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やくそく


「すみませんっ!ちょっと車停めていただけますか。」

助手席に乗っていたキョーコが急に声を上げた。
「ん?忘れものでもした?」
蓮が急いで路肩に車を停めると、途端に勢いよく車を飛び出していく。

走りだしたその姿を蓮がミラーで追いかけると、すぐ手前の横断歩道で大きな荷物を抱えキョロキョロしていた年配の女性に声をかける様子が見えた。
そのままキョーコは女性の荷物を受け取り、手を取っていっしょに歩道を渡っていく。

「ああ、最上さんらしいな。」
バックミラーでその様子を眺めながら、蓮は笑みを浮かべキョーコが戻ってくるのを待った。

「すみません。お待たせしました。迷ってらしたみたいだし、なんだか気になってしまって。」
「いや、大丈夫。」
シートベルトを締めながらペコペコと頭を下げるキョーコをやさしく見つめる。
「じゃあ、行こうか。」
すぐに車を発進させようとして、なにかを思いついたように手を止めた蓮は、隣のキョーコをのぞきこんだ。

「ねえ、最上さん」
「はい?」
「俺が年をとっても、あんな風に助けてくれる?」
「は?」
「俺が……よぼよぼになったとき、あんな風に手を引いていっしょに歩いてくれる?」

(……えっと……今、この人はなんと?)
春の陽だまりのような微笑みと穏やかな声で、さりげなく訳の分からないことを聞かれ、キョーコはきょとんとしてしまう。

「なにいってるんですか。4つしか違わないんですから、そのときは手を引くどころかわたしだってよぼよぼのおばあちゃんですよ。」

…………

「それって、もしかしてさりげなくお断りされてる?」
キョーコの返事を聞き、急にしょぼんとうなだれたような顔を見せた蓮にキョーコは慌ててしまった。

(そ、そんな捨てられた子犬みたいな顔しないでくださ~いっ!その顔、その表情に私、ほんとに弱いんですからぁ~~!!!)

「お、お断りとかそういうことじゃなくて。無理っていうか、第一敦賀さんだったらそうなっても助けてくれる人がぜったいいるはずっていうか……。」

焦るキョーコを、蓮はさらにすがるような瞳でじっと見つめる。
すると、困ったように眉を下げていたキョーコは頭をぶんっと一度振り、真剣な表情で運転席に向き直った。

「あのですね。もしも、もしもですよ?よぼよぼになるまで敦賀さんがおひとりだったら……、ぜったいそんなことないと思いますけど。でも、もしそんなことがあったら、そしたら……そのときは、わ、わたしが面倒みます。ちゃんとみますから。」

力強いキョーコの言葉に緩みそうになった口元をそっとおさえる蓮。

「だって敦賀さん、今だってちゃんとみてないとごはんもろくに食べないし。体調悪くても似非笑顔でごまかすし。自分の体力過信しすぎだし。そのくせポーカーフェイスで演技力が抜群だから、周りの人達みんなすぐ騙されちゃうんですもの。
あの調子で無理ばかりしていたら、若いうちはともかく年取ったらあっという間に倒れちゃって寝たきりです。
そんな敦賀さん、見たくないし、ほっとけないですからね。」

もう仕方ないとばかりにキョーコは言葉を重ね、こくんと唾をのんだ。

「だから……、もしも敦賀さんがよぼよぼになるまでひとりだったら、わたしが傍にいます。傍にいてお世話させていただきます。
こう見えて私、けっこう体力あるんですから。敦賀さんと違ってちゃんとご飯食べてますし、もともと体は頑丈ですから、年取ってもきっとものご~く元気です。力だって案外強いですし。
きっと……、敦賀さんひとりくらいなんとかできます。なんとかします。だから安心してまかせちゃってください。」

一気にしゃべり終え、はあはあ息を切らすキョーコを我慢しきれず零れた笑みとともに蓮は幸せそうな瞳で見つめた。

「それは心強いなあ。じゃあ、俺の老後は君にまかせたよ。」
さらりとそう言い、小首をかしげ、さもいいことを思いついたというようににっこり笑って付け加える。

「そうだなあ……。どうせなら老後だけじゃなく、今からぜひお願いしたいな。どうぞ末長くよろしくね。」

先輩俳優の思わぬ発言にキョーコは一瞬言葉も出ない。
「だ、だ、だから、もしも、もしもですって!それに今からとかまったく必要ないじゃないですかぁ~。」
「……そうかな?でも俺、最上さん以外に頼れる人いないから。」
そう言うと蓮は、にっこり笑って小指を差し出した。

「だから、やくそく。」

「は?あ、あの……?」
「だから、や・く・そ・く。……ほら?」
「え、えっと……それは?」
「指きり。」
「指きり?」
「うん、そう。こういうことは、ちゃんと約束しておかないとね。」

そう言いながら、目の前の大きな瞳をまっすぐとらえると、有無を言わさぬ極上の笑みを浮かべ、蓮はキョーコの小指にそっと自分の小指をからませた。





fin

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