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雨が雪に変わるまで (6)

(なにがあったんだ?)

1週間に渡る海外ロケ中、ずっと気になっていたのは、最後の電話で耳にした最上さんの声だった。
食事を依頼する俺の言葉に、「わかりました」と承諾してくれた彼女。
でも、その声のトーンが明らかにいつもと違っていた。

前日TBMで偶然会ったときもそうだ。
いつもの彼女のようでいて、ちっともそうじゃなかった。
最近、どんどん仕事が忙しくなっているようだったから、そのせいで疲れているのかとも思ったけれど、違う。
あのとき・・・俺を見つめる榛色の瞳の奥にかすかに見えたものを思うたび、俺の中の何かが反応し小さな警告音が鳴る。
彼女の中で、なにか起きている・・・?


不安が的中したことを知ったのは、ロケを終え久しぶりに自宅に戻ったときだった。
予定が大幅にずれ、午前には戻れる予定がすでに日は傾きかけている。いつにない疲れを感じながら荷物を置き、コーヒーでも飲むかとキッチンに足を運んだ俺は、その場に立ち尽くした。
ない・・・。


包丁も、フライパンも、菜箸も、計量カップも、それに彼女のマグカップも。
彼女が愛用していたはずのキッチン道具がどこにも見当たらず、代わりにそこかしこにぽっかりと不自然な空間が空いていた。
慌ててゲストルームに足を運ぶ。
やはり、あるはずのものがどこにもなかった。
探しても、探しても、どこにも何もなかった。彼女のものはなにもかも。そう、香りのかけらさえ。

訳がわからなかった。
俺がいないこの一週間にいったい何があったというのか。
・・・いや、そうじゃない。最後に会ったときすでに彼女はおかしかった。
必死になって、そのときの彼女を思い返す。あのときなにがあった?俺は何をしていた?
あのとき・・・?
今共演している女優に次のシーンのことで相談を受け、廊下で立ち話をしていた。それだけだ。
偶然彼女に会えたのがあまりにうれしくて、忙しそうにしているのをつい引きとめてしまったけれど、次の仕事があるからと、最上さんは足早に去っていった。
あのとき、彼女は何を思っていた?
どうして俺は、せっかく感じた警告音にもっと耳を貸さなかったんだ!?
頭をかきむしりたくなる。

(そうだ。電話だ。)
はっと気が付き、慌てて携帯をとり、彼女の番号を押した。
『お客様がおかけになった電話番号は電源が切れているか電波の届かないところに・・・・・・』
何度かけても、何度かけても、つながることはなかった。


結局俺は、夜が更けるまで携帯を手にしたままその場に座りこんでいた。
なにが起きているのかいくら考えてもわからない。
ただ―――とてつもない不安に自分が押し潰されそうになっていることだけはわかった。

3年をかけてようやく、彼女の一番傍にいて、彼女が一番心を許している男は俺だと、そう信じられるようになったというのに。
その自信が、ガラガラと音を立てて崩れていく。


* * *


チャイムが鳴った。
「最上さんかもしれない。」
最後の電話で食事を依頼したことが頭によぎる。こんな夜中に彼女が食事を作りにくるはずなどないのに、根拠もなく、ただ淡い期待だけで俺は玄関へと駆け出していた。
鍵を開けるのももどかしく扉を開ける。
・・・が、そこにいたのは社さんだった。



「蓮、やられた。今お前が共演してる女優。あの子との写真を撮られたらしい。ほかにもネタがあがってる。明日から大騒ぎになるぞ。」






(続く)

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