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雨が雪に変わるまで (3)

荷物を抱え、敦賀さんのマンションを出た。
―――これが最後。
通りに出たところで、建物を振り返る。

この3年というもの、当たり前のように足を運び、当たり前のように食事を作り、ときには当たり前のように泊ったりしていたこの場所。
その“当たり前”が今はこんなにも遠い。

からだが鉛のように重くてたまらず、ふだんなら決して使うことのないタクシーを停めた。
とにかく一刻も早くこの場から立ち去ってしまいたかったから。
後部座席に倒れるように乗り込むと、すぐに目を瞑り、いっそ眠ってしまおうとした。
けれどそれは叶わず、最近一人暮らしをはじめたマンションへ戻るまで、私は自分でもどうにもならないほど暗い感情に捉われていた。

・・・あと1ヶ月もしたら誕生日が来てしまう。
いつも敦賀さんが一番におめでとうといってくれていた、私の誕生日。


幼い頃、誕生日のお祝いは、クリスマスといっしょに24日にしてもらっていた。
日にちが違っても、みんなにお祝いしてもらえることがうれしくてたまらなかった。
でも・・・次の日になると、本当の誕生日なのに、もう誰もおめでとうといってくれないことが、ほんとは少し悲しかった。

そんな悲しい記憶を、最初に幸せな記憶へと塗り替えてくれたのは敦賀さん。
誰にもいえなかった寂しさを敦賀さんが癒してくれた。
去年も、おととしも、その前も、いつも誰よりも早く敦賀さんが私に幸せな誕生日を届けてくれた。
それがずっと続くと思っていた。
“当たり前”のように。


だけど今年は違う。今年、私の誕生日に敦賀さんはあのヒトに告白する。

・・・バカね。

あの言葉もあの花も、ぜんぶあのヒトのための練習に過ぎなかったのに。私はただの練習台だったのに。
勝手に都合のいいように思いこんで、ひとり浮かれていたなんて。


視界がゆらりと滲み、涙が零れ出たのがわかった。
ずっと我慢してたのに・・・それでも考えるのをやめられなかった。


義理がたい敦賀さんのことだから、きっと今年も忘れずにお祝いしてくれるだろう。
淋しがり屋の後輩が、先輩からのお祝いをなによりも喜んでいるのを知っているから。
それが分かっていて、伸ばされた手を振りほどく人じゃない。
あのやさしい人がそんなことできるはずがない。
ただ、そこに私の求めるものがないだけ。
そう・・・それだけ。


こんな気持ちを抱えて敦賀さんに会えるわけない。その声を聞けるわけない。
もし会えば、もし声を聞けば、きっとそれだけで幸せなはずの想い出がすべて哀しい記憶に塗り替えられてしまう。
それがただ、怖かった。

だって今の私にとって、幸せな記憶はすべて敦賀さんにつながるものだから。
想い出まで取り上げられてしまったら、私を支えている何かもいっしょにすっと消えてしまう。
そんな気がして・・・ただ、怖かった。



幸いにも、今年は社長の計らいで、24日の朝から丸3日間の休みをもらっている。
いっそ遠くへ旅に出てしまおうか?
それとも・・・。





(続く)

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