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雨が雪に変わるまで (9)

「ほんとの・・・気持ち・・・。」

「そうよ。自分の気持ちにちゃんと向き合うこともせず、ただ逃げ出すだけじゃ、ずっとなんにも状況は変わらないの。そうやってぐじぐじしてたって、あんたはいつまでもそこから抜け出せない。その気持ちを時間が解決するなんて、そんな都合のいいこと絶対ないんだから。」

その言葉にキョーコの大きな瞳一杯に再び涙の粒が盛り上がってきた。

「いい?あんたは今、一本道の真ん中で立ち竦んでる。何か分からないけれど、とにかく恐ろしいものがこの先で待ち受けている気がして、前に進めずにいる。
そのうえ、それが本当に恐ろしいものなのか確かめようともせず、その場でただうずくまってそれが消えるのをじっと待ってる。消えないならいっそここから逃げ出してしまおうかと考えながら。・・・違う?」

否定ができない。

「私が知ってるいつものあんたは、そんな後ろ向きな子じゃない。どんな困難が前にあろうと、思い切ってぶつかっていく子だった。自分の気持ちに正直に、まっすぐ突き進んでいく子だった。どうして今、それが出来ないの?」

奏江の言葉が矢のように突き刺さった。

キリキリと痛む胸を押し隠し、必死に奏江の言葉を追う。

「それは・・・“当たって砕けろ”・・・ってこと?」
「あのね・・・。あんた、砕けるのを前提にしてるでしょ?」
キョーコの言葉に小さくため息をつく。

「そもそも“当たって砕けろ”は、そんな悪い言葉じゃない。ただ思ってるだけじゃ、何も変わらない。どんなことだってやってみないとわからない。そういう言葉よ。あんただって、そういう気持ちでずっとこの世界でがんばってきたんでしょ?」

そう言うと奏江は、じっとキョーコの目を見つめた。

「結果はどうあれ、やったことの後悔よりやらなかったことの後悔の方が大きい。それこそ一生引き摺り続けるくらいにね。私はあんたにそんな後悔してほしくないの。」

やさしく、それはそれはやさしく慈しむような表情を浮かべる。

「だから・・・ほかでもないあんた自身のために、あの人に本当の気持ちをぶつけなさい。正直にありったけの気持ちをぶつけてしまいなさい。あんたの好きなあの人は、まっすぐな気持ちをただ無碍にするような人じゃないでしょ?そして、向けられた正直な気持ちを偽りの優しさで煙に巻く人でもない。そうでしょ?」

奏江はゆっくりと、ひと言ひと言を噛み締めるように話した。
キョーコの全身に自分の言葉を染み込ませようとでもするように。

「大切な人が離れていくのを怖がる気持ちはわかる。でも・・・」

小さく息をのむ音が響く。

「あんたにとって大切なのは敦賀さんだけなの?あんたは私をなんだと思ってるの?私はあんたの何なの?」

思いがけぬその言葉にキョーコが大きく瞳を見開く。

「親友でしょ?これから先死ぬまでずっと私はあんたの親友。そうじゃなかったの?」

キョーコの顔がくしゃりと歪んだ。

「私だってあんたを大好きだし、大切に思ってる。だから、あんたが悲しい顔をしてれば気になる。辛そうにしてたら理由を知りたくなる。そういうあんたをなんとか守らなきゃって思う。」
照れくさそうに、ぷいっとそっぽを向く奏江。

「私だけじゃない。天宮さんだって、マリアちゃんだって、だるまやのご夫婦だって、きっとみんな同じことを言うわよ。それだけみんなあんたのことが好きなの。大切なの。あんたも、みんなのことが好きでしょ?」
「好き、だけど・・・」
「だけどじゃない。みんなを好きだって気持ちをちゃんと認めなさい。もし敦賀さんへの想いが砕けたとしたって、あんたがもってる“誰かを好きだと思う気持ち”すべてが砕けたわけじゃないってことを認めなさい。」

「モー子さん・・・。」

「いい?もう一度言うわ。あんたがあんたであるかぎり、みんなあんたが大好きで、一緒にいたいと思い、何かあれば支えてあげたいと思ってる。恋愛の好きとは違うけれど、だからこそぜったい消えない気持ちで、みんなあんたのことを大好きなの。」

奏江はそこで大きく息を吸い、そしてゆっくりと言葉を続けた。

「だから安心して。怖がらなくていいから。何が起きても私たちがあんたを支える。前へ進めないときは、ちゃんと手を引いてあげる。だから・・・、あんた自身のこれからのために、勇気を出して自分の気持ちに立ち向かいなさい。」

それから奏江はキョーコのカバンに手を伸ばし、横ポケットから携帯を取り出した。

「まず、ちゃんと本人に真実を確かめなさい。どうせあんたのことだから勝手に結論決めつけて、敦賀さんからの電話に出たくないとか思って電源落としてたんでしょ。昨日電話したのに全然つながらなくて困ったんだから。」

そう言うと携帯の電源を入れる。
途端にメールの受信音が鳴り始めた。

「あんた・・・どんだけ電源落としたままにしてたのよ。」
奏江は心底あきれた声を上げ、キョーコに携帯を手渡した。


そのとき、突然電話が鳴り響いた。
『敦賀さん』
画面の表示は、その電話が話の中心人物であることを示している。
「誰!?」
「えっと・・・」
「あの人なんでしょ?そうなんでしょ?・・・さっそく弁解しにかけてきたのね。」
「・・・」
「出なさい。」
「え?」
「今すぐ出なさいって言ってるの。出て、あんたの気持ちをぶつけなさい。」

叱咤されても、まだキョーコは動けずにいた。
この3年間、自分に向けられていた蓮の優しい笑顔、温かい眼差し、思いやりに満ちた言葉、差し伸べられる手・・・・・・、そのすべてが頭の中をぐるぐる回る。
奏江の言うように、すべては自分の勝手な思い込みなのかもしれない。でも・・・。

そのとき、深見恭子に向けられていた蓮の神々笑顔が大きく脳裏に蘇った。


「・・・無理。やっぱり無理。モー子さん・・・。」
キョーコはそう言うと、俯いたまま携帯の電源を再び落とした。
その動きを奏江がじっと見つめる。


「そう・・・。あんたがそのつもりなら、私はもうなんにも言わない。勝手にしなさい。」





(続く)

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