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視線 (前編)


「あ、キョーコ。」

撮影所の裏手に見えた覚えのある後ろ姿に奏江はふと視線を止めた。

相変わらずピンと伸びた姿勢は間違えようがない彼女の“親友”。
その彼女が笑顔を浮かべながら話しているのは……。

(あれはたしか……同じ事務所の人よね。なんか微妙なアイドルグループの一人だったっけ?)

正直、奏江の頭にはほとんど記憶されないタイプの人種。
それをなんとなく覚えているのは、彼がMCをしていた番組に自分が出る可能性があったから、だろうか。

(こういう世界でやっていくには、なんだかずいぶん押しが弱そうな人だけど…。)

ついそんな風に思ってしまったのは、彼がアイドルらしい整った顔立ちをしているのにあまりそれらしく見えない、ある種とても地味な雰囲気をもっていたせいだろう。

(まあ、すっぴんのキョーコもあんな感じだけど。)

思ってクスリと笑いが零れる。

(でもあの子の場合は底知れない生命力っていうか、なんかわけわかんないパワーをぷんぷん撒き散らしてるから、彼とはちょっと違うわね。)

とはいえ遠目にみても伝わってくる、人柄が滲み出るような穏やかでやさしげな空気は決して悪い印象ではなかった。

(なんだかいかにもいい人そう。まあ、私的には頭に”どうでも”がついちゃうけど。)

さすがにそれはひどいかと思いつつ、でもそんなもんよねとも思う。
そんなことより、キョーコが同じくらいの男の人相手にあそこまでくだけて気を許した態度をみせるのもなかなか珍しい、と奏江はつい二人の様子を観察し続けた。


何が楽しいのか、ひと言ふた言話しては互いに笑い合い、時には相手の腕や肩に軽く触れたりもする。
通りかかる人もいないではないけれど、特にそれを気にするでもなく会話し続ける二人。
その様子は、いかにも心安く親しげで。

(なんだか見れば見るほどお似合いに見えてくるから不思議よね。……まああの感じ、少なくとも“彼”のほうはキョーコを憎からず思ってるんだろうけど。)

いやむしろ、明らかに“好き”の方か。
客観的にここから見てるとずいぶんわかりやすく態度に出ているみたいだけれど、きっとキョーコはこれっぽっちも気づいていないんだろうな、と奏江は思う。
それって想う男の立場としてはなかなか悲しいものよね、なんて面白半分に考えてしまうのは、奏江にとってあくまでも“ヒトゴト”だからだろう。

……と、キョーコがいつも喧嘩腰に話している幼馴染の姿が浮かんだ。

(今話している彼とはずいぶんタイプが違うけど、あれはあれでいかにも気心知れてるっていうか、遠慮のない分ラクな相手っぽいわよね……。)

何を考えているのか、時折キョーコの前に現れては喧嘩をふっかけていく幼馴染の男。
過去の経緯もあり、以前は奏江もずいぶん警戒していたものだけど、最近の二人は喧嘩をしていても子供の諍いのようにしか見えなくなってきた。
どこか仔犬がじゃれあっているような雰囲気さえあって、ちょっと前のように本気でいがみ合っているような感じには見えない。
それが幼馴染というものかしら、と考えかけて首を振る。

(ううん。あれもやっぱり、男のほうに思惑あり、よね。もっとも、あの男の場合ガキすぎて自分のほんとの気持ちにすら気づいてなさそうだけど。
第一あの癇癪ぶりだって自分の気持ちの儘ならなさに苛立ってるようなもんで、好きな女の子に意地悪したがる小学生男子とそっくりだし……。)

にしても小学生並みって、ほんとバカな子はどこまでもバカよね、などと失礼なことを考えながら、笑みを零す。
その一方で、その割に最近二人の空気が変わってきたのは男のほうが薄々自分の気持ちに勘付いてきたせいかしら、とも思った。
だとするとこれからますますいろいろ面倒そうだけど……。

(もっともキョーコの中ではすっかり幼馴染“以下”のポジションが確定しているっぽいし、あの男がはっきり自覚したところでその先の見込みがないのは間違いなさそうよね。)

そう思えば、最近は案外必死にキョーコの元に行脚しているらしき男のことが少し哀れにも感じられる。

(ああいうのを見てると、タイミングってほんとに大事だなって思うわ。好かれているときに切り捨てちゃったせいで、好きだと気づいたときにはもはや恋愛対象にすらされていない、とか。)

自業自得だけど、ある意味悲惨……とたいした同情もなく心の内で呟いた。

そんな奏江の視線の先では、相変わらずキョーコが大きく手振り身振りを加えながら楽しげに会話を続けている。
向かう相手もにこにこと幸せそうだ。
やわらかな雰囲気は見ている方までふっと微笑んでしまいそうになるほどで

(もしかしたらキョーコに、いわゆる“平凡な幸せ”っていうやつを与えてくれるのはああいう人?)

なんて、奏江ですら思ってしまいそうになる。
これが例えばどこかの街角なら、微笑ましくも可愛らしいごくありきたりなラブラブカップルにしか見えないだろう。

(平凡な幸せ、か。少なくとも……。)

奏江の脳裏にもう一人、別の人物が浮かぶ。

(あの人じゃ、そんなの望めそうもないし。ああやって気兼ねなくふざけあうようなこともできなさそうよね。)

頭に浮かんでいたのは、“平凡”なんて言葉からはもっとも遠いところにいそうな一人の男。
同じ芸能界に所属するといっても、奏江やキョーコがいる場所をピラミッドの端っことするなら、その男がいるのはまさに頂点。
そこに君臨する“天上人”の一人だ。
一挙一動が世間の注目を浴び、発言ひとつがいちいち世論を騒がせる。

(でもまさかあの人がキョーコを、ねえ……。)

最近確信したその男の“想い”に、奏江はふと考えを巡らせる。
奏江の見立てでは、キョーコのほうもまんざらでもないんじゃないかと思うのだが、

(あの子はぜったい認めないわよね。)

両手を腰に当て、「ありえない!」と叫ぶキョーコの姿がすぐさま浮かび、ふこみ上げた笑いを押さえる。

(まあ先のことなんてわからないし。今は端っこかもしれないけれど、いきなり頂点に飛び上がれる可能性だってあるんだから。)

キョーコだけじゃない、自分だって…と奏江は思う。

(あの二人を見ていたらついついつまらないことを考えちゃったけど、やっぱり私は色恋より仕事だわっ!)

決意を新たにしてその場を立ち去ろうとした視界に、見覚えのある人影が映った。
え?と思い見直せば……。

(やだ。噂をすれば、じゃない。)

奏江が立っている場所からちょうど直角の位置にある窓際。
キョーコたちがいる場所からは見えそうにもないが、奏江からははっきりその姿を確認できる。
多忙を極めるはずの人があんなところで立ち止まっていったい何をしているのかと目を凝らしてみれば、何気ないふりをして唯ひとつ先をじっと見据えるまなざし。
辿っていけば、当然その先にいるのは今自分がみていた、まさにその二人の姿で。

(やっぱりね……。)

それにしても、そのどこか焦りまで感じさせる視線があまりにもピリピリと深刻で、奏江は思わず相手から見つからない位置に隠れるように身体をずらした。

(へえ、あの人もあんな顔するんだ……。)

意外といえば意外。
納得といえば納得。

(まあ、あの子限定でしょうけど。)

たった今考えていた、まさにその"想い"を体現しているような男の様子に、奏江はこみあげる笑いが止まらない。

(芸能界イチどころか下手をすれば日本で一番のモテ男でしょうに。なんだってまたあんな柱の陰から片想いよろしく熱い視線を送ってるんだか。)

誰かにみられたらどうするのよと思う反面、いっそみられるのも一興かもねと考える。
なにしろ、その男をみるたびに奏江が思うのは、『ヘタレ』のひと言なのだから。

(男なんだから、好きなら好きでさっさと動けばいいのよ。鈍感×曲解のあの子が察してくれるわけないんだし、そうこうするうちに、ほかの男にかっさらわれたらどうするつもりなのかしら。
それにあの恋愛音痴はときどきとんでもないことをやらかすから、変な男やダメ男にひっかかって酷い目にあう可能性だってあるじゃない。)

まあそんなことはこの私がさせないけど、と思いつつ、男のヘタレっぷりを思い返しては苛立ちが募るのは、奏江がキョーコの気持ちも薄々察しているせいかもしれない。


(別にうまくいってほしいわけじゃないけど。)

目の前の光景を見れば、ちょっと波でも立てたくなるというもの。
ふっと込み上げた笑いを噛み殺し、

「キョーコ!なにそんなとこで逢引してるの。」

奏江はわざと辺りに響くように腹から声を上げた。






(続く)

続きを全く考えていない件……w
とりあえず光くんの無事を祈っています。

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