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蛍幻夜 (2)

「ありがとー!!!キョーコちゃん!俺には君が救世主に見えるよぉ~。」

キョーコの到着が伝わるとすぐ、社がはずむ勢いでやってきた。
「キョーコちゃんがいてくれてほんとによかったぁ~。今まで、どうしようかって大騒ぎだったんだよ。ほら、明日から新ドラマの撮影がはじまるでしょ?蓮のスケジュール目一杯でさ。今日以外予定がとれなくてほとほと困ってたんだ。」

大きな悩みが解決してほっとしたのか、にこにこ顔の社にキョーコがふわりと笑い返す。
「そんな・・・社さんにも敦賀さんにもいつもとってもお世話になっているんですもの。私でお役に立てることがあったら、いつでもどんなことでもお手伝いするので気軽に声をかけてくださいね。」
台詞とともに飛び出た愛らしい微笑みに思わずドキリとときめいてしまった社は、慌てて顔を背けた。
「え、あ、キョーコちゃん。そしたらこっちに来てくれるかな。蓮、控室で待ってるから。」

(ふぅ~~。いかん、いかん。なんで俺、ここでときめいちゃうかなあ。こんなとこ蓮に見られたら、俺今頃軽~く殺されてるとこだよぉ~。)

どんなに暑い季節も汗ひとつかいたことないはずの背中にひんやり伝う水滴を感じながら、社はキョーコを引き連れ急いで控室へと向かった。

* * *

「やあ、最上さん.。今日は突然呼び出してごめんね。」
控室は和室。
三和土を上がったキョーコより1段高い場所に、あぐらをかいて座る蓮がいた。
いつになく凄絶な色香を纏い、笑顔でキョーコを迎え入れる。
「キャアアア!つ、敦賀さんっ、な、な、な、なんて恰好をしてらっしゃるんですか!破廉恥ですぅ~!!」
挨拶しようとまっすぐ視線を合わせたキョーコが叫んだのも当たり前。
蓮は下着の上に、だらりとガウンのように濃茶の浴衣を羽織っているだけの姿だったのだ。
叫びながらもつい凝視してしまった視線の先に、はだけた浴衣から筋肉質の素肌が垣間見え、心臓がドキンと大きく跳ねたキョーコは思わず目を伏せた。
(さっきの尋常でない色気はあそこから出てたのね・・・。)

「え?破廉恥?あ・・・たしかにそうだね。ごめん。でも、これから君にこの浴衣を着付けてもらうつもりだったから・・・。」
口では弁解しているものの表情はまったく変わらず、むしろ爽やかなくらいの笑顔を浮かべている蓮。
答えを聞き、自分の間違いにハッと気づいたキョーコはあたふたと平謝りし始めた。
「わわっ!そうですよねっ。私、今日は浴衣の着付けを依頼されてここに来たんでした!これから浴衣を着ようという敦賀さんがそんな変態みたいな恰好されてるのも当然だというのに!悲鳴を上げて敦賀さんを変質者扱いしてしまい、本当に申し訳ありませんっ!」

(へんたい・・・?それも2回言った・・・?)

ちょっと聞き捨てならない言葉を耳にしたような気がしたものの、そこは“大人のスキル”で華麗にスルーし、頭を切り替えた蓮はにこやかに立ち上がった。
(最上さんに着付けてもらうなんて、なんだか新婚夫婦みたいじゃないか・・・。)
いろいろ想像が膨らみ、ついにやけそうになる口元を必死に引き締める。

「じゃあ最上さん、はじめようか。さっ、君の好きなようにして。」

・・・・・・え?

「れ、れ、れ~んっ!な、な、なに言っちゃってるの!?キョーコちゃんが固まっちゃったよぉ~!」
女の子のように頬を染めて騒ぐ社に、蓮が真顔でさらりと返す。
「え?でも最上さんに着付けてもらうんですよね?俺、なにもできないし。このままマネキン状態になって好きにしてもらうしか・・・。」
いや、だからといってその言い方はないだろう、とぶつぶつつぶやく社の隣で、同じように頬を染めていたキョーコが気を取り直したように口を挟んだ。

「ご、ごめんなさい。さすがにちょっと動揺しちゃいました。時間、ないんですよね。急いで着付けさせていただくので、敦賀さんお手数ですがそちらに立っていただけますか。」
一段低い三和土に蓮を立たせると、キョーコは手際よく準備をはじめた。
そんなキョーコを、自分を見ていないのを言いことに蓮は愛おしそうにまっすぐみつめる。

はああああーーーーー。蓮、その顔・・・蕩けすぎ・・・。
社の口から大きなため息が漏れた。

「あ、あのさ、キョーコちゃん。そしたら俺、撮影スタッフに声かけてくるから。ああ、スタッフへの挨拶は着付け後でかまわないから、まず着付けのほうをよろしくね。」
言うだけいうと、2人の邪魔はするまいとばかりに部屋から飛び出していくのだった。

* * *

「それでははじめさせていただきますね。」

コレクションモデルもこなす蓮は、誰がいようとかまわず着替えられるし、女性に着替えさせられることにも慣れている。もちろん、誰に裸体をみられてもあまり気にならない。けれど相手が愛しい女性となるといつもとはずいぶん勝手が違うことに今気づいた。

揺れる髪の一本一本が確認できるほど近くで上下する栗色の頭。
時折素の胸元や腕に直接触れる細い手指。

彼女の目線が気になる。
触れる指先が気になる。
ふとした拍子に素肌にかかる息が気になる。

あまりにも気になることが多すぎて、どうやっても鼓動が早まるのを止められない。
呼吸が荒くなったのを気付かれそうで、息をするのも躊躇ってしまう。

そんな蓮に気づいているのか、いないのか。
キョーコは慣れた手つきで、着付けを進めていた。
まず、蓮がだらしなくかけている浴衣を手にとり、衿を合わせて裾までが肩からまっすぐ落ちるように形を整える。
一瞬はだけた胸元に、はっと目を伏せるのが初々しい。
それからキョーコは軽く唇をかみしめるとぐっと目を上げ、衿端をもって合わせ直し、上前を丁寧に重ねた。
前身を合わせるためとはいえ、腰元に細い手先がすっと入り、蓮の心臓がドキリと音を立てる。
思わず息をのんだ蓮をキョーコが訝しげに見上げた。

「あ、楽になさってくださいね。すぐ終わりますから。」
すっかりお仕事モードに入ったキョーコに先ほどの照れはない。
それを少し残念に思いながらも、蓮はキョーコが素肌をさらした自分にためらわず触れ、浴衣を着せようと間近に寄り添ってくれることに、そこはかとない嬉しさを感じていた。

(夢心地・・・だな。)
キョーコにされるがまま、指示されるがまま、身を任せる歓びがこみ上げる。
(普段の彼女なら、俺を意のままに動かそうなんて、夢にも思わないだろうから。)
そんなことを考えながら。

ふいにキョーコの片手が蓮の腰骨をおさえた。
(うわっ!)
突然訪れたその感覚に、蓮の顔が真っ赤に染まったが、着付けに夢中のキョーコはまったく気づかない。
そしてそのまま、もう片方の手を背後に回していく。
まるで抱きしめようとするかのように。
(キョーコちゃん・・・。)
キョーコのその動きにつられ、蓮が気持ちの赴くまま彼女を抱きしめようと手を伸ばしかけたそのとき・・・。

手にした腰紐を蓮の体にするりと渡したキョーコが、その紐をキュッと力強く締めた。
「あぅぐっ!」
「あ、苦しかったですか?」
夢心地になっていたところに急にお腹を締め付けられ思わず声が出てしまった、などとてもいえない。
とっさのことに焦る蓮を、心配そうな顔をしたキョーコが上目遣いに見つめた。
一段下がった位置に立っているせいで、いつもよりキョーコの顔が近く、キューティーハニースマイルの威力が倍増している。

(このまま、どうにかしてしまおうか・・・。)
欲望がむくむくと沸き立つものの、
「い、いや、大丈夫。ちょっと油断してた・・・。ほんと、大丈夫だから、進めて。」
これから撮影という状況でなにか行動など起こせるはずもなく、必死に自分を繕う蓮なのだった。


一方すっかり落ち着きを取り戻したキョーコは、冷静に蓮の体を観察していた。
職人魂に火がつけば、蓮の身体に触れることなどなんでもない。
(敦賀さんの身体をこんな間近に観察できる機会をもらえるなんて、なんてラッキーなのかしら!今度作る人形をより完璧なものにするためにも、しっかり観察しておかなきゃ!
それにしても、この身体を見て触れてチェックできるなんて、普通の女性なら感激に気を失っているところよね。社さんが私に依頼したのも納得だわ。)
蓮が心中に抱える葛藤など思いもよらず、蓮の身体観察に夢中のキョーコ。
衿のだぶつきを整え、腰紐の位置を確認しながら、さりげなく各パーツをチェックする。
(ほんと敦賀さんっていい身体してる!この造形、この対比、この骨組、この筋肉の付き方。何度見ても地球人離れした身体だわ!ただ・・・日本の浴衣にはちょっとスタイルがよすぎるのが残念。)

「さあ、あとは帯を締めるだけですから、すぐ終わりますよ。」
一言もしゃべらず、されるがままになっていた蓮を少し訝しく思いながら、キョーコは声をかけた。
じつは蓮は、自分をおさえるのに必死になっていただけなのだが。
もちろんそんなこと想像だにしていない。

「敦賀さんは足が長いし、おなかが引き締まっているから、着物だとバランスをとるのがちょっと難しいんですよね。本当はおなかにタオルをいれたほうがいいのかもしれないけど・・・。細身とはいえ筋肉がしっかりついているからなんとかなるかな。」
そういうと蓮のお腹を軽くポンポンとたたく。
無意識のその動作が、蓮の心をさらに大きく乱すことになど気づきもせず。


縞や格子に地柄が織り込まれた濃茶色の綿紅梅に、キリリと締められた辛子色の角帯。その浴衣姿は大人びた蓮の容姿にしっくりはまり、それはそれは清々しい大人の色香を感じさせるものだった。

「自分で着付けをしておいてなんですが、本当に素敵です!」
一歩離れて自分を見つめ、賞賛の言葉を漏らすキョーコに嬉しそうに微笑む蓮。
「敦賀さんは腰の位置が高すぎるので、帯を締めるのがけっこう大変だったんですよ。足が長いのも時には考えものなんですね。
あ、そうそう。歩くときはモデル歩きじゃなく、胸を張って腰をちょっと落とし外股に歩いて下さいね。俺は偉いんだぞっ感じで。」
ちょっと得意げに指導するキョーコにうなずくと、
「すごいね、最上さん・・・。きれいに着付けてくれて本当にありがとう。」
礼を言いながら自分の浴衣姿を見下ろして、素直に感嘆の声をあげる蓮なのだった。

* * *

「ただいまぁ~~!!!うわああああ!!!蓮、かっこいいよ!すごいっ!いい感じだっ!しかもなんだかすごく色っぽいしぃ~。俺でも惚れちゃいそうな艶っぷり。さすがだよ。」
着付けが終わる時間を見計らったかのように、タイミングよく社が戻ってきた。

「みんな、待ってるから急いでいこう!キョーコちゃんもいっしょに来てね、あ、蓮、そこに雪駄があるから、それ履いて。」
敏腕マネージャーらしく、急ぎながらも的確に仕切る。

「ふふふっ、浴衣に雪駄の敦賀さんなんて初めてみるから不思議な感じです。でも、すごくお似合いですよ。あ、もしかしたらほんの少し着崩した感じにしたほうが、敦賀さんの艶やかさが際立つかも。」
xそういうと控室を出かけた蓮を呼び止め、躊躇なく手を伸ばし、蓮の衿元を軽く引くキョーコ。

そのさりげない、けれどとても近しい動作に、蓮も社も思わずごくんと唾を呑みこんでしまうのだった。






(続く)

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