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秋の田の穂向きの寄れる… (8)

お久しぶりです。
コメント欄でチラチラ書いていましたが、同僚が突然辞め、仕事が大変なことになっています。
ぽつぽつ更新になってしまってごめんなさい。



雨が降る。
凄まじい音を立てて雨が降る。
空に浮かぶ月も星も、何もかもすべて流し去ってしまいそうな勢いで――――雨が降る。



その日の見舞いを終え、キョーコが帰途についたとき雨はピークを迎えていた。
ザアザアどころかバチバチという音をたて、凄まじい勢いで降りしきる雨粒。
いつもなら夕暮れの名残が僅かに残っている空も、今は真っ黒に染まっている。

ようやくアパートに戻り、ドアの前に立ったキョーコは、手にした買い物袋がぐっしょり濡れているのをみて思わずため息をついた。
水を含んで重さを増したその袋を持ち直し、鍵を開けようとする手元がチラチラと瞬く。
気になって見上げれば狭い通路の蛍光灯が切れかけて点滅していた。

(こんな嵐みたいな日に……イヤな感じ。)

思いながら扉を開け、がらんとした部屋の電気をつける。
すでに退去準備を進めていたその部屋にはベッドと小さなテーブルがあるくらいで、生活感を感じさせるものはほとんどない。
唯一、テーブルの上に置いたアクセサリーボックスがその部屋の住人が女性であることを示すように存在を主張していた。
何かに誘われるように、ふとその蓋を開ける。

ひっそりと鎮座する想い出のネックレスと大切な石。
いつどんなときも、キョーコをやさしく見守り勇気づけてくれた宝物たち。
そして最近増えた………1枚の絵ハガキ。


それを見た瞬間、小さく息が零れた。




あの日――――。
話を終えた帰り際、ローリィは思い出したように口を開いた。

「ひとつ聞いてもいいか。」
その前置きにドキリとする。
ローリィがわざわざそんな言い方をして尋ねることなんて、キョーコにはひとつしか思いつかなかった。

(敦賀さんとのこと、だ。)

ああ、そうか。
何事にも用意周到な社長のこと。
分不相応と思えた個室だったけれど、外にはぜったい洩らすことのできない話を考えてのことだったのかもしれない。

そう思いながらキョーコがこくりと頷いたのを確かめると、ローリィはゆっくり切り出した。


「あいつについていこうとは思わなかったのか?」
「……え?」
「会見をみただろう?あれがまぎれもないあいつの本音だ。どうせその前にも君を強引にアメリカにつれていこうとしたんじゃないか?」

そう言ってふっと笑みを零す。
それはよく見知った傾奇者めいたローリィとは少し異なる、慈愛のこもった表情だった。

「あいつはアメリカ。君は日本。また以前と同じ遠距離恋愛だ。いや、あの頃とは立場も状況も雲泥の差、一層悪くなっているといってもいい。そんな状況で離れれば過去の過ちを再び繰り返しかねない。
となればあいつのことだ。まず考えるのは“もう離れない、もう離さない”ってところだ。」

案外単純なヤツだからな、と呟くローリィから苦笑が漏れる。

「だが君はそうしなかった。」

自分をじっと見つめてくる静かな瞳に、キョーコはどんな意図が隠れているのか見出そうとしたけれど。
鏡面となった水面のように平らかに澄んだそこからは、何も読み取ることはできなかった。

「同じことが繰り返されるかもしれない。それでも後悔しないか?」

その言葉が突き刺さる。

ほんの少し前まで、もう二人の運命が交差することはないと信じていた自分。
すべて諦めようと、心を決めていた。
でも神様は……二人を再び巡り会わせ、キョーコに演技への情熱を蘇らせた。
これが天命というものなのかもしれない。
そう思う。

いや、そう思いたいだけかもしれない。
でも、もしこれが単なる自分の願望なのだとしても………。
やっぱり運命を信じたかった。
だから………


「いいえ。」
キョーコは躊躇いなく首を横に振った。

「あのときとは違いますから。」


――――――私はもう諦めないと決めた。




じっと見つめ返すまっすぐな瞳に輝く揺るぎない光。
百戦錬磨のローリィですら、その光に一瞬魅入られるように心を奪われた。
「ほう………。」
ローリィは、ふっとまなざしを和らげ、そして口元を緩ませた。


「………わかった。俺も最善を尽くす。だから君も最前を尽くせ。」
「はいっ!」

かつてのように元気に声を上げたキョーコを見て、ローリィがほっとしたように相好を崩す。
……と。
不意にキョーコが声をあげた。

「あの、ひとつお願いがあるんです。」
「なんだ?」
「これを……これを敦賀さんに渡していただけますか。」

手帳の中にずっと挟んで持っていた2枚のポストカード。
その1枚をそっと取り出し、キョーコはそれをロ―リィに託した。
小さく綴られたたった一言のメッセージとともに。



(でもまさか、隼人くんの記憶が失われるなんて思ってもみなかった。)
もう一度深く息をつきながら、キョーコは自分のもとに残されたポストカードをそっと裏返した。


それは蓮のもとに届けたカードとは角度の違う月夜の写真。
漆黒の空に浮かぶ大きな上弦の月。

(綺麗な、月…………。)

たとえどんな障害が訪れようとも。
会えなくても。
声が聞けなくても。
変わらず好きだと伝えたかった。
いつまでも愛していると伝えたかった。
でも、この先の見えない状況ではっきりとした言葉を記すのはどうしてもできなかった。

それでも何かを伝えたいという思いを抑えきれず。
キョーコはローリィにそれを託した。


「綺麗な月」と「いつか」の文字を。





私が見る空と敦賀さんが見る空。
見える角度は違っても、同じ綺麗な月。

私たちは同じ空を見上げている。
そう信じても……いいですよね?

切な想いに視界が滲みかけたその時―――――



突然ドアをドンドンと叩く音がした。








秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛たかりとも
(秋の田の稲穂が片方に傾くように、あなたに寄り添っていたい。たとえ人がなんと噂しようとも。)

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