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相合傘

突然の通り雨。

そのとき蓮は撮影所でドラマ撮影の最中だった。
次の撮影は、ここから10分ほど歩いた別のスタジオを使うという。
困ったことに傘を持っているであろう社は、今会社からの呼び出しで席を外している。

衣装のこともあり、少し思案した蓮だったが、スタジオ内の移動だし、たいした距離じゃないからまあいいか、と傘をささずに歩きだした。

(ちょっと濡れてしまうけれど、仕方ないな。急ごう。)
そう思いつつ早足で歩き出した蓮を追いかけるように、背後から聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「つ、つ、つるがさーーーん、まってくださーーーい」

その声を認識した途端、雨にもかまわずさっと足を止める蓮。
(最上さん!)
そして、他では決して見せることのない全力の笑顔とともに振り向いた。
みれば、水色のレインコートを頭から羽織った最愛の少女が、同じ水色の小さな傘を振り回しながら蓮のもとへと走り寄ってくるところだった。
(可愛いなあ・・・。空色のてるてる坊主が長靴履いて飛んでくるみたいだ。)

「あれ?最上さん。こんなところでどうしたの?」
「今日は私もここで撮影が・・・ってそんなことどうでもいいです。なんで傘もささずに歩いてるんですか~!そんな素敵な高級コートを雨に濡らしたらだめです!
それに、雨に濡れてまた風邪引いたりしたらどうするんですか!敦賀さんは、かけがえのない人なんですよ!!この芸能界にとって。」

キョーコが無意識に口にした“かけがえのない人”という言葉に思わずドキリとする。
(最後のひとことはいらないのにな・・・)
少し残念に思いながらも、目の前でぶんぶん手を振り、まくしたてるキョーコがあまりに面白くて可愛くて、ついくすくす笑ってしまった。
(てるてる坊主がプンプン怒ってる。)

「だって、傘持ってなかったから。どうせ次のスタジオもすぐそこだしね。」
「すぐってどのくらいですか!?」
「10分くらい?」
「10分って、けっこうあるじゃないですか!もうっ!だから敦賀さんは油断ならないんです。」
「油断ならないって、そんな・・・。」
「とにかく、この傘差してください。」
「でもそれは君の・・・」
「大丈夫です。私はいつだって準備万端ですからね。ほら。」
どんと胸を叩いたキョーコは、そのままくるっと回ってみせた。
「フードもついているし、完璧です!」

「ふふっ、その割にはおでこが濡れちゃってるよ。」
そう言うや、蓮はすっと手を伸ばし、キョーコのおでこをやさしくさすった。
「ありがたく傘は使わせてもらうよ。でも、君もいっしょに入ってね。可愛い顔が雨に濡れたら台無しだよ。」
にっこりと、でも有無をいわさぬ口ぶりにキョーコの顔がぱっと色づく。
「な、な、なにおっしゃってるんですか!こんな小さい傘に2人で入るなんて無理ですっ!」
真っ赤になって反論するキョーコ。
全力で否定するキョーコにちょっとがっかりしながら、蓮はそれでも食い下がってみた。

「でも、二人並んで歩いてて、俺だけ傘をさしているっていうのはいくら君がレインコートを着ていてもいやだな。なんだか紳士的じゃない気がしない?」
「紳士的って・・・なんですか、ソレ。」
「なんていうか・・・たとえレインコートを着ていても、おでこをこんなに濡らしてる女の子から傘を奪って、自分だけのほほんと差してるのは、紳士で知られる“敦賀蓮”にあるまじき行為だと思わない?・・・って感じかな。」
「でも・・・。」
「傍からみたら、敦賀蓮って後輩にやさしさのかけらもない非情なやつって感じだよね。」
むりやり力を込めて断定する。

「でも・・・敦賀さんと相合傘なんてしたら、日本中の敦賀ファンから恨まれてしまいます!」
「だいじょうぶ。ここ撮影スタジオだから。関係者しかいないし。それをいうなら、その傘を俺がひとりで差してるのだってどうかと思われるよ。それなら、いかにも入れてもらってます風にしたほうがいいじゃない?誰かに会ってもちゃんと言い訳・・・いや説明できるからね。」
「で、でも・・・。」
「いいから、さ、こっちに入って。」

「で、で、でしたらわたしが差します!!!先輩に差していただくなんてとんでもありません!」
「んーー。それはいくらなんでも無理があると思うけどなあ。」
小首をかしげる蓮。
「まあ、そう言うなら・・・じゃあどうぞ。」
必死に手を伸ばし傘を差すキョーコ。
でもちょっとした拍子にすぐ蓮の頭がつかえてしまう。
「その高さに合わせて傘に入るとなると・・・。」
蓮はそうつぶやくなり、危うく頬と頬がぶつかりそうなほどの位置まで腰をかがめた。
「こんな感じになるけど、いい?」

(いいいいいいくないですぅ~~!!!近すぎですぅ~~!!!)
とはいえ自分で傘を差すと宣言した手前、やっぱり差してくれともちょっと言いにくい。
「あ、でも、これじゃちょっと肩が濡れちゃうな。そうだ・・・」
固まったキョーコのことなど見て見ぬふり。
思案するかのように言うと、蓮はすかさずキョーコの肩に手を回し、回した手とは反対の手で傘をもつキョーコの手をつかんだ。
「うん、これなら濡れない」
「だ、だ、だ、だめですーーーーー!!!!む、む、むりですーーーーー!!!」
ピーッと小動物が鳴くようにキョーコが泣き叫んだ。

「お、お、お願いします。か、か、傘、敦賀さんの高さで差してください!あと、そんなに近づかないでください。わたし、ちゃんとレインコート着てるんですから。はしっこくらい濡れても平気です!」
「そう?俺は案外気に入ったんだけど。この姿勢。」
そう言いながら蓮がさらにキョーコの体に巻きつこうとするのをキョーコは必死で避けた。
「む、む、むりぃーーーーー!!!敦賀さんがよくても私がだめです。私がよくても、日本中いや世界中の敦賀ファンが許しませんからぁ~。」
ほんとに傘なんていらないです~、とフードをしっかりかぶりなおすキョーコ。

(ちょっとやりすぎたかな。残念だけどこのくらいにしとくか・・・・・・。ん?今「私がよくても」って言った?)
思い当ったひとことに、つい顔が緩みかけた蓮はあわてて口元を押え、横を向く。
「ほんとに最上さんはからかうと面白いなあ。」
そう言ってすっと姿勢を正すと、キョーコに向かってにっこり微笑んだ。

「もぉーーーーっ!!やっぱりまたからかったんですねっ!ひどいですっ!!!」
ぷりぷり怒るキョーコを愛おしげに見つめながら蓮は声をかけた。


「さ、行こうか。今だけの大事な代マネさん。」

並んで傘を差し、歩き始めた蓮とキョーコ。
そのとき空色のフードの中で、実はキョーコの口元が嬉しそうに綻んでいたことを蓮は知らない。





fin

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