スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

人言を繁み言痛み己が世に… (3)

※2016/04/29改稿(けっこう大きく変わっている部分があります)

更新が予定よりだいぶ遅くなり申し訳ありません!
試行錯誤していたのですが結局前中後編では終わらせることができず、流れに任せることにしました……。
もう少々お付き合いくださいませ。



『本日はお集まりいただきありがとうございます。』

カメラの前に立つ蓮に次々とマイクが向けられる。
さっそくとばかりに質問を飛ばすリポーターもいたが、蓮はいつもと変わらぬ穏やかな表情でそれらを軽くいなした。

『まずはじめに、このたび私事でいろいろとお騒がせいたしましたことをお詫び申し上げます。』

一旦注目を集め、流れるような所作で深々と頭を下げる。
そして再び顔を上げるとゆっくりと左右を見回し、彼にしては珍しくやや緊張した面持ちでカメラに向き直った。
どこか物憂げにも見えるそんな表情すら魅力的な蓮に会場の女性陣からは思わずため息が零れ、同時にフラッシュがパシャパシャと一斉に焚かれる。
激しい光が連続し、蓮はまぶしそうに目を細めた。



*



電話が鳴ったのは、その日の早朝だった。

(…………んん……)

時計を見れば、ようやく寝入ってからまだわずか。
空の色もまだぼんやりと暗い。
一瞬とるのをやめようか考え、やはり思い直して通話ボタンをタップする。

「よう、おめでとさん。」

耳もとで響く、クククッと可笑しげに笑う声。

(……社長。)

「朝っぱらからなんですか。いったい。」
「捕まえたんだろ。ついに。よかったじゃねえか。」

なんでこの人は……こんなに情報が早いんだ。
まだ霞む頭を抱えて考える。

「しっかしヘタレのお前が、今回はまたずいぶんと手早く派手にやらかしたもんだな。」
「は?」

言われた言葉に思わず頓狂な声が出た。
(どういう意味だ?)
一瞬戸惑い、見つかった答えに一気に頭が覚醒する。
(それって、まさか……。)

「撮られたんだよ。写真を。よりによって素人にな。いきなりネットで回されちゃ俺らも打つ手がない。」

そう言って社長はまた大きく笑った。
やはりアレ、か。

「まあ、今さら“熱愛発覚”しようが、“女を抱えて消え”ようが、お前の人気にも実績にもさして影響はないし、俺はどうでもいいけどな。むしろやっと色気のある話がでて喜ばしいくらいだ。だが……」

そこまで言って電話の向こうの空気が変わる。

「相手のこともちゃんと考えろよ。」


相手のこと?
考えていないわけがない!
そう反論したかった。
けれど、言葉がでてこない。

昨日の今日の出来事に、自分の行為が起こす影響力の大きさが改めて実感される。
これがアメリカなら大した話題にもならないだろうに。
あの瞬間俺は、自分の立場も忘れ、ここが日本だということも忘れ、感情のまま動きすぎた。
しかし、まさかこんなにも早くこんな事態になるなんて……。

結局出てきたのは、深く長い嘆息だけだった。


「で、どうするつもりだ?」
「どう?」
「こうなるとマスコミ向けだけでも何らかの手を打つ必要があるからな。打ち方次第でいろいろ状況も変わってくるだろう。だから当事者であるお前の心づもりを聞いておいてやろうと電話したわけだ。まああくまで聞くだけで、お前の希望通りにするかどうかは俺の胸一つだが。」

そういってまたひとしきり笑う。
この人から見れば、今の俺の状況は遊びがいのあるおもちゃを見つけたようなものなんだろう。
だが、愛至上主義者のこの人にうまく遊んでもらえるならそれに越したことはない。

「まず……早急に記者会見の手配をして頂けますか。」
「どんな話をするつもりだ。」

俺は端的に考えていたことを告げる。
途端に笑う声が一層大きく華やぎ、「おう。」と声がしたかと思ったらぷつりと電話が切れた。
相変わらず自由な人だ。
とはいえ今回はこれほど強い味方はいないだろう。
思いながら、俺自身ふっと口元が緩むのを感じていた。



昨夜から揺るがぬ想い。
俺の気持ちはひとつに向いている。

昨夜彼女が確かにくれた言葉が、その大きな拠り所となっていた。
今も俺を愛している、と……。



しかしまさか、1時間後にさっそく「準備は整ったぞ」と電話がかかってくるとは思わなかったが。



*



『それでは始めさせていただきます。まず……』
正面に向き直った蓮が口を開くと、会場が一気に静まり返った。

『今回流れた写真ですが、私で間違いありません。』
あっさり認めた蓮に一瞬気を呑まれたリポーターたちはすぐ気を取り直し、再び質問を浴びせ始める。

『それではあの女性はいったいどなたでしょうか。』
『どういう関係の方なんですか。』
『今回5年ぶりに帰国されたのは、あの女性絡みで特別な理由でも?』
『あのような場所にいらしたのはなぜ?』

押し寄せるマイクと四方から飛ぶ質問の声を手で制し、いずれの質問に答えるわけでもなく蓮は続けた。

『彼女は……やっとみつけた、大切な女性(ひと)です。』

現場が大きくどよめく。
女性スタッフだろうか。
一部からは悲鳴さえあがった。

『それはつまり恋人ということでよろしいんですね。』
『一般の方ですか。』
『この女性がほかの男性といっしょにいたという情報もあるんですが?』
『ご結婚のご予定は?』

怒涛のように押し寄せる雑多な質問の数々に、蓮は一度空(くう)を見つめ、何かを思うように視線を彷徨わせた。

『恋人、熱愛中……その言葉で表現していいものかどうか。今はまだ……ある意味片想いのようなものかもしれない。熱愛だとか、結婚だとか、そういう以前の状態なんです。ただ、間違いないのは……私が彼女を愛しているということ。』

淡々と語られる言葉。
一方で小さく眉間を歪めた、どこか苦しげにも見える表情に、会場がしんと静まり返る。

『日本で活動しているときからずっと…いいえ、それよりもっと前から、私の中には彼女しかいませんでした。世界で一番、いえ唯一愛している女性、そういってもいい。けれど……。』

苦しそうに言葉を詰まらせる蓮。
周囲は固唾をのんでその行方を見守る。

『私は自分の不明から彼女を見失ってしまった。気づいたときはもう……彼女はいなくなっていた。』

訥々と語るその姿に映し出された真摯すぎる想いが、集まった人々を圧倒していた。

『諦めきれず彼女を探して、探して……彼女の姿を追いかけて、追いかけて、追いかけ続けてやっと見つけた……。』

全国に放送されている記者会見の場とは思えない言葉の羅列。
吐き出される言葉は、明らかに会見用に用意されたものではなく、それどころかこのような公の場で語られるべきものですらなかった。
けれど事務所の人間も、そんな蓮を止めようとしない。
それが一種異様な空気を、会見場に起こしていた。

誰も逆らうことのできない、

『今ようやくその人に再び巡り会えた。私にとって”今”は、誰にも邪魔されたくない何よりも大事な時なんです。』

あまりにも包み隠さない言葉の数々に、歴戦練磨のリポーターたちもかける言葉を失う。
その間を推し量ったように、蓮は再び深々と頭を下げた。

『どうかお願いします。皆さんにはいずれ必ず結果をご報告しますので、今少し見守っていてくださいませんか。よろしくお願いします。』

そう告げるとすぐに会場を去ろうとする蓮に、ようやく我に返った一人のリポーターの声が追いすがった。

『たしか今日帰国されるご予定だったのでは?』

帰りかけた足が一瞬止まる。
ふっと目線を上にあげ、蓮は僅かに口角を上げた。

(彼女を手に入れたと確信するまで、向こうに帰るつもりはない。)


……が、結局それを口にすることはなく、蓮はその場を立ち去った。




* * *




画面を通して見たあの人の姿が頭から離れない。
語られた言葉のひとつひとつが頭から消えない。

それは信じられない映像だった。


―――どうして?なぜあんなことを……


昨夜のことがまざまざと蘇る。
あの人はまだ私を愛してくれていると。
そして何より私自身どれほどあの人を愛していたのかと気づかされたひととき。


それを裏付ける画面から流れてきた彼の言葉。


でも……
だからって……

だからってこんな……。

頭の中が混乱して、どうしたらいいのかわからなくなっていた。





本当はその日、出社してすぐオーナーにできるだけ早く店を辞めたいという話をしていた。

敦賀さんの胸に飛び込みたい……その気持ちがそうさせたといっても嘘じゃない。
でも、それだけじゃなかった。


『もう一度あなたのそばで、あなたと同じ道を歩いていきたい。』

そうきっぱりと告げた時、私は自分の中にひとつの熱い感情が目を覚ますのを感じたのだ。
それは、演技への情熱。

―――もう一度女優として上を目指したい。

かつて目指していた、そして一度は潰えたその夢への情熱が、自分でも驚くほど沸々と心に湧き上がっていた。



敦賀さんのことは、誰よりも何よりも愛している。
もうその気持ちに迷うことはない。
隠したいとも思わない。
いつまでもどこまでも彼といっしょに在りたい。
そう心から願っている。
そしてたぶん、ううん。間違いなく彼も同じ気持ちだと、そう信じることができた。

だとすれば今、気持ちのままに敦賀さんの胸に飛び込んでしまうのは簡単なことかもしれない。
彼もきっと受け入れてくれる。
けれど心のどこかが、そうじゃないと言っていた。


飛び込んで、それでいいの?
愛し、愛される。
それは大事なことかもしれない。
でも、それだけしかない。
それで、本当にいいの?

ううん、違う。そうじゃない。
じゃあ、いったい……?

そのとき、いつか隣に立てる日が来ることを迷いなく信じて、常に前を向き、一流の女優を目指し切磋琢磨していたあの頃の自分が頭に浮かんだ。


ずいぶん距離は離されてしまったけれど。
それでもいつか追いついて、そして同じ目線で彼とともに世界を見たい。

ただ、ついていくだけじゃなく。
ただ、愛し愛されるだけでもなく。

―――同じ道を、肩を並べて歩いていきたい。


その気持ちを自覚した瞬間、まるで深い眠りに落ちていた自分が目覚めたような気がした。
私自身見失っていた”本来の私”。
そんな私をこそ、愛してもらいたい。


その想いが、演技への情熱を再燃させたのだと思う。


――――演技の道に戻ろう。




そう決意し、私は”今”を終わらせることを決めた。


でも……。


あの気持ちがぐらりと揺らぐ。

あの人は私に何を求めているの?
私は……私が決意したことは本当に正しいの?




*




「まいったな。」

ぽつりと聞こえてきた声に視線を合わせると、隼人くんがハンカチを差し出していた。
(……え?)
それを見てはじめて自分が涙を浮かべていたことに気づく。
呆然と頭を振る私の目もとにぐいと押し付けられ、仕方なく受け取ったハンカチ。
気が付けば画面はもう違う番組に切り替わっていた。

「あっ、ご、ごめん。ぼっとしてた。えっと、なんか目にごみが入ったみたい。」
慌てて取り繕う私に苦笑しながら、隼人くんはゆっくりと立ち上がった。

「とりあえず出ようか。」
「あ、うん。」
返事をしつつテーブルをきょろきょろ見回すと、くすっと笑う声がする。
「会計なら済ませておいたから。」
「え!?でも……。」
「餞別、とでも思ってくれればいいよ。」

餞別?
焦って見上げた私の目に映ったのは、微笑んでいるのにどこか哀しげな瞳だった。

「隼人君、あの……。」

言いかけた私にゆっくり首を振ると、彼はそれ以上何も言わず私の頭をぽんぽんと軽くたたいた。
その感触があまりにもやさしすぎて、辛かった。

「ごめんなさい。」
ようやく絞り出した言葉に、目の前で微笑むやさしい人は小首を傾げる。
「どうして謝るの?」
そう返されても、私自身うまく理由を説明できない。
「キョーコちゃんはちゃんと俺にありのままの気持ちを話してくれた。それだけで十分。」
もう一度そう言って笑ってくれる人のやさしさが身に染みた。

この人に会えてよかった、と。
この人が私を好きになってくれてよかった、と。
心からそう思う。
でも……。

――――ごめんなさい。私はあなたの気持ちに応えられない。


「キョーコちゃん。君が京子に戻っても俺はずっと君を好……応援しているよ。」
「隼人君……。」

唇を一度小さく噛みしめると私は顔を上げ、今の自分にできる限りの笑顔を彼に向けた。

「ありがとう。」


そして――――。
この人のためにも今浮かんだ迷いは振り切らなくちゃいけない、と。

そう……思った。






(続く)
がんばったのですがどうも伝わりにくい文章になっている気がするので、もしかしたらあとで少し改稿するかもしれません。
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。
関連記事

コメント

  • 2016/04/12 (Tue)
    08:03
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2016/04/12 (Tue)
    09:41
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2016/04/15 (Fri)
    14:14
    Re: いっそ長編にしてください!

    p○○○○aさま

    コメントありがとうございます。
    大好きといっていただけてすごく嬉しかったです^^
    このシリーズ、実はもともとは3話くらいでまとめるはずだったのですが、いつの間にかこんなに長くなってしまいました(汗
    書いている自分も二人がどうなっていくのか少し先が見えない状況ですが、流れにまかせ書いていきたいと思いますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。
    よろしくお願いします!

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/04/15 (Fri)
    14:17
    Re: キョーコちゃんは・・・

    t○○○○aさま

    ある意味、自分もキョコちゃんも"追い込む"(いい意味で、ですけどw)会見だったんじゃないかと思っているのですが、そこで素直に飛び込んでいけないのがキョコちゃんでもあり…。
    ハピエンになっていくかどうかは、敦賀さんのがんばりに期待したいと思います←

    ちなぞ #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。