スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

梶の葉 (前編)


七夕に、と書いていたお話に行き詰まり、急きょ書き始めたのがこのお話です。
一気に書き上げたので、誤字脱字、辻褄のあわない場所が多々あるかもしれません。
例によって例のごとく、あとで改稿するかと思いますが、とりあえずUP!



その話がきたとき、俺は3か月だけ待ってほしいと頼んだ。



「最上さん。お願いがあるんだ。」
翌日彼女を捕まえた俺は、開口一番そう言った。
大きな瞳をぱちくりとさせ、問いたげに見上げる顔に微笑みかける。
「これからしばらく週1,2回くらいのペースで食事を作りにきてもらえないかな。」
「は?」
「そんなに長い期間じゃないからよろしく。」
それだけ言って踵を返す。
「ちょ、ちょっと待ってください。敦賀さん!」
追いすがる声に一度だけ振り向いた。
「あ、言い忘れたけど来てもらいたい日は事前にメールか電話をいれるから。」
一方的にそう言って彼女の口を噤ませるほどの笑みを向ける。
もごもごと目を真ん丸にして言葉を飲み込む彼女を愛おしく思いながら、あとは何が聞こえても無視して後ろ手を振りながらその場を去った。


数日後、さっそく俺は彼女に「例の件、今週木曜夜19時でよろしく。」とメールを送った。
断定的なメールを送れば、彼女は断る術を見つけられず結局来ざるをえなくなるだろうと踏んでのことだ。
そっけない文面は、躊躇う余地を与えないため。
案の定、彼女は時間通りに俺のマンションに現れた。
たっぷりの食材と、俺の心を震わせる笑顔とともに。

リビングまで漂ってくる美味しい香り、そしてキッチンから次々と運ばれる料理の数々。
たくさんの小鉢に彩りよく盛られたそれは、どれも手のかかった心づくしのものばかりで。
普段は食べ物にほとんど興味を持てない俺が、次から次に手を伸ばしたくなる。
もっとも彼女が作ったと思えば、どれもおいしくいただかないわけがないのだけれど。

そんな俺の気配をどう察したのか、「つまみ食いはダメですよ」なんてクスクス笑いながら話しかけてくる彼女。
「君の作るものはどれも本当においしそうだからつい、ね。」
ソファに座ったまま隣に立つ君を見上げて微笑めば、「ありがとうございます」という頬が薄紅に染まった。
その頬に触れたいと、指先が勝手にぴくりと鼓動する。
俺は必死に、それ以上身体が勝手に動きださないよう自制した。


この時間が永遠であればいいのに。
心からそう思う。
君がいて。
俺がいて。
他の何にも邪魔されない二人だけの穏やかなひととき。
だから、この時間の記憶をできるだけたくさん貯金しておきたかった。


そんな日が週に1度か2度。うまく時間が合えば3度。
そうして瞬く間に3か月は過ぎた。
何度機会を作っても、結局何も変えられないまま。



「そう言えば、今日は七夕ですね。」
きれいに並べられた和食を前に、思い出したように彼女が言った。
「お天気でよかった。去年も一昨年もその前もたしか雨だったから。」

そう言った彼女に一瞬感じた違和感。
そのときは全然気づかなかった。
そのあともずっと気づかずにいた。
彼女が相変わらず”愛を否定”したままだったらそんなセリフ言うはずがないってことに。
気づいていたら、そこからの未来は今とはもっと違うものだったんだろうか。

――――いや、それでもきっと、行きつく先は同じだったろう。


「七夕と言えば……最上さん、今年はLMEの笹に短冊はつけたの?」
イベントごとが大好きな社長は、毎年七夕にはロビーに大きな笹を飾り、社員はもちろん来客にまで短冊を書かせている。
もはやそれは名物といわれる勢いで、今年も大量の短冊が大きな笹に飾られていた。

「ええ、まあ……。敦賀さんは?」
微妙に濁した答えとともに、さりげなく切り返してくる彼女。
「俺はさすがに書く暇がなかったから。でも書けばよかったかな。」
胸にずっと秘め続けている願いを思い、ふとそう口にする。
本当は短冊も受け取っていたし、書く時間もあった。
ただ、星に願ってでも叶えたい願いはひとつで、それは決して書いたりできないものだった。
いや、それでも書けば叶うというのなら、俺はきっと誰よりも先に短冊を手にしていただろう。

「最上さんの願いは……やっぱり一人前の役者になること?」
「そうですね……。私の夢は、いつか日本で一番の女優になることですから。」
キラキラと瞳を眩いばかりに光らせながらそう夢を語る彼女を、俺は複雑な想いで見つめていた。

同じ世界に身を置いていても、二人の立ち位置は微妙に違う。
彼女には彼女の目指す道があり、俺には俺の道がある。
歩ける道も、歩くべき道も、似ているようで全然違う。
それが重なっているように思えるのは、今この瞬間だけで。
もしかしたらこれから先は、それがまったく違う方向に向かっていてもちっともおかしくはない。
だから、心の奥でどんなに俺が彼女と一緒にどこまでも歩いていけたらと願わずにいられないとしても。
彼女が進むべき道を俺が勝手に遮ったり捻じ曲げたりするわけにはいかない。

いや、そもそも今の俺にはそんなことをする権利も何もない。

「ふうん……。日本、で、がんばるんだ。」
「え?日本以外のどこで、がんばるっていうんですか?」
さりげなく口にした言葉に思いがけず君が食いついた。
目を真ん丸にしてそう言って、すぐにああと頷いている。

「そっ か。敦賀さんは世界を目指していらっしゃいますものね。うん。敦賀さんならきっとハリウッドでもトップクラスの俳優になれます。間違いないですっ!いつか 絶対オファーがきますよ。そのときは日本代表としてがんばってくださいね。あっ、もうそのままアカデミー主演男優賞とか目指しちゃってください!敦賀さん ならぜったいいけます!私も後輩代表、ファン代表として陰ながら全力で応援しますから!」

うんうんと頷く君を見ながら、締め付けられるような痛みが走る。
自分で話題を振っておきながら、答えを聞いてこんなにも苦しくなる自分に呆れた。

「最上さんは?最上さんはハリウッドを目指さないの?」
「やだなあ、敦賀さんったら冗談ばっかり。私みたいなひよっこがハリウッドなんて。日本で一番の女優を目指すって言うのだって、大言壮語すぎるんじゃないかってドキドキしてるんですから。アメリカとか世界とか、ほんと夢のまた夢です。」

まずはとにかく日本です!と高らかに宣言した彼女に、思わず目を逸らした。
そして俺は―――――
できるだけさりげなく、この3か月ずっとずっと言おうと思っていたことを口にした。


「実は俺、アメリカに行くんだ。」
「へ?」
きょとんとした彼女に同じ言葉を繰り返す。
「お仕事ですか?」
「そうだね。」
「いつから?」
「明日。」
「うわっ、急ですね。大変!あっ、そうしたらお食事の件はひとまずお休みですか?」
小首を傾げそう尋ね、
「えっと……1週間くらい?それとももっと?」
?を絵に描いたような顔をして俺を見上げる彼女に、思わず笑みが零れる。
こんなにも苦しいのに、それでも彼女を見ていると自然と笑みが浮かぶんだ。

「わからない。」
「わからない?」
「1年か2年か3年か……。もしかしたらもっとかもしれない。」
「………え?」
「ハリウッド。」
「ハリウッド?」
「そう。ハリウッドからオファーがあってね。上手くいけばそのまま拠点を移すことになる。だから……」
「ハリ…ウッド………。」

そのまま彼女は半開きに空いた唇を閉じることもせず、じっとじっと俺を見つめていた。
その視線をまっすぐ受け止めるのが辛くて怖くて切なくて。

3か月ずっと来てくれてありがとう。
君の食事を食べられなくなると思ったら惜しくてね。
つい無理をお願いしちゃったんだ。
こんなぎりぎりに報告する形になっちゃってごめん。
なんだか言いにくくてさ。

呆然としたままの彼女に向かい、視線を揺らしながら俺はそんな風に言い訳じみた言葉を重ね続けた。
僅かな沈黙すら生まれるのが怖かった。






(つづく)

平安のころは草葉にたまった夜露を硯にとって墨をすり、 梶の葉に歌をつづって、七夕の星に手向ける風習があったそうです。 そんな風習が、江戸時代になって短冊に願いを書いて飾る形に姿を変えたのだとか。
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。
関連記事

コメント

  • 2016/07/07 (Thu)
    23:28
    切ないっ!!

    蓮様の気持ちとキョーコちゃんの気持ちを想うと、何だか涙腺がじわっと熱くなりました(/ _ ; )
    明日旅立つと知ってしまったキョーコちゃんは何か行動起こせるのかな?蓮様も何か変えることが出来るのかな?!とドキドキです!

    風月 #- | URL | 編集
  • 2016/07/09 (Sat)
    09:15
    Re: 切ないっ!!

    コメントいつもありがとですー^^

    最近雨が続いていたせいか、つい切ない系の七夕短編になってしまいました…。
    何とかハピエンで~後編がんばったつもりですがいかがでしたでしょうか。
    (ちょっとさらりと終わらせすぎ?)
    風月さんの短編連発、すっごく嬉しく読ませていただいてます♪

    ちなぞ #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。