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ねえ、わかって

以前、大好きな「蛍.火.の杜.へ」特別編を読みながら、ふと思いつきで書いた小話。こちらのサイトには掲載していなかったので、大幅加筆改稿してお届けします。
成立後です。



「敦賀さん、今夜はなにが食べたいですか?」

そう言って小首を傾げた君の頬に、玄関先でキスをする。
途端に頭のてっぺんまで真っ赤に染まる姿に思わず口もとが緩み、そっと手をあてた。


こうして君と暮らせるようになって。
俺の毎日は、信じられないほど華やかで明るい光と色と熱に彩られている。
こうして君が共にいてくれるから。
俺の毎日は、こんなにもあでやかになったんだ。


「なんでもいいよ。君が作ってくれるものは、どれもみんな美味しいから。」

そう答えてもう一度キス。
君の料理は、いつも本当に美味しくて。
食が細かったはずの俺が、うそみたいにぺろりと平らげてしまう。
その分トレーニングの時間が増えたことだけは、君との時間が減るようでちょっと悔しい気もするけどね。

そしてサラサラの髪に頬を撫でられながら、唇を離しかけた瞬間。
ふと見えた瞳に、ほんの少し困ったような悲しい色がよぎった。

え?
どうして?
なぜ?

けれどすぐにそれは消え、いつも通りの花のような笑顔で君は俺を見送ってくれる。

あれはいったいなんだったんだろう。
もしかしたら見間違いだったのかもしれない。
でも、気になる。

仕事をしていても、ちょっとしたはずみにあの色が蘇り、胸の奥に不安が走る。

考えに考えて
何度も何度も思い返して
それでもちっともわからない。

ただ―――――
そのままにしておいちゃいけないような気がして。

不承不承、社さんに相談を持ち掛けた。
仕方ない。
だって彼は、俺たちのことを知っているごくわずかな人間の一人で、
俺の知っている中でもトップクラスに女子力の高い……いや女性の気持ちに理解の深い人で、
何よりすぐに相談できる場所にいる人だったから。


「あーーーー。そりゃそうだよな。」

案の定、話したとたんにしたり顔で頷かれ、なんだかイラッとする。
だからといって、答えを聞かずにはいられない。

「え?わかるんですか。」
「そりゃわかるよ。」
「俺、ちっともわからないんですけど。」
「まあ、蓮にはわからないよな。」

イライラッ

「まあさ、蓮の気持ちもわからないわけじゃない。いや、むしろよくわかる。でもさ………」
「いいから、さっさと教えてください。俺の何がいけなかったんですか!」

思わず憤った俺に、社さんがぶっと噴き出す。

「お前、可愛いやつだな。」

そのセリフ、余計ですから。さっさと答えてください。
そう思った瞬間吹き出た冷気に、社さんが怯えたように肩を竦める。

「あー、いや、すまない。つまりさ。『なんでもいい』って言葉だよ。」

たぶんそれがよくなかったんだろうと社さんは言った。
俺が何気なく口にした『なんでもいい』は、言われる側にとっては『どうでもいい』と同義語にも聞こえるんだ、と。


――――どうでもいい?そんなこと絶対に、絶対に、絶対にあるわけないのに。


「頭ではそんなことないってわかっててもさ。心がついていかないときがあるんだよ。
曖昧な言い回しをされるって結構不安なもんでさ。たぶん、キョーコちゃんのことだから、本当はお前は、自分の作る食事が気に入らないんじゃないかとか、食べたくないのに無理してるんじゃないかとか、そんなことを考えてるんじゃない?」

妙に説得力のある言葉に追い込まれ、今度は一気に落ち込む俺。
そんな俺に慌てたように社さんが話を続ける。

「まあまあ、つまりそれだけ好きってことだろ。お前のこと。好きだから気になるんだよ。好きだから不安になる。そんなもんだって。お前だってそうだろ?なんか悲しそうな瞳の色をしてたっていうだけで、そんなに気にして、さ。」

ったく二人揃って相手の小さな言動に一喜一憂するなんて、ホント青春だよなーなんて、呑気に呟く社さんに背を向けて、俺はひとり思考の渦に囚われていた。




(本当に?まさか本当に………そんな風に思ってる?)

だとしたら、君は間違ってる。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
なんでもいいって言うのは、どうでもいいってことじゃない。

いいかい?

なんでもって言ったのには理由がある。

君の料理の腕は抜群だから、ただ口にするだけでも素晴らしく美味しい。
でも、それだけじゃないんだ。

たとえば、君といっしょに食卓を囲んで、
どうですか?と勧めてくれる君の笑顔に頷いたり、
美味しい?と微笑む君の眼差しを受け止めるだけで、
今までまともに味わうことなどなかったあらゆるモノが、一気に味わい深くなる。

………すると、信じられないほどすべてが一層美味しく感じる。


たとえば、食材のことをひとつひとつ丁寧に教えてくれたり、
調理法をわかりやすく説明してくれる君の笑顔をみているだけで、
今まで気にも留めなかった料理や食材に興味がどんどん湧いてしまう。

………すると、どんなものでも食べてみたくなる。


だから、食べたことがあるものも、ないものも、どんなものも、何度でも味わいたくなる。
君といっしょに食べたいものが、あまりにたくさんありすぎて。
どれかひとつを挙げるなんて、とてもじゃないけどできやしない。

つまりそういうことなんだ。
それがうまく言えなくて、なんでもいいなんて言い方をしてしまったんだ。


ああ、どうしたらちゃんと君に伝えられるんだろう。





「はあーーーーーーっ。」
大きく深くため息をついた俺をのぞきこみ、社さんがおかしそうに笑う。

「まあさ、いいんじゃないの。」
「よくないです。」
「伝えてるつもりで伝わってないことなんて、いくらでもあるもんだしさ。」
「いや、よくないです。」


そう、よくない。
君の心に曇りも陰りも、俺はほんの針の先ほどだって作りたくないんだから。


それに、食事のことだけじゃない。


どんなことでもそうなんだ。
他人からみたら、どんなに小さくつまらないことでも。
君から与えられるすべてのものが。
俺にとっては新鮮で、幸せな発見に満ちているんだっていうこと。

それをちゃんと伝えたい。


ただ、君といるだけで、
俺の中に、これまで感じたことのないような気持ちが、
自分でも知らなかった新しい自分が、
どんどん、どんどん生まれてきてしまうんだっていうことを。


きっと君は知らない。


絶え間ない喜びが、この上ない幸福が、君といるだけでどれだけ俺の中に溢れかえっていくことか。

―――――そう、自分でも持て余してしまうほどに。



上手く言えるかわからない。
ちゃんと伝えられるかわからない。
でも、精一杯伝えるから。

だからどうかわかってほしい。


俺にとってどれほど君がかけがえのない存在かっていうことを。


隣にいられる、この何よりも大切な時間を噛み締めながら
君といるこの幸福なひとときが、永遠に繰り返されるものになることを、
俺がどれだけ願い続けているかっていうことを。



君には、君だけにはどうしても―――――、

わかって、ほしいんだ。






Fin

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