんだ・・・。
自分で考える以上に、気持ちが焦っているらしい。

とりあえず、急いであいつのマンションに向かおう。
詳細が判明するまでどこかに身をひそめてもらうしかないだろう。
(そういえばあいつ、帰ってきたらキョーコちゃんに夕食作ってもらう約束したって喜んでたな。)
まずい、と思った。
今、キョーコちゃんがあいつのマンションに行ったら、とんでもないことになりかねない。
慌ててタクシーを飛ばす。
幸い今はまだマスコミにこのネタは広がっていない。
だが、明日は違う。
明日がくるまえに、やるべきことをやってしまわねば。


* * * * *


扉が開くのももどかしくしゃべりはじめた俺は、目の前の男が何の返事も返さないことに気付いて言葉を止めた。
すっかり表情を失い、小さな子供のように体を震わせながらこちらをじっと見つめる1人の男。
これが、あの敦賀蓮なのか・・・?
ついさっきまで、輝かんばかりの笑顔をふりまき周囲を魅了していた男と同一人物とはとても思えない。
ぽっかりと空いた虚無の瞳。深い闇の奥に堕ちてしまいそうな錯覚を覚えた。

「そんなことより、社さん。最上さんの荷物がなにもないんです。なにも。どこにも。」
自らのスキャンダルなどどうでもいいと切り捨てる蓮のありえない憔悴ぶりに俺は呆然としていた。

マネージャーとして、ある意味ひとりの友人として、蓮のことは知り尽くしたような気でいた。ほんのわずかの人間しか気付いていないこいつの想いにも俺は気付けたのだから。
けれど、今目の前にいる男を前にして、俺は何の打つ手も持たない自分を認めざるをえなかった。

どうすることもできず、慌てて社長に連絡を入れた。
「すぐ、連れてこい。俺が話をする。今、迎えをやるからそこで待ってろ。」
その指示に俺は思わず安堵のため息を漏らしたのだった。





(続く)

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