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[拍手再掲] 足あと

※こちらは、拍手御礼として掲載していた作品です。
拍手ページ入れ替えのため、少々改稿しこちらに再掲します。



「こちらが京子さんの思い出の写真ですね。これはどこで?」
番組MCが映し出された写真を見ながら問う。

「グアムなんです。お仕事で初めて行った海外で・・・(それくらいなら言っても大丈夫よね。)」
「なるほど、きれいな砂浜ですもんね。この足あとは京子さん?」
「ええ。こんなにきれいな砂浜なのにひと気がなくて。調子にのって裸足でてくてく歩いちゃったんです。」

写っているのは、砂浜に転々と続く一人分の小さな足あと。
「そうしたらあまりにもきれいに足あとがついたから嬉しくて。」
つい撮っちゃいましたと笑うキョーコの表情は朗らかで明るく誰が見ても心地いい。
MCもにこにこと頷き、きれいな写真ですねえと同意した。


笑いながらキョーコは、スマホにおさめられたもう一枚の写真を思い浮かべる。
本当に大切な写真は、そっちのほう。


*


あのとき―――。
キョーコが裸足で向かったその先には、一人の男がいた。
南国の波打際には似つかわしくない、黒ずくめの大きな大きな背中。
揺れる波間を黙って見つめるその背中は、周囲を強く拒絶する剣呑な気配に満ちていて。
だからこそその周りには人影がただのひとつもなかったのだろう。

「兄さん………。」

呼びかけようとしてふと振り返る。
本当に誰もいないのか、確かめるように。
そうして辺りを見回して……足もとのその影に気づいた。

長く長く伸びるふたつの影。
実際の二人の間には確かに幾歩分もの隔たりがあるというのに。
その影は、肩を並べ寄り添うように連なっていた。

――――まるで恋人同士のように。


カシャリ

気が付けば思わず、手にしたスマホを掲げシャッターを押していた。
その音に、男がくるりと振り向く。
「セツ?」
小首を傾げ呼びかけながら、差し出してくる逞しい腕。
その瞬間キョーコはセツに姿を変え、腕の主へと走り寄る。

「兄さん、こんなところにいたのね。」

少し斜に構えた笑顔とともに。
セツはカインのもとへと駆け寄る。


*


「京子さん、素敵なお写真をありがとうございました!」
MCの声に、キョーコははっと我に返った。
頭を過った懐かしい記憶を慌てて他所に振り捨てる。
その刹那――――

“影だけで本当に満足だったの?”
幻聴のように聞こえた小さな声。

グアムでの時間は今も記憶に新しい。

その人の傍らに常に寄り添い、濃密な時間を過ごしたあの日々。
ときに逞しい体躯を抱き締めたりもしたあの時。

すべて演技だというのは分かっている。
幻のようなものだったのだと、ちゃんと理解している。
それでも、
それでも、確かにあの記憶は自分の中に残っている。

そして………。

今も携帯の中に残るたった1枚の写真。
重なるように寄り添ったそれは影だけだけど。

影だけでも寄り添えた証があるのなら
きっと、この恋を、この気持ちを、守っていけると。

それだけが自分に許されたことなのだと。


キョーコは何度もそう思った。




まるで聞き分けのない自分に
道理を言い聞かせるように。






fin
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