スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

雨が雪に変わるまで (8)

「私が敦賀さんを好き・・・?敦賀さんに恋してる・・・?」

ぽろぽろと涙をこぼしながらつぶやくキョーコ。
その噎泣が落ち着くまで、奏江はじっと待っていた。

控室の使用は自分たちが最後。
ここにいても問題はないが、いつ誰が来てもおかしくない状況は落ち着かない。

(まったくあのへたれ俳優ときたら・・・いったい何やってるのよ!この子には二度とあのバカ歌手にされたような目には遭ってもらいたくなかったのに。まさかこんな下手打つなんて思ってもみなかったわ。
だいたい、抱かれたい男ランキングで殿堂入りして芸能界一のイイ男とか言われてるくせに、いつまでたっても中学生並みの恋愛しかできないなんて、とんだ見かけ倒れじゃない!)

気の焦りとともに、抑えきれぬ怒りがこみあげてくる。

(敦賀さんがこの子に夢中なことなんて、近くにいる人間にはすっかりくっきりみえみえで、気づいてないのは当のキョーコ本人だけじゃない。それなのに何年経っても“好き”のひと言すらまともに言えないんだから。
そのくせ、独占欲丸出しで周りの男を牽制するなんて、百年早いっつーの!
まったく、どんだけ周りにため息つかせれば気が済むのかしら。正直世間がどれだけいい男だといおうが、私にはただのへたれバカ男にしか見えないわ。しかも、自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、この子の気持ちが変わり始めていることにも気づかない、とんでもない大バカ者!)

思わず机をドンっと叩きそうになったのをかろうじて抑え、キョーコを見遣った。

色のない殺風景な控室の中心で、ただはらはらと涙するその姿にいつもの元気さはどこにもない。けれど代わりに、これまで見たことのないような女性らしい儚くたおやかな美しさが秘められていることに目を瞠る。

(ほんとに・・・好きなのね・・・。)

奏江にはそんな彼女が愛しく、そして羨ましくも思えた。
だからこそ、苛立ちも感じる。

(でもそれなら、いいかげんちゃんと自分の気持ちを認めてほしいわ。
今じゃすっかり売れっ子になって死ぬほど忙しいくせに、あのヘタレの我儘につきあうどころか、暇を見つけてはいそいそとお弁当作ったり、夕食作りに行ったり。最近はお泊り用の着替えまで家に置かせてもらってたっていうんだから・・・。
なにがただの尊敬する先輩よ。あり得ないわ。ほかの男にはあれほど警戒心が強くて、プライベートにも一切立ち入らせないくせに。なんで彼だけ特別だって気がつかないのかしら。)

こんなことになる前にまとまってくれてれば・・・と、大きくため息をつく。

(はぁーーっ。こっちからしてみたら、あんだけこの子しか見えてない人が他の女と・・・なんて、とてもじゃないけど信じられない。もしこの報道が事実だっていうなら、逆立ちしながら社長にプロポーズしたっていいくらいよ。)

奏江がそんなことを考えていることなど露知らず、キョーコは両手で顔を覆い、小さな肩を震わせている。

(でも・・・、“敦賀さんはあんたのことが好きなはずだ”なんて言ったって、この子が素直に受け入れるわけないわよね・・・。
ほんとにいつまでたっても手のかかる、めんどくさい子なんだから。)
そう思いつつ、キョーコを見る奏江の目はやさしい。


やがて涙が収まってきたのを見てとった奏江は、徐に口を開いた。

「いい?今、あんたがしなきゃいけないのは逃げ出すことじゃなく立ち向かうこと。まず自分の正直な気持ちにちゃんと向かい合いなさい。あの人が誰を好きかってことじゃなく、あんたが今あの人のことをどう思っているのか、あんたが求めてるものはなんなのか、それをよく考えて自分のほんとの気持ちに向き合いなさい。」

諭すように話すその声色に、キョーコがゆっくりと顔を上げた。
その眼を、奏江がまっすぐ捉える。





(続く)

スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。

関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。