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目を逸らした隙にキス

恋したくなるお題」様よりお題を拝借いたしました。



「おまえ、あれほど言ったのにアイツに本気になったのか。」

撮影所でみかけたアイツの後ろ姿。
中途半端にしまいこまれた大道具の影に隠れるようにして何かをじっと目で追っている。

イヤな予感がした。

あまりにもらしくない、アイツのいじらしいほど切なげな表情。
いや、らしいといえばらしいのかもしれない。
何年も前、一緒に暮らしていたころにはよく見かけた表情だから。

それだけで、ひどくイラついた。

ちくしょう。
今さら、そこいらにうろうろしてるバカな女たちみたいな顔をしやがって。
おまえは馬鹿か。あほか。おおうつけか。
俺があれほど言ったのにこんなことになりやがるなんて。

気が付かれないように背後から近づけば、イヤでもそれがはっきりと見えてくる。
僅かに潤んだ瞳。
震える唇。
瞬きを忘れた瞼。
動かない表情。
そして、刷毛で塗ったように朱が差した目もと。
心の中で毒づきながら、そのくせその顔から一瞬も目を離せない俺自身に何よりムカついて。
ひっぺがすようにアイツから目をそらし、代わりに視線の先を追いかけた。

ほらな。
やっぱりな。

辿るまでもなく見つけた大きな背中。

―――くそっ。

こうなることはわかっていた。
だから、さんざん釘をさしてきたんだ。
それなのに、コイツときたら………。

「おまえ、あれほど言ったのにアイツに本気になったのか。」

思わず出た声が、自分でも驚くほど低かった。
その途端、がっと音が出るほどの勢いでキョーコは俺を振り向いた。

「ショ、ショータロー!あんた、なんだってここに!」

一瞬大声を出しかけて慌てて両手で口をふさぐ。
そのままぶるんと頭を振ると、目を吊り上げながらまっすぐ俺に詰め寄ってくる。

そうだよ。
それだよ。
お前はそうやって、俺だけを見てればいいんだよ。
そうやって、生の感情は俺だけにぶつけてこい。
怒りも、悲しみも、憤りも、絶望も。
お前が周りにはぜったいに見せたがらないそんな感情を、バカ正直にぶつけられるのは俺だけだろ?
なあ、そうだろう?

「アイツじゃ無理だ。」

仕方ねえ。
受け止めてやるよ。

怒りも、悲しみも、憤りも、絶望も。
全部受け止めてやる。
だから………。

「お前にアイツは無理だ。」

でも、俺なら………。


そう思う俺の目の前で、お前は――――

「は?なにそれ。だからそうじゃないって、そんなんじゃないって言ってるでしょ。何言いだすのよ、ばっ、ばかじゃないのっ!」

全力で否定する言葉とは裏腹にどんどん赤く染まっていく顔。
急に勢いを失ってあたふたしやがって。
なんだよ、それ。
だから、ムカつくんだ。

「バカはお前だろ。丸わかりだっつーの。」

そう言った途端、ものすごい勢いで逸らされた視線がすべてを物語っていた。

――――許せるもんか。

“うるさいっ!あんた、本当にムカつく!“なんて言いながら振り上げてきた手を掴み、そのまま裏手へ連れ出した。
握り締めた手が妙に小さくて、俺の手の隙間から零れ落ちて消えてしまうんじゃないかと必死に掴む。
そのまま重苦しい扉を開け、ひと気のない非常階段へと連れ出した。
がらんと広がる階段下のスペースにふと蘇る記憶。

そうだ、いっそあの頃に戻ればいい。

「な、なにするのよ。どこに連れてくつもり。私はこれから用事があるんだからっ!」
「用事ってなんだよ。」
「えっ、えっと、その………。」

アイツか。
あの男にいったい何の用事があるっていうんだ。
そもそも用事とやらがあるんなら、なんだって物陰からあんな顔で見つめていたんだ。
あれはいったいどういうわけだ。

「ウソつくんじゃねえ。」
「ウソじゃないわよ。」

ぷいと背けた目元が赤い。
それだけで、怒りが沸点を軽々と超えていく。

「そんな顔して、何しに行く気だったんだよ。」

言い捨てて睨みつけるオレに、アイツは焦ったように話を戻してくる。

「だーかーらー、そんなことないって言ってるでしょ。」
「ウルセーなー。俺の目に狂いはねえんだよ。」


そのとき――――


キキッ。
燃え滾る頭の中とは裏腹に、冷静な耳が微かに響く軋み音を拾う。
滑らせた視線の先にちらりと映る足もと。
あれは間違いなく………。

もう一度アイツを見た。
焦ったように泳ぐ目が、動かない答えを俺にはっきりと告げてくる。

くそっ。
こいつはオレのもんだ。
オレのもんなんだ。

「アイツを好きだって顔にはっきり出てるんだよ。」

想いを叩きつけるように、俺はキョーコの手首を掴み、その身体を引き寄せた。
耳もとで囁いた言葉に、キョーコの顔が一気に朱に染まる。
大きな瞳がみるみる潤み、所在なく彷徨う。
決して目を合わすまいと逸らされた視線を追いかけ、そしてあの男に見せつけるように………。

そう。
あの男が何も言えずにただ立ち尽くしていたあのときのように。

キョーコの唇を無理やり奪った。



今さら甘い、
――――その唇を。






(つづく)
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