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君からのキス

恋したくなるお題」様よりお題を拝借いたしました。



「………ひどい。」


聞こえてきた声に、零れ落ちた涙を掬おうと伸ばした指先が凍りついたように固まる。
目を合わすことすら躊躇われて、俺はそれ以上動けなかった。
後悔はしていない。
そう言っておきながら、目の前の彼女のひどく傷ついた様子に心が激しく乱されるのを感じていた。

それきり続く耐え難い沈黙。
シンと静まり返る室内には、切れかかった糸を手繰るような危うさが立ち込めている。

恐かった。
このまま先輩後輩としての繋がりまで切れてしまったら……それはたぶん彼女を完璧に失うことになる。
それが何よりも怖くてならなかった。
それでも……。
それでも、俺は言わないといけない。
心を決める。

「ひどいことをしたのはわかっている。でも、あれが正直な俺の気持ちなんだ。俺は君を………「いくら……」」

俺の言葉など耳に入っていないかのように言葉を重ねてきた彼女。
思わず口を閉じ、ぽたりぽたりと滴る雫に視線を留める。

「いくら身代わりでも………」

耳もとを通り過ぎる小さな声。
身代わり?
それはどういうこと?
俺が誰かと間違えて告白しているとでも?

「私にだって心があるのに………」

君はいったい何を言っている?
俺にはさっぱりわからない。

「それなのに、そんな風に言われたら………どうしたらいいかわからなくなる。」

まるでひとり言のような呟きを………彼女はぽろぽろと涙を零しながら、吐き出すように繰り返していた。

たぶん俺に話しかけているわけじゃない。
たぶん今の彼女に俺は見えていない。
それでもたしかに、漏れ出る言葉は俺に向けたものだった。

――――初めて見えた彼女の心

けれど俺は、泣きじゃくる彼女を前になすすべもなく固まっていた。
やがて聞こえてきた、掠れるほど小さく、それでいて強すぎる言葉。

「…………もう、無理。」

無理?
一体何が?何が無理だっていうの?
俺と君の間にはまだ何も始まっていないというのに。

「どういう……意味?」

意を決して尋ねても答えはなく、ただ君は俯いたまま頭を左右に振り続ける。

「……何が“無理”なのか教えて?」

言いながら俺は、揺れる身体をぐいと引き寄せた。
腕の檻に閉じ込めて、薄桃色の小さな耳に俺の心を投げかける。

「俺は君が好きなんだ。ずっとずっと君のことだけを見てきた。君を………君だけを愛してる。」

カタンッ
力がぬけて落ちた手のひらが、テーブルにぶつかって音を立てる。
びくりと震えた彼女の瞳がようやく俺を見つめた。

一瞬の沈黙。
呆然とする彼女。
そして意を決したように瞳が強く瞬き、彼女は一気に口を開いた。

「うそつきっ!敦賀さんには………敦賀さんにはちゃんとほかに好きな人がいるじゃないですか!ずっと好きだったのはその人でしょ?間違えないで!敦賀さんは私じゃなく、その人のことだけを大切にしてくださいっ!本当に好きなその人のことを!私は……私は………」

あふれ出る涙を拭いもせずに、まっすぐ俺を見据える。
凛とした瞳が、俺の胸に刃のように突き刺さった。

――――君はいったい何を言っている?

俺の疑念など毛の先ほども気づかぬまま、彼女は続けざまに叫んだ。

「私はこんなに好きなのに………敦賀さんのことが……好きだから………だからほかの人の代わりにそんなこと言われるなんて、もう耐えられない。こんなの、こんなの苦しすぎる………もう、もう無理………。」


スキダカラ。
………スキダカラ!?


今、君はたしかにそう言った。


ホントニ?
ホントウニ?


吐き出された彼女の言葉がうわんうわんと頭の中に響き渡る。
心臓が大きくうねり、息をするのも苦しいほど大きな何かが身体の奥底からせりあがってくる。


――――本当に君が俺を?


*


「嘘……だろ……。」

らしからぬ物言いと表情で、敦賀さんが少し前に私が口にしたセリフを繰り返しはじめる。
その様子に、私はハッと言葉をのんだ。

「本当に?本当に君が俺を?そんな………まさか………。」

呆然と瞳を見開き緩く首を振る敦賀さんは、これまで見たことがないほど驚愕した表情を浮かべていて。
整った唇の先から漏れる言葉はすべて疑問か否定ばかり。
私が敦賀さんを好きだなんてありえないと、そんな科白が次から次へと紡がれていく。

けれどその混乱はまさにほんの少し前の私そのもので………。
私自身茫然とそれを見ていたら、驚くほどストンとさっき投げられた敦賀さんの言葉が心に収まっていくのに気づいた。

私がこの人を好きなように。
この人も私を好きだと思ってくれているのだと。

そして同時に抱えていた疑念が、まるでヘレン・ケラーが初めて”水”を理解したときのように腑に落ちていく。

きょうこ……?きょう……キョーコ?
ま、さ……か………。

(きょうこちゃんって………私?)

じゃあ……じゃあ、敦賀さんは本当に私のことを。
私のことをずっとずっと前から好きでいてくれた……の?

その瞬間、私は思わず声をあげていた。

「嘘じゃない、です。」

そんな私に、敦賀さんはパチパチと瞬きを繰り返し大きく息を吐いた。
まだ驚愕の表情は1ミリも崩れない。
けれど気づいてみれば、ゆらゆらと不安げに揺れる瞳の色が何よりも雄弁に彼の想いを物語っていた。

「本当に?」
やがて恐る恐ると言った口調で象られる言葉。

「信じても……いいの?」

コクリと頷けばふっと目が細められ、ようやくふわりと表情が和らぐ。
それだけで私はもう胸がいっぱいになった。


「キョーコちゃん………、俺…………。」


だから私は――――。
だから私は、彼にこの気持ちをどうしても信じてもらいたくて。
なにより私はあなたを好きなのだと、はっきり証明したくて。


目の前の唇にそっと自分から口づけた。




―――――そのとき。

カッカッカッという速足の靴音がしたかと思うと、
ゴンゴンッゴンゴンッ
ものすごい勢いで扉を叩く音がした。

「蓮、いるか!」

廊下から聞こえてくる、普段からは想像できないほど興奮した社さんの声。
はっと顔を上げ、敦賀さんが立ち上がる。

「社さん。」

返事をするや否や、扉が勢いよく開けられた。


「蓮っ、大変だ。お前にハリウッドからオファーが来た。凄いっ、凄い話だぞっ!!」
「えっ!?」






(つづく)

最後に敦賀さんが「キョーコちゃん」と口にしたのは、感極まってというか頭が真っ白になってというか、そんな感じでつい口にしていた…ってイメージです。
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