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電力不足 ~ side K ~


成立後の二人です。甘々を書きたかったのですが……ううむ。


「最上さん。」

楽屋口を通りかかった私に不意に声がかかる。

少し低くて心地いい、そしてどこか甘やかな響きを秘めたテノールは耳に覚えがありすぎで、聞いた瞬間胸がドキリと高鳴る。

「ちょっと手伝ってほしいんだけど、いいかな。」

見回せばやっぱり、専用個室の扉から上半身を少しのぞかせて手招きする敦賀さんの姿があった。
僅かに首を傾けているせいか、通路の灯が反射して艶やかに輝く黒髪がさらさら揺れている。

「あっ!」
偶然の邂逅に一瞬隠しきれない喜びが溢れかけ、慌てて口を閉じてこらえたら
「くくっ、変な顔になってる。」
実は意外と笑い上戸な素顔がふわりと零れ出るのが見えた。

「……っと、それで時間は今大丈夫?」

けれどすぐにその表情(かお)は消えて、誰にでも同じように向けられる陽だまりの笑顔に切りかわる。
口ぶりも態度も表情も、そこには”仲のいい事務所の先輩”を決して超えない一線を引いた雰囲気がちゃんと漂っていて。
心の奥がほんの少し、淋しく揺れた。

(いけないっ。今は仕事中なんだから!)

大好きなこの人と気持ちが通じ合ってから、ほんの少しのことにも揺れやすくなった私の気持ち。
一人前の女優を目指すなら、そんなんじゃダメなのに。
目の前で平然と微笑む人を見ながら、つくづくそう思う。

「ん?どうかした?最上さん。」

あ、ほらまた。
欠片ほども動かない声色。

何だか悔しくて瞳の奥を覗いても、そこには何も見えなくて揺れた心に冷気が寄せる。
こういうとき、つい思ってしまうこと。

―――本当は全部、私の夢なんじゃないだろうか。

この人が私のことを好きだなんて、実は……夢なんじゃ……。

急に悲しい気持ちが押し寄せてきて視界が歪みそうになったのを、ぶるんと頭から振り払う。
それから息を整えて、姿勢を正し、しっかりと頭を下げた。

「いいえ、なんでも。おはようございます。敦賀さん。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。お手伝いですね。私でできることでしたら。」

見上げた目線が重なって、二人同時に平坦な微笑みを浮かべた。



「じゃあ、ちょっと中に入って。あれなんだけど、充電切れを起こしたみたいで困ってて………」

言いながら私を中へ招き入れた敦賀さんが、ぱたんとドアを閉める。
指さす方をのぞきこんでみたけれどそこに荷物らしきものはなく、ただ身支度用の姿見があるだけ。
「へ?」と振り返ろうとした瞬間―――。


………あ。

背後から圧し掛かるように抱き締められた身体。
ううん。
“抱き締められる”よりももっと強く、そう”抱き竦められ”ていた。

突然のことに思考が止まりかけて、慌てて頭を左右に振る。
「ちょ……え?あ、あの……。」
回された腕と吸い付くように重なった背中から流れ込む体温に、自分のですべてが上気していくのがはっきりとわかり、思わず身じろいでしまう。


「しっ!動いちゃ……ダメ。」

柔らかなテノールが髪越しに鼓膜を擽り、甘すぎる吐息が頬をすり抜けて消えた。
それだけで身体の力がすぅと抜けて、言葉どころか息まで止まってしまいそうになる。

「で、でもこれじゃお手伝い……。」
「これがお手伝い。」
「は?」
「充電切れで困ってるっていったでしょ?ほら……」

言われた意味に戸惑って唖然とする私の耳もとで、敦賀さんはまたフッと息をつく。
ただそれだけでも、私が飛び上がるほど動悸してしまうのを、この人はわかっているんだろうか。

「今、俺、充電中。」

「充…電?」
「そう。だから……」

それだけ聞こえたと思ったら、今までよりもう少し両腕の囲いがキツさを増して。
頭にぽすんと重みがかかった。

「このまま動かないで。」

髪をすり抜けて、熱い息を感じ…る。
どうしよう、これって。
でも、こんなところでもし誰か入ってきたら……

「誰も来ないから平気。余計なこと、考えなくていいから。」

心をのぞかれたみたいに嗄声がして、前髪にキスが落ちた。
私の身体を包む両腕は、落とした視線の先でしっかりと交差していて。
伝わる温もりがたまらなく心地いい。

そうしてどれだけ経ったのだろう。

言葉はなにも交わさなくても、互いの想いが、互いの熱が触れた箇所から流れ込んでくるようで。

―――夢、じゃないよね。

身体を預ける幸せに身も心も溶けてしまいそうになった瞬間、


「はぁ…………。」

不意に頭上から落ちてきたひどく大きなため息にびくりと震えた。

―――どうして?

急激に襲う不安に目の前がぐらりと揺らぎ、それでも必死に恐る恐る頭をあげようとしたそのとき。
吐き出される息とともに何気なく呟かれた言葉。




「好きすぎて死にそう。」




どくんとひとつ、また心臓がはねた。







(side Rへつづく)
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コメント

  • 2016/04/24 (Sun)
    20:13
    コメントご無沙汰しておりました

    ちなぞ様

    めっちゃ激甘じゃないですかっ ごちそうさまでした^^

    ねこ #- | URL | 編集
  • 2016/04/24 (Sun)
    21:42
    うわわわ~~~むぎゅってなる。

    なんてまた、こりゃ、素敵!!!

    好き過ぎて死にそうだなんて、蓮さんに言われたら、こっちが死んじゃうわ!!

    こんな破壊力満点なお話し、ご馳走様です。うまうま・・・。めっちゃ癒されました~~。

    かばぷー #- | URL | 編集
  • 2016/04/25 (Mon)
    14:52
    Re: コメントご無沙汰しておりました

    激甘認定、ありがとうございます~♪

    とにかく甘いものを書きたくてシチュエーション的にはよくあるパターンなのですがついw
    蓮さんサイドをもっと甘くできないものか、ただ今がんばってます。
    よかったらまたいらしてくださいね~^^

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/04/25 (Mon)
    14:54
    Re: うわわわ~~~むぎゅってなる。

    おおお、癒しをお届けできて嬉しいです~!!!

    最後のセリフを蓮サマに言わせたい一念で書きましたw ←
    ときどき無性に甘いものを書きたくなるのは、どう考えても自分の毎日が乾きすぎてるからですよね……(遠い目)
    蓮サマサイドも甘々上等でがんばりまーす。

    ちなぞ #- | URL | 編集

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