呆然自失

※タイトルつけました。6/3朝、案の定がばっと改稿しています。
拍手御礼のつもりで書き始めたのですが、思いのほか長くなってしまったのでそのままUP。タイトルが思いつきません……


突然撮影所の裏手に呼び出されたときは、いったい何ごとかと思った。
中学生の頃よくそうやって呼び出されては、罵倒されたり小突かれたり散々な目に遭っていたから、てっきり演技が下手だとかセリフ覚えが悪いとかそんなことをダメ出しされるんだろうなと覚悟していた。
だから、まさか………

「俺と付き合わない?」
なんて言われるなんて思ってもみなかった。

「へ?」
この人は一体何を言ってるの?とぽかんと開いた口が閉まらない。
そんな私に何を思ったのか、相手はじりじりとこちらににじり寄ってくる。
必要以上に近寄られるのが何だかとても不愉快で、そのたび後ずさりしていくうちに気が付いたら壁際に追い詰められていた。
するとソイツは、どうだとばかりに私の顔のすぐ真横にトンッと掌を置いてくる。

うわっ、これっていわゆる壁ドンってやつ?
女子がときめくシチュエーションNO.1とか言われてたっけ?

イケメン若手俳優として最近注目を浴びてきただけあって、このシチュになにやら相当自信があるらしい。
どこか得意げな笑顔を浮かべながら、ソイツは私にぐっと顔を近づけてきた。

「な。俺の女になれよ。」

はあ????????
バッカじゃないの。
あんたみたいなチャラ男、およびでないですから!
あんたなんかと付き合うくらいなら、毛虫にキスされるほうがずっとまし!
なんて即座に言い返そうとした瞬間――――。


「こんなところでいったい何をしているの?」


どこからか静かに響く声がした。
顔を見なくても誰だかすぐに思い当たるその声。

わわわっ、な、な、な、なんでこんなところに!?
しかも、どうしてこのタイミングで!?
と、とんでもないところを見られてしまった!!!

妙に気持ちが焦るのは、聞こえてきた声に怒りの色をひしひしと感じたから。


「もしかしてお邪魔だった?でも………」

その声の冷たさにふと気づく。
もしや、今この瞬間のこのシチュエーションは、まるでそう―――傍から見たら“こっそり逢引”でもしているみたい?
それに今のこの状態。
見る角度によっては、たとえばそう、キ、キ、キスでもされているようにみえてもおかしくない?

――――だとしたら、最悪。


「ち、ち、ちが………」

ちがうんですと言いかけながら恐る恐る声の方向に顔を向けた私の目に映ったのは、それはもうキュラキュラとキュラキュラと殺人的な似非笑顔を浮かべ、小首を傾げる敦賀さんだった。

ひいいいいいいいい!!!!

思わず首を竦め、視線をさまよわせる私。
とんだ邪魔が入ったとでも思ったのか、顔を歪めて振り向く男。

「なんだ、お前。いいとこなんだから邪魔するんじゃ………うわっ、敦賀蓮。あ、いや、敦賀さん。」

目の前のバカよりも頭半分背が高く、千倍ううん万倍かっこよく、いやもうこんなヤツとは比べるのももったいないくらい完全美形完璧超人の天上人なその人は、あっという間に私のすぐ横に歩を進め、壁につかれたソイツの手首をぎゅっと握っていた。

「こんなところでそういうの、よくないんじゃないかな?」

にっこりと浮かべた笑顔に、背筋がぞぉっと寒くなる。
間違いなく顔は笑っているのになぜか放つ空気は突き刺さるような冷気にまみれていて、思わずひぃっと伏せた視界に入ってきたバカの手。
握られた手首の先の指はどこか青白くぷるぷると震え、甲には冗談みたいに血管がにょきにょきと浮き出ている。

「ぃてっ!……い、いやその。す、すみませんっ!なんでもないんす。ちょ、ちょっとふざけていただけで。」
「ふうん、そう。ふざけてただけなんだ。彼女、嫌がってるみたいだけど?」

そう言うと、敦賀さんはすっと私に目を向けた。
敦賀さんの言葉に私はぶんぶんと頭を縦に振る。

「大丈夫?」
「大丈夫です……・。」
「ほ、ほんと、ちょっとふざけてただけなんで。その……」
必死に言い訳するソイツを、敦賀さんがちろりと睨む。

「冗談でやっていいことと悪いことがあるよね。」
有無を言わさぬ口ぶりはお怒りモード一色。
「す、すみませんっ。俺、ほんと、えっと京子ちゃんごめん。ぜんぶ冗談だから。忘れて。もう、今すぐ忘れちゃって。」

米つきバッタのように何度も頭を下げるソイツに、敦賀さんはようやく手を離した。
とたんに、ぱっととびのくソイツ。

「そ、その、失礼しました。俺……。あの、このことはどうか……「誰にも言わないよ。」」

かぶせるようにそう言うと、敦賀さんは小さく眉を顰めた。
それを認めた瞬間、バカの身体が一段と大きくびくっと跳ねる。

「お、お、俺。失礼させていただきます。あ、えっとキョーコちゃん、驚かせてごめんね。じゃあ、また。」

わたわたとそう言うと、ソイツは逃げ出すようにその場を去っていった。
それはまさに、尻尾を丸めて逃げ出す“負け犬”そのもので。
状況も忘れ、思わずぷっとこみあげた笑いをこらえきれずはきだすと、敦賀さんがじろりと私を睨んだ。


「最上さん、ちょっといいかな?」
「は、はい。」

聞いた瞬間背筋がピンと伸びてしまうほど鋭い声。
と思ったら、いきなり右手をぐいと掴まれた。
そのまま、引き摺られるように歩き出す。

どうしよう、怒ってる。
敦賀さん、すごく怒ってる。
でも、私だって好きであんな状態に追い込まれたわけじゃないのに………。


「だいたい、君は無防備すぎる。あんなところであんな男と二人きりになるなんてどうかしているとしか思えない。」
「え、で、でも…」
「でも、じゃない。ちょっと声をかけられたからって、ほいほいついていくからあんなことになるんだ。」
「ほいほいついてったわけじゃありません。」
「へえ、そう?じゃあ、なんであんなところであんなことになっていたわけ?」
「なんでって、それは……」
「ほら、みたことか。答えられないだろう?結局君は、警戒心がなさすぎるんだ。いや、そんな言い方は間違ってるな。生易しすぎる。考えなし、浅はか、無思慮、軽率……。」
「ちょ、そんな言い方ひどすぎます。仕方ないじゃないですか。あの人は先輩だし、共演者だし。」
「じゃあ聞くけど、あの場に現れたのが俺じゃなく、ゴシップ誌の人間だったらどうなってた?」

延々と説教じみた言葉を繰り返されながら、追いついていくのがやっとの早足で歩かれ、もう涙目だった。

怒られていて。
怒らせてしまったことが悲しくて。
どうにかわかってもらいたい。

でも……。

一方で私の意識は、右手に向いていた。
しっかりと握られたままの右手。
それこそ、こんなところを誰かに見られでもしたら……そのほうがさっきのことよりよっぽど大事になるに決まってる
それがわからない人じゃないだろうに。

この状態で、いったいどこへ連れて行くつもりなんだろう。

見上げれば、ただまっすぐ前を見てイライラと言葉を重ねる敦賀さん。
でも、どんなに怒っていても、その横顔はやっぱり西洋彫刻のように瑕疵なく整っていて。
ああ、燃え立つ炎のように綺麗だな、なんて思ってしまう。
そうして少し足が遅れるたび、繋がれた手がぐいと引かれる。
そのたびすっぽり包み込まれるような大きさとじわじわ伝わってくる熱がこれでもかと思い知らされて。
もう眩暈を起こしてその場に倒れてしまいそうだった。

こんなの、ある意味拷問だ。

相手が怒っているのがわかっていて。
怒っている勢いでこの手は繋がれているだけだってわかっていて。
それでも掴まれた手のひらから伝わる温もりを、何にも代えがたく愛しいと思ってしまう自分。

イケナイ
ノマレチャイケナイ
キモチガアフレル
アフレテシマウ

心の奥の箱の中にしまいこんだ想いが浮き上がってくる気配を感じて、打ち消すように頭を何度も振った。
その勢いに後押しされ、強い決意で繋がれた手を振り解こうと立ち止まる。

「もう離してくださいっ!」
「いやだ。」
「だって、こんな。困ります。」
「どうして?」
「どうしてって当たり前じゃないですか。それこそ誰かに見られてたらどうするんですか。誤解されたら、大変じゃないですか。」
「俺は別にかまわない。」
「そんなはずないです。」
「ある。」
「ないです。」
「ある。」
「困るのは敦賀さんなんですよ。」
「別に困らないっていってるだろう?」
「そんなことないです。」
「ある。」
「あるわけないっ。敦賀さんは私と違うんですから。」
「違う?それどういう意味?」
「敦賀さんは売れっ子俳優なんですよ。こんなところでスキャンダルを起こしたら大変なことになります。さっきの比じゃありませんっ。」
「スキャンダル?」
「そうです。」
「君と俺が?」
「ええ。」
「ふうん。それもいいんじゃない?」

この人は……いったい何を………・。

「いいわけないですっ!」
「どうして?」
「私なんかと噂になったら……「ずっと好きだったのに?」」

「へ?」

「俺の方があんなやつよりずっとずっと前から君を好きだったのに?それなのに、君が目の前でほかのやつにちょっかいかけられて。あんなところなんて、もう見たくない。」
「敦賀さん?」
「どうせならあんなヤツじゃなくて、君と俺がこうしているところを見られればいいんだ。そうして君は俺のだってみんなが思ったらいい。」

そう言い切った次の瞬間、敦賀さんは急にその場に立ち尽くした。
勢いあまって私はその背に激突してしまう。

「あ、あの………敦賀さん?」
「俺………。俺は、今いったい何を………。」

敦賀さんがらしからぬ声でうわあっ、と言うなりぱっと振り返る。
握られた手がそのままだったから、二重の衝撃で完全にバランスを失った身体が吸い込まれるようにその胸に倒れ込んだ。
わわわっ
転びかけて焦って、思わず空いていた手でぎゅっとしがみつく………敦賀さんの身体に。
そして焦って見上げた、その先にある敦賀さんの顔が………信じられないほど真っ赤に染まっていた。

「まいったな。こんな風に言うつもりはなかったのに。」

ぼそっと聞こえた声が少し掠れて上擦っている。
そう気づいた瞬間、心臓が喉から飛び出るかと思うほど大きく跳ねた。

「敦賀さん………。」

ドクドクと脈打つ音が頭の中を占拠して、それだけで頭がいっぱいになりそうになったのに。
でもしがみついた耳もとに響く私のじゃない心音は、それよりもっとずっと大きく早く脈打っていた。

(ウソ、じゃないの?冗談、でもないの?本当、なの?)

私が知りたい答えを何よりもその音がはっきりと物語っているようで。
その音をもっとちゃんと聞きたくて、私はその場所にぎゅっとを顔を押し付けた。

誰も、何も、間に入り込めないくらいぴっちりと。


「ごめん、最上さん。落ち着いたら俺の話を………聞いてくれる?」






Fin

思いつき王道シリーズ。仕事が行き詰ると、つい書きなぐってしまいます………反省。
そして案の定、朝読み返してひいいいいとなり、大きく手を加えました。いつも駄文でごめんなさい!

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コメント

  • 2016/06/03 (Fri)
    23:34
    思いつきでもいいの~

    思いつきの王道って、やっぱりいいですよね!
    だって~やっぱり真っ赤になる蓮さんはかわ格好いいんですもの~~~。
    今回も「うひ!」って読んじゃいました。


    実は、読んでいて気が付きましたが、明日、明後日とUP予定の内容と、若干内容があれ?ってなります。

    ほんのちょびっとですが、もし、お気を悪くされたらごめんなさいデス。




    かばぷー #- | URL | 編集
  • 2016/06/03 (Fri)
    23:44
    Re: 思いつきでもいいの~

    いつもコメントありがとうございます♪

    王道ネタ、ときどきがーっと書きたくなっちゃうんですよね。
    原作でみた口を押さえて頬を赤く染める敦賀さんの姿が忘れられず、ついこんな形で妄想!
    王道だから、ぜったいどこかのお話とかぶってるだろうなと不安になりつつ、でも王道だから許して~と(汗
    勢いだけで書いちゃいました。

    なので、いただいたコメントの件が「かぶってるかも?」てことならどうぞお気になさらず~。
    いやむしろ私のこのお話がどなた様かにかぶってる可能性大じゃないかと今ヒジョーに不安になってます……。

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/06/05 (Sun)
    06:52
    王道万歳

    …イイ。あ〰イイです、王道!もう悶絶。きゅんきゅんです!!

    ちなぞ様の、ひねった(工夫のあるって意味です)ストーリー運びとか、色んな感情の揺れも読んでいてたのしいですけど、王道もやっぱりイイですね〰!はふ〰ん(///ω///)

    王道はかぶりにかぶっていても、何度読んでもいいですよね。というか、やっぱりかぶっちゃダメなんですかね(T_T)私も王道書いたら皆様にかぶっちゃいますけど…(T▽T)

    ぽてとたべたい&ぽてとあげたい #- | URL | 編集
  • 2016/06/06 (Mon)
    11:45
    Re: 王道万歳

    悶絶&きゅんきゅんしていただけてよかったー!!!
    とにかく敦賀さんが真っ赤になった姿を書きたくって、思いのまま書き散らしたらこんな風になりました。
    もう、ほんとべったべたな展開で恐縮です^^;

    > 王道はかぶりにかぶっていても、何度読んでもいいですよね。

    ですよねー。
    いやいや、独自の設定・展開がかぶっちゃうのはマズイと思いますが、王道は(王道なだけに)かぶっちゃってもいいと思うのです―。
    むしろ読み専出身の私としては、いろんな方が描く『王道シチュ』を楽しみたかったりします~( *´艸`)

    ちなぞ #- | URL | 編集

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