スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

雨が雪に変わるまで (7)

モー子さんにものすごい勢いで詰め寄られ、すべて白状してしまった。

“坊”として敦賀さんの恋愛相談を受けていたこと。
敦賀さんが来月好きな人に告白するつもりらしいこと。
このままはいけないと思って敦賀さんの家の荷物をぜんぶ引きあげてきたこと。

「つまり、あんたは敦賀さんが好きな子に告白するって知って、ショックで慌てて逃げ出したってわけね。」
モー子さんがやれやれといった調子で椅子に腰かける。
「逃げ出した、って・・・そんな・・・。」
「だってそうでしょ?本人に何も言わずこっそり家に入って、こっそり荷物を引き上げてきたんだから。普段のあんたは“尊敬する大先輩”にそんな失礼なことする子じゃないじゃない。」
「こっそりって・・・。もともと鍵は預かってたし、自分の荷物をただ持ち帰るだけだから許可は必要ないかと思って・・・。」
自分でも、言い訳じみてるなって思う。そうよね。ちゃんと説明もせず、家主がいない間に置いてある荷物を持ち出すなんて、いくら自分の荷物だといったって、たしかに泥棒みたいよね。
「だって、事情を知らないはずの私が“もうすぐ結ばれる彼女に悪いから”なんて説明するわけにいかないもの。だからといって、荷物をそのままにしておいたら、敦賀さんの大事な彼女に誤解されてしまうかもしれないでしょ。そんな真似、ぜったいできない。それが原因で敦賀さんに恨まれるようなことになったら・・・耐えられないもの。」
つい本音が出た。
「わたしはただの後輩に過ぎないのに誤解されたら、彼女にも敦賀さんにも大迷惑だわ!」
こぼれた本音をかき消したくて、早口になる。

「ふうん・・・・・・ただの後輩、ね。私はそうは思わないけど。まあいいわ。で、敦賀さんの好きな人っていうのは、その深見さんとやらでほんとに間違いないの?」
「名前も、年も、聞いていたとおりだったもの。それに・・・敦賀さん、あの人と話してるときに神々スマイルしてたから・・・。」
「じゃあ、本人にちゃんと確認したってわけじゃないのね。」
「そんなこと聞けるわけないじゃない!」
思わず声がうわずってしまった。


「あんた・・・敦賀さんのことが好きなんでしょ?」
不意打ちみたいなモー子さんの言葉に呆然とした。
「好きだから、ショックだったんじゃないの?好きだから、一番近くにいられなくなるのが怖くて逃げ出したんじゃないの?」
モー子さんが次々と繰り出す言葉が、心につきささる。
心の奥で何重も鍵をかけていたはずの箱から、裸の気持ちが取り出され、目の前に突き出されるように感じた。
慌てて目をつぶり、必死にそれを箱へと押し戻す。

「ちがう!ちがうわ。好きとかそんなこと、あるわけない!私はもう二度と恋なんてしないって誓ったんだから。敦賀さんは尊敬する先輩。頼りになる大先輩なの。逃げ出したのは、もう演技の指導をお願いできなくなることがショックで残念で悲しかったから。挨拶もしなかったのは、義理がたい敦賀さんに余計な気を使わせたくなかったから。ただ、それだけ。」
必死だった。
「・・・本気?あんた、本気でそう思ってるの?」
「もちろんよ。それ以外なんだっていうの?」
ほんとはそう思ってなかった。そう思うにはあまりに大きな穴が心にぽっかり空いていたから。

「じゃあ、聞くわ。この3年というもの、あんたは誰を頼りにしてた?演技のことでもプライベートでも、悩んだとき、苦しいとき、うれしいとき、悲しいとき、あんたがその気持ちを一番に報告したのは誰?」
「えっと・・・モー子さん?」
私の言葉に、モー子さんが眉をしかめながら吐き出すようにため息をつく。
「あんたって・・・ほんとにばかね。今わたし、“一番に”って言ったでしょ。」
「えっと・・・つ・・・。」
「誰!?」
「つ・・・つるが・・・さ・・・ん・・・。でも、それは敦賀さんが私に演技のなんたるかを教えてくれた人だから。目標とする大先輩だから・・・だもの。」
だめだ。認めちゃいけない。これだけは絶対に認めちゃいけない。
モー子さんに対してだけでなく、自分に対しても。


迫るモー子さんから逃げようとして机の上についた手が、置いてあったリモコンに触れた。とたんにテレビが点き、音声が流れる。
画面を目にした私はそのまま固まってしまった


『敦賀蓮、ついに熱愛発覚!結婚間近か!?』


モー子さんもぽかんと口をあけて画面に見入っている。
そこには、写真週刊誌に掲載されたという敦賀さんと女性のツーショット写真が映し出されていた。お相手の名は・・・深見恭子さん。
続けて深見さん本人へのインタビュー映像も映し出された。あのとき見た通りのきれいな笑顔。「ご想像におまかせしますが、私は大好きですよ。」肯定としかとれない言葉がその美しい口元から繰り出される。

・・・目が離せなかった。

画面はスタジオに戻り、写真が撮られた場所がとある宝石店であること、敦賀さんがそこで指輪を探していたらしいという情報まで暴露された。

・・・瞬きもできない。

最後に芸能レポーターが「来年敦賀蓮の仕事に調整が入っており結婚準備とも考えられる」と語り、コーナーは締めくくられていた。


ふいに、涙がこみあげた。
一度溢れた涙は、次々にこぼれ出し、止まらない。
(なんで・・・なんで・・・涙が出るの。こんな顔、モー子さんに見せられない。)
ゆがんだ視界の向こうから、モー子さんのあきれ声が聞こえる。

「まったく、こんな明らかにガセのニュース見たくらいで涙まで流して・・・。
もーっ、あんたね、いい加減私の前だけでいいからちゃんと認めなさい。
どうせもう自分でも、もしかしたらって思ってるんでしょ。あんたがあの人を思う気持ち、それは恋よ、恋。
いい?あんたはね、敦賀さんに恋をしてるの。敦賀さんのことが好きなのよ。」





(続く)

スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。

関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。