つねの香炉に草の葉を炊く (前編)

※6/22ほんの少し改稿
やっしー視点のお話です。そろそろ玄関先で蚊取り線香を焚く季節が来たなあ…と思いつつ書きました。



最近業界内で「敦賀蓮と京子が結婚間近らしい。」という噂がまことしやかに囁かれはじめた。
原因はわかっている。
蓮だ。
アイツだ。


*


数か月前20歳を迎えたキョーコちゃんは、今やすっかり売れっ子女優NO.1だ。
ドラマに出るたび役に応じて「まるで別人」と話題になるほど卓越した演技力。
演技に対するストイックさが注目される一方、バラエティで見せる飾らない性格とキュートな笑顔、そして愛さずにいられない天然ドジっぷり。
今や老若男女を問わず人気が高いというのも当然といえば当然かもしれない。

お茶の間だけじゃない。
キョーコちゃんのファンは、同じ俳優陣、スタッフ、果てはスポンサーにまで及び……となると当然の如く現れるのが彼女を狙う男たち。
蓮が言うところの、”目障りな馬の骨””うるさいハエども”だ。
その勢いたるもの………とくにここ1年はそりゃもうすごいのひと言に尽きる。
なのに本人は相変わらずの鈍感・曲解・無頓着。
自分がモテてるなんてこれっぽっちも思っていないから、とにかく無防備、隙だらけ。
だから余計に、有象無象の馬の骨・ハエどもを引き寄せてしまう。

そりゃ蓮だって、焦るよな。
ようやくスケジュールを合わせて撮影所やテレビ局に行くたび、大事なキョーコちゃんが男どもに囲まれてるんだから。

だからまあ、仕方ないと思ってたんだ。
アイツが害虫駆除にやっきになるのも。

それより先にやることがあるだろうと思ってはいたけれど、ね。

でも、さ。
まさか、さ。


*


じつは蓮とキョーコちゃんの噂が出たのは、これが初めてのことじゃない。
以前噂が出たのは、キョーコちゃんの名前が売れ始めたころだから、もうかなり前のことになるけれど。

当時、食の細い蓮のために(という“てい“で)キョーコちゃんにランチの差し入れや夕食作りの依頼をするのはすっかり定番になっていた。
ラブミー部への依頼といってはいたものの、それにしては多すぎる回数。
それが続けば、いやでも二人の関係に目をつける人間が出てくる。
それでなくとも蓮とキョーコちゃんの仲のいい先輩後輩ぶりは各所で目を引いていた。
正確に言うと、何だかんだで周囲に一線を引いていた蓮の、キョーコちゃんに限った距離なしっぷりが驚きをもって受け止められた、というべきか。

結果、噂は次第に大きくなりつつあった。
マネージャーとしては黙って手をこまねいているわけにはいかない状況。
蓮の立場もさることながら、キョーコちゃんも売出し中の女優さんだから、いつ何時仲睦まじい(といってもあくまで蓮の片想いだけど)2人の姿がキャッチされ、スキャンダルに発展するかわからない。
それっぽい写真さえ撮れてしまえば、あとはどうとでも文字にしてしまうのがゴシップ誌の定石だ。
そうなったらいったいどんな騒ぎになる事か。
正直2人のそんな雰囲気写真、撮ろうと思えばいくらでも撮れるはずだし………と俺は密かに戦々恐々していた。

「………というわけで、いずれ大きなスキャンダルになる可能性もあるかと思いますが、どうしますか?」

あえて社長に直接聞いたのは、俺同様蓮の気持ちに気づいていると確信していたからだ。
案の定、俺の報告に社長は驚きもせず、むしろガハガハと大爆笑して手を振った。

「ほっとけほっとけ。スキャンダル大いに結構。相手があの娘ならなおさら結構。だいたいアイツもそろそろ浮いた噂の一つくらい出ないと、そのうち艶のある大人の男の役がこなくなるぞ。
スキャンダルが出たところで、どうせ現実は一緒にメシ食うぐらいが関の山だ。いくら叩いても出ない埃をいつまでも追いかけるほど記者は暇じゃない。
実際、あの娘相手じゃ蓮は手を出すどころか手も足も出やしないだろう?といってあの娘相手以外に、アイツがスキャンダルのタネになるような真似、これっぽっちもするわけないしな。」

確かに俺もそう思う。

「まあ、仮にアイツがあの娘をモノに出来たならそれはそれで諸手を挙げてほめてやりたいくらいだ。……ああ、そういう意味ではもし記事になったら一番困るのはあの娘か。アイツなら、記事になったのをいいことに大喜びして勝手に交際宣言するくらい、やりかねないからな。」

ううむ、そんなことになったらさすがにあの娘に申し訳ないか、いや、あの子なら怒って事務所に乗り込んでくるくらいしそうだな、などと呟きながらにやにやと笑う社長。

って、そもそもうちの稼ぎ頭にスキャンダル大歓迎なんて発言、社長本当にいいんですか?と突っ込みたい気持ちもなくはなかったが、よく考えてみたら俺自身蓮の初恋応援団のひとり。いや筆頭。
にっこり微笑み、「せいぜい煽っておきます。」と告げるに留めた。

まあ、よかったのか悪かったのか。結局そのときは単なる噂で終わり、なんのスキャンダルにもならなかったんだけど。



あれからン年。
キョーコちゃんは本当に綺麗になった。
そして、蓮は相変わらず片想い街道を突っ走っている。

そりゃもう、呆れるほど一途に。

まさかこんなに延々と何もできずに片想いを続けるとは思わなかったけどな。
正直もうこうなってくると、さっさと告白して押し倒すくらいの男気をみせろよ、と思わないでもない。
が、傍目で見てもわかるほどアイツにとっては一生に一度のかけがえのない恋。
フラレたら一生立ち直れないだろうから慎重になるのもよくわかる。
それなら今のごく親しい先輩後輩の関係を守りながら、少しずつ距離を詰めていきたいと考えるのも、さ。

ああ、たしかにわかるよ。
よくわかる。
俺も似たタイプだから。

でも、な………。

仮にもお前は”抱かれたい男NO.1”の異名をもつ男なんだぜ。
もうちょっと、こう……さあ………。

それにさ。
お前が気づいているかどうかわからないけれど。
どうやらキョーコちゃん、いつの間にかラブミー部を卒業しているみたいじゃないか。
以前は当たり前のようにお願いできていたランチや夕食作りの依頼がいつの間にかできなくなって。
最初は、単純に売れっ子になったキョーコちゃんのスケジュールの問題だと思っていたけれど、どうやら真相は違っているらしい。
なんでそれを社長が秘密にしているのかよくわからないけれど。
社長のことだから何かウラがあってのことだろう?

いいのか?
もし彼女が”愛”の何たるかをちゃんと取り戻したのだとしたら。
彼女がいつ誰と恋に落ちたって不思議はないってことじゃないか。
あるいはもう恋に落ちているっていうことじゃないか。

お前がそうやってあと一歩を踏み出せずにいるうちに。
もしも………。
もしも、だぞ。

『“尊敬する憧れの先輩”に一番に報告したくて♪』なんて、誰かの手を取ってお前の前に現れたらどうする?


………ってそんなことになったら、俺が大変なメにあうじゃん。

と、ハッと気づいて。
真っ白の灰になった蓮の前で呆然と竦む自分自身の姿が容易に頭に浮かび……。

こりゃもう、俺もかつてない超全力で蓮の恋路をサポートするしかないと決意した。






(つづく)

後編冒頭のシーンが書きたいためだけに作ったお話です。後編は明日、同じ時刻にUPします。本誌感想はそのあとに~♪
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