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微睡の向こうに

成立後です。UP後、少し改稿してます。


初夏の空から降りそそぐ日差しは、そのままでは眩しすぎて眉を顰めるほどなのに。
幾重にも重なる木々の合間をくぐりぬけると、驚くほどやさしく柔らかく変わる。

そんな穏やかな光を身に浴びて。
君は縁側からぼんやりと庭の緑を眺めていた。

庭といってもそれは、
自然そのままの鬱蒼とした茂りを残していて。

そう―――。
まるで二人が初めて出会った、あの川べりのようだった。

耳を澄ますと聞こえる川のせせらぎ
ときおりこだまする鳥の啼き声。
吹き抜ける風まで、あの頃と同じ匂いがするような気がする。

「キョーコちゃん。」

思わずそう口にした俺に、君はひどく驚いた顔を向けた。

「びっくりした。」
「どうして?」

俺が”コーン”であることを彼女はとっくに知っている。
その話をして以来、二人きりでいるときにキョーコちゃんと呼びかけることも少なくない。
だから、彼女がそんなに驚いたことに、逆に俺が驚いた。

「だって、ちょうどコーンに初めて会ったときのことを思い出していたから。」

コーンに呼ばれたと思って驚いちゃった。
あ、そっか。
ほんとにコーンだった。

小さく首を傾げながらそんなことを呟いて、君はくしゃりと笑う。
あの頃のように俺に向かう、太陽のような笑顔。

「俺も。俺もあの頃のことを思い出してた。」

君と俺。
今この瞬間に二人が同じ記憶を重ねた偶然と、そう出来る想い出を持っている幸せ。
そのことが締め付けられるほど嬉しかった。


「あの頃からずっと好きだよ。」


言いながらつむじにキスを落とし、隣に座ろうとしてはっとする。


――――匂いが違う。


いつもと違うシャンプーの匂い。
それはたぶん、君がこの宿の備え付けのものを使ったからなんだろうけれど。
なぜかそれがひどく気に入らなかった。
まるで俺の知らない彼女がいるみたいで。

俺の知らないキョーコ……。

いや、それだけじゃない。
このイヤな気分。

ああ、そうか。
アイツを思い出したんだ。
幼いころの記憶を辿ると、もれなく脳裏に蘇ってくる存在。
考えるだけで腹立たしい彼女の幼馴染。
俺の知らないキョーコを知っているアイツ。

あの頃の彼女はまっすぐアイツだけを見て、アイツのことばかり想っていた。
そればかりか、アイツはそのあとも彼女の長い時間を共有して。
同じ記憶と想い出を、むかつくほどひとり占めしていた。

こんなにイラつくのは、俺の大切な幸せな想い出にアイツがしゃしゃりでてきたせいだ。

――――くそっ。

こんなのばかみたいにくだらない癪だってことは自分が一番よくわかってる。
今、彼女の中にいるのはアイツじゃなくて俺だって。
俺しかいないって、ちゃんとわかってる。

それなのに、どうにも我慢できない苛立ち。
それは、過去に遡ってまで彼女のぜんぶを俺だけのモノにしたいっていう我儘すぎる独占欲。
振り払おうとすればするほど、
彼女の中にある消しようのない"俺がいない時間"が、もやもやと脳裏にクローズアップされてしまう。
わけのわからない不安とやるせなさがおさまらない。

はあ………。

そんな小さな自分を気づかれたくなくて。
「ちょっとお昼寝。」
ころりと横になった俺は、そのまま彼女の膝に頭を置いた。

頬に伝わる温もりは、たしかに俺がよく知っているキョーコのもの。
この膝のやわらかさも、頭にしっくりくる幅も。
こうしてそれを確かめて少し安心して、でもやっぱりまだちょっと不安で。
ちょうど鼻先にある彼女のおなかに顔を押し付けてみた。
きっと今浮かんでいる、負の表情(かお)を見られないように。

そんな俺に向かって、
「もうっ。重いです。」
なんて言いながら押しのけるわけでもなく、ただ口を尖らせる君。
ほっとして
「こうしていないと、俺が寝ている間に君が誘拐されたら大変だからね。」
ってふざけてながら細い腰にぎゅっと抱きついたら、小さな指でおでこをピンと弾かれた。

「ぃたっ!」
「ちゃんとした旅館のお部屋にいるのに、誘拐なんてされるわけないじゃないですか。」
「だって、世の中何が起きるかわからないでしょ?」

それだけ言って目を閉じて。
手繰り寄せた彼女の手のひらをぎゅっと握りしめる。
絡めた指の合間から流れ込んでくる温もりが愛おしくて、気が付けばそこに唇を寄せていた。

「よかった。ちゃんとキョーコだ。」

呟いた俺の耳元を、サァーッと音を立てて思いのほか涼しい初夏の風が吹き抜けていく。
弄ぶように吹く風に散らされた俺の前髪。
くすぐったくてたまらなかったけれど、この場所からほんの少しも動きたくなくて我慢した。
俺だけの温もりをひとり占めしたくて我慢した。


………あ。


まるで俺の気持ちが伝わったように。
額からすっと指を差し入れ、君の手が乱れた俺の髪を懸命に整えていく。
サラサラと。
サラサラと髪に絡まる指先があまりに心地よくて。
本当に昼寝をするつもりなど毛頭なかったのに、だんだん夢心地になってくる。

唇を寄せていた手の甲をそのまま頬にあてれば、さっき感じた癪も不安も嘘のように消えていき……。
ただ、こうして君といられる幸せだけが美しい結晶と化して心の中に積もっていく。
君といるかぎり決して消えることのない、ただ増えていくばかりの幸せの結晶。

――――今ならすごく幸せな夢をみられそうだ。

うつつの狭間でそう思う。


ああ、でも、もちろん。
こうして君といられる現実に勝る幸せは、どこにもあるはずないけれどね。


――――ねえ、キョーコ。


「これからもずっと好きだよ。」

目を閉じたまま、そう囁く。
君の温もりに揺蕩いながら。





「私も。」

やがて訪れた微睡の向こうで、そんな君の声がたしかに聞こえた。







Fin

職場から見える空が一気に夏色に変わった気がします。紫外線コワイ……。

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