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電力不足 ~ side R ~


成立後。前編で内緒の二人と書きましたが、内緒じゃなかったみたいです。敦賀さんが壊れ気味かも……。


―――好きすぎて……死にそう。

気がついたら止めようもなく口から零れ出ていた、それは紛れもない”本音”。

1日逢えないだけで、彼女の”今”が気になってたまらない。
3日逢えないと、無性にイライラが募る。
1週間逢えなければ、何を食べても味がしない。
それ以上になれば……息をするのも億劫になってくる。

もちろん仕事はちゃんとする。
要求されたことはもちろん、それ以上のことまで。
全部きっちりこなしているから、誰にも文句は言わせない。
そのために必要な最低限の生命維持活動も決して怠りはしない。
じゃないと彼女に怒られるからね。

ただし、それ以外のことは別。
彼女の存在の有無が、明らかに俺のすべてを左右している。
だから彼女に逢えないと。
彼女に触れられないと。
……なんていうんだろう。
だんだん魂が抜けていくようになったり、あるいはそう……いわゆる禁断症状が止まらなくなる。

まさに、キョーコ欠乏症。

おかげで最近は『アルコール中毒』や『薬物中毒』なんかの役がまわってきても、簡単に演じられる自信が出てきた。
この間ちらりと社さんにそんなことを言ったら、一瞬きょとんとされたあと全力で笑われたけれど。

でも本当にそれくらい―――俺は彼女に溺れきっている。


今日だってそうだ。

撮影が思いのほかごたついて疲労の重なった午前中。
ただでさえここしばらく彼女に会えずイラついていた心がますますささくれ立ってきて、ようやく入った休憩に少しでも休もうと楽屋に戻ってきた。
それが、まさかこんなところで……。

「おはようございます!」
「あれ?キョーコちゃんどうしたの?」
「こちらに急ぎの書類を頼まれて……。」

偶然聞こえてきた声に、ドアを閉じかけた手が止まる。

「そうなんだ。おつかれさま。」
「では失礼しますね。」
「ああ、また。」

遠ざかる男の声と近づいてくる気配。
音を立てず開けた扉から彼女の姿を認めた途端、さっきまで感じていたひどい頭痛がふっと失せるのを感じる。
そして俺は……

「最上さん。」

振り返った君に知らず知らず口元を緩ませていた。




「……ん。」

囲い込んだ両腕の中から伝わる温もりがじわじわと身体に染み込み、ひび割れた心を癒していく。
ゆっくりと大きく息を吸えば、“彼女”が全身に行きわたるようで……もう頭の痛みも感じない。

「ちょ……え?あ、あの……。」
突然抱き締められ戸惑ったように身じろぐ彼女を、回す腕に力を込めて制し、なお温もりを享受する。

いつだって君に逢えばこうやって抱き締めたくなる。
抱き締めると離したくなくなる。
そして君を誰の目にも触れない場所に閉じ込めたくなる。

そのくせ心の奥は、抱き締めるたび苦しくて。
でも離れればなお一層苦しくて。
だからこうして君を求めずにいられない。
触れるたび、狂おしいほど昂っていく……想い。

“この手を……離さないで“
“他の男を……見ないで”

それは、一生解消されることのない。いや、増していくばかりの”独占欲”と”嫉妬”。
こんな醜い感情にまみれた俺を知ったら、君はきっと俺に幻滅するだろう。
それが怖くて……でも、俺はこの気持ちを抑えられないんだ。


「はぁ…………。」

腕の中に閉じ込めるとよく分かる彼女のカタチ。

小さな肩。
細い腰。
しなやかな背中。
華奢なライン。

彼女を形作っているすべてが愛しい。
愛しくて、愛しくて。
いっそすべてを自分の中に取り込んでしまいたいと、そんな気ちがいじみた衝動にすら駆られるほど。

でもそれだけじゃない。

俺の名を呼ぶ声。
ころころと変わる表情。
ちょっとした仕草。
そして、どこまでも真っすぐ前を見る揺るぎない瞳。

俺はそのすべてに惹かれ、恋い焦がれ続ける。
言葉なんかじゃ言い尽くせないその想いは決して止むことなく、むしろ日毎に”焦燥”に近い激しさを増していく。

「好きすぎて死にそう。」

―――その言葉通りに。




「思ったように撮影が進まなくて……限界だった。」

君に逢えなかった焦燥をそんな言葉に変えて訴えかける。
すると呟いた俺の背に小さな掌があてられ、トントンと語りかけるように叩かれた。

慈しむように優しく。
包むように穏やかに。

ああ、本当に君はこれだから……。

「いくら充電しても、し足りないんだ。だから……」

この我儘な懇願を、果たして君は受け入れてくれるのだろうか。

「ずっと……いつまでも、俺と一緒にいて。」

そう発した途端、俺の胸がぐいと一気に押しのけられた。
その動作に奥底から不安が湧き上がり、背筋を怯えが駆け抜ける。
俺は必死に気を宥め、見上げる君に恐る恐る目を合わせた。
すると君はいきなりごそごそ動き出し、両手で自分の頬をぎゅっとつねりはじめた。
思わずあんぐり口をあいてみてしまった俺に、目元をさっと朱に染めて君は言った。

「夢じゃないかな、って思って。」
―――天使のようなはにかみとともに。

(………!)

どうして君は、そうやっていとも簡単に俺の心を浮上させてしまうんだろう。
さりげない一言で、俺の想いをこんなにも熱く激しく昂らせてしまうんだろう。

「敦賀さん、私……。」

そんな俺の動揺に気づくことなく、何度も唾を飲み込んで懸命に言葉を探している風情の君。
合わせたままの視線が迷うように左右に揺れる。
よく見ればその瞳の中には、自分でも呆れるほど蕩けた顔をした俺がいて。
あまりに惚けた顔に苦笑しつつ、そのくせ震えるほどの悦びを感じてしまった。

「……すごく幸せです。」

重ねられた言葉の不意打ち。
その瞬間、俺は本能的に彼女を全力で抱き締めていた。
自分の顔が、手の施しようがないほど緩んでいるのがわかる。
でも誰もみていないんだから……かまわないよね。

「俺のほうが、たぶん……ううん。間違いなくキョーコよりもっと幸せ。」
つい早口にそう言った俺に、君はぶんぶんと頭を振る。
「そんなことない!……です。私のほうがずっと幸せ。」
「いや絶対俺のほう……くすっ」

言いかけて噴き出した。
ねえ、キョーコ。
これってすごく不毛な言い争いじゃない?

抱き締めるだけじゃあきたらず、俺は胸もとに彼女の頭をぐいと押し付け唇を寄せた。

「俺……けっこうやばいかも。」
呟けば、再びゆるゆると持ち上がる潤んだ瞳。
「このまま此処で君を押し倒してしまいたい気分。」

俺の言葉に目を大きく見開いた君の、頼りなげに揺れるピンク色の唇に今にも触れようとした瞬間――――。


RRR…RRR…RRR…


突然鳴り出した電話に、彼女がはっと顔色を変えた。
そのままひょいと腕から飛び出して、足元に落ちていたカバンから携帯を取り出しはじめる。
そんな電話、無視すればいいのに。
なんて思っても、生真面目な君が言うことを聞くわけないのはよくわかっているから、俺は黙ってその動作を追った。

「あ、社長……」
彼女の呟きになおさら電話を取り上げることができなくなり、心の中でちっと舌打ちする。
「はい、もしもし。え?え、あ。はい。書類はちゃんと……はい。わかりました。……え!?そんなこと……は、い………そう、です…。あの……はい……。」

こくこくと頷き、丁寧な口調で受け答えする彼女が、一瞬あげた驚きの声。
同時にちらりと俺をみて顔を真っ赤に染めていく。
と思ったら潤んだ瞳で上目遣いに俺を見つめてくるから、心臓が鷲掴みにされたような感覚が走った。

思うんだけど……。
相手が社長なら”愛を確かめる”ちょっとした行為くらい、聞こえたところでどうこう文句を言われることも、ないよね。
そんなことを考えながら、食べ盛りのリンゴみたいになった頬へそっと伸ばした掌。
……に、「はい」と携帯が手渡された。

「あ、あの……敦賀さんに代われって……。」
今度こそ本当にちっと大きく舌を打ち、俺はしかたなくそれを受け取った。

「ターーーーーーーーイムアーーーーーーーップ!!!」

(くそ、このタヌキ親父。)
笑いを含んだ声が耳に飛び込んだ瞬間、心の中で大いに悪態をつき、俺は電話を切った。
「意味が分かりませんね。」と一言告げて。
実際、time-upなんて言葉は英語にないんだから、そう答えたっていいだろう?

その声が、あまりにも冷ややかだったせいだろうか。
びくりと大きく背を揺らした彼女の身体をもう一度そっと抱き締め直す。
「ごめんね。大丈夫だから。」
優しく笑みを向け、改めて彼女の唇に触れようと………

RRRRRR RRRRRR RRRRRR

今度は内線電話がけたたましく鳴り出した。
出るまで切らないぞ、という強い意志を感じさせるその音。
いったい誰の差し金やら。

「あ、あのっ、今日はこれで失礼しますっ。」

我に返ったように焦った口調でそう言うと、彼女は勢いよく踵を返し立ち去ろうとした。
その身体を急いで捕まえ、さっと唇を重ねる。

「ねえ、キョーコ。この後の仕事はさっさと終わらせるから、今日はうちで待ってて。」
言いながらさりげなく彼女のポケットに鍵を滑り落とした。

「来てくれないと俺、死んじゃう。」

脅迫じみたひとことを去り際の耳元に投げかける。


―――嘘じゃないよ。


証拠は今夜見せてあげる。

どれだけ俺が君に心を奪われているか。
どれだけ君を欲して欲してやまないか。


どれだけ君を……。


「約束。」

俺は彼女が絶対にNOと言えない微笑みを浮かべ、一足先に部屋を出た。






Fin
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