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冠柳

冠柳………打ち上げ花火の代表格。散った火花がすぐ消えず、柳のように尾を引きながら落ちていく。




「花火を見に来ない?」

何気なくかけられたその言葉。
いつものラブミー部への依頼ではなく、直接そう誘われたのが飛び上がるほど嬉しくて。
イチもニもなく頷いた。

「マンションのベランダからちょうど花火が見えるって、去年たまたま気が付いたんだ。」
君が見たらきっとすごく喜ぶと思って…とさりげなく続けられた言葉にますます弾む胸を押さえきれない。

「あ、あの、そうしたら………せっかくだから浴衣を着て伺ってもいいですか?えっと、その、なんかこう気分が盛り上がるかな、なんて。」

そんな言葉がつい口をついて出たのは、少しでもいつもと違う自分を見せたかったから。
浴衣を着たらいつもより少しは女っぽく、大人っぽく見せられるんじゃないかと、そんな淡い期待もあった。
一瞬驚いたような顔をして、それからすぐに優しく大きく微笑む顔。

「もちろん。楽しみにしてる。」

その答えに、トクンと胸がまたひとつ波打った。


*


ドーンドーンと広い夜空に轟音がこだまする。
その合間を縫って突き上がる一筋の光とピュゥ~~と響く口笛のような音。
間を置いて目前に舞う色鮮やかな大輪の花。
赤に、黄色に、金色に。
最初はひとつずつ。
やがて、ふたつみっつと幾重にも重なる光の環が視界一面を埋め尽くしながら競い合うように咲き、そして華麗に散っていく。
瞬きするのも忘れるほど見入ってしまう、それはまさに夢のようなひとときだった。
弾ける光は様々に色を変え、キラキラと舞い散る火の粉まで美しい。

すごいなあ。
こんなにも……圧倒されるほどきれいで、言葉も出せぬ迫力に満ちていて。
たくさんの人が夢中になって、その美しさに酔いしれてしまう。
それを見るために、面倒も厭わず混雑の中に足を運んで。
まるで……まるで、そう…………。

――――敦賀さんみたい。

ふと、そう思った。


ドーン、ドーン
花火の音が次々と響く。
ひと言の言葉も交わさぬまま、ベランダにこうして二人並んでただ夜空を見上げるこの時間が、なんだか何にも代えがたく愛しく感じて。
胸がきゅうっと苦しくなった。

……と、隣から流れ込む微かな香りと髪をかきあげる気配。
はっとして、並ぶ人を視線だけ動かして密かに覗き見た。

同じ人間とは思えないほど、端正に整いすぎた横顔。
長く密な睫毛も、蕩けそうに艶冶な瞳も、すっと通った鼻筋も、形のいい唇も。
あらゆる人を魅了してやまないそれは、まさに散ることをしらない永久(とこしえ)の花火そのもの。
それは……決して手の届かない天穹の彼方で咲き続ける大輪の花。

背後で瞬く小さな星の煌めきなど、その前ではないに等しい………。

(………やだ。)

ふっと通り抜けた風の思いがけない冷たさが目に染みて、視界に薄く膜が張る。
途端にドーンと鳴った音に驚いたふりをして手を挙げ、そっと目をぬぐった。

「きれいだ。」

不意に聞こえてきた柔らかな囁き。
ピクッと持ち上がる肩をごまかすように、持っていた扇子をぱたぱたと振り仰ぐ。

「ほ、ほんと、すごくキレイですね。手が届きそうなくらいこんな間近で、こんなにきれいな花火を見られるなんて。幸せですっ。」

しどろもどろに言葉を重ねる私を訝しげに見つめる瞳の、深い深い夜の色。
やがてクスリと微笑んだその表情は花火の光に照らされてどこか遠く儚げで、もう一度目を奪われずにはいられなかった。

ドーン

一段と強い轟音が頭上からまっすぐに落ちてくる。
その音に少し遅れて、まるで真昼のような明るさで夜空を彩る大きな花火。
闇に溶けるように散っていく最後の花を見つめながら心の奥で切に願う。
まだ……もう少しだけでいいから、この時間が終わらないで、と。


花火の消えた闇色の空。
何もないように思えたその場所に、目がなじむにつれて見えてきたのは、薄く煌めく小さな光の粒。


真っ黒な空のあちこちでちろちろと放つ光が揺れている。
それは………。


―――必死に打ち上げ花火を模す、線香花火の玉火のようだった。







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