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サクラカゲ

こちらは「サンブザキ」「マイハジメ」「ハナアカリ」の続きとなります。
おまけのようなお話ですが、読んでいただけたら嬉しいです。



桜のきれいな場所を探そう。
出来れば誰にも邪魔されず、寄り添い花を見上げられる場所を。





――――― 1年後、バルボアパーク。


湖面を渡る風を受け、金色の髪と桜の花びらが煌めきながら軽やかに舞う。
薄紅の桜の合間から射し込む光を受けて佇む彼は、まるで春の王のように神々しく……
舞い散る桜を従えたその姿に、私はすっかり目を奪われていた。

「キョーコ?」
「え!?あ、その……」
「どうしたの?」

見惚れていた、なんて恥ずかしすぎて言えるわけない。

狼狽える私にクスクスと笑いながら膝を曲げ、彼は顔をのぞきこんできた。
今にも鼻がくっつきそうな位置から見つめてきたのは、まだ少しなじめない碧色の瞳。

「せっかく桜を見に来たのに、キョーコったら桜じゃなくて俺を見てるんだもん。そんなに見つめられたら、俺、穴があいちゃうよ。」
「ご、ごめんなさいっ。蓮さんっ。」

くったくのない口調は、私の知っている”蓮さん”よりも、どちらかといえば”コーン”に近いもので、そのせいかどこか緊張していた気持ちがすっとラクになる。
そもそも、コーン=敦賀さんだったのだから、“近い”どころか“同じ”で当然といえば当然なのだけど。
最近聞かされたその事実は、まだ頭の中でちゃんと消化しきれていない。

(だって、まるで”運命”みたいだったんだもの。)

蓮さんが私を好きだと言ってくれただけでも信じられなかったのに。
実はコーンで、しかもクーパパの子供で、本当の名前はクオンで……。
もう何もかもぜんぶが吃驚の連続で、考えるだけで頭の中がいっぱいいっぱいになってしまう。

(この金色の髪と碧色の瞳もそう……。)

上目遣いにそっと仰ぎ見れば、キラキラと吸い込まれそうな瞳がまっすぐ私を見つめていて、ただでさえドキドキしていた心臓が、さらに速度と振動を増して高鳴りはじめる。
カーッと熱くなっていく顔。
焦ってびくっと跳ねた肩を宥めるように、大きな腕が背に触れた。

……と思ったら、いきなり胸元に抱き寄せられ、ひぃと思わず声が出る。

そんな風にされたら余計ドキドキが止まらなくなるのに。
まさか逃げ出すわけにもいかず、困って身を捩ってしまう。

そんな私を窘めるように、
「ちがうでしょ?」
と声が降り、同時に空いていた手が私の顎をくいと持ち上げた。

ひゃうっ

不意打ちのように彼の唇が私のそれを掠め、一瞬吐息が重なった。
ドキドキがバクバクに変わり、顔に集まっていた熱がさらに温度を高め全身を侵し始める。

「蓮じゃなくて。」

ああ、そうだった。

「クオンさん……。」

苦しくなる息を押さえながら必死に答える私に、彼はちょっと眉を顰める。

「さんはいらない。」
「ク、クオン……?」

子どものようにたどたどしく返した私をみて、彼はいきなりクククッと笑いはじめた。

「キョーコ、可愛い。」

言うなり頬に唇が触れ、その唇がさらに首筋へと侵食していく。

「ク、ク、クオンさんっ!!!」

焦って飛び上がりそうになったのにきつく抱き寄せられたままの身体。
身動き取れず進退窮まって首をきゅっとひっこめかけたら、やっと唇から解放された。

「だから、さんはいらないってば。」
「そ、そ、そういうことじゃなくて!!な、なにをするんですか!は、は、破廉恥!!ま、周りから丸見えです!!!」

叫ぶ私に小首を傾げ、ふっと微笑む。
そんな顔したって、だ、だめです!!

「キョーコが可愛すぎて、俺を煽るから。」

しれっと言ってのけたかと思ったら、今度はふわりと伸びた両手が私をコートの中に囲うように閉じ込めた。

「ほら、こうすれば誰からも見えない。これならいいでしょ?」
「いいでしょってよくありませんっ!」
「だってしょうがないよ。」
「な、な、なにがですか!?」

「キョーコのそんな顔、ほかの誰にも見せたくないもの。」

こつんと頭にあたったのは額?

「そんな風に潤んだ瞳で見つめられたら、ドキドキしすぎておかしくなる。頬を真っ赤に染めて上目遣いにみられたら、この場ですぐに押し倒したくなる。俺じゃなくたってぜったいそう。だから、ね?」

耳もとで「ね?」と言われ、「そんなことあるわけない!」と反論しようと顔を上げた途端、唇にキスが降ってきた。
はじめは啄むように途切れ途切れだったそれは、拒み損ねているうちにだんだん深く長くなり……。
あっと思った瞬間、潜り込んできた舌先。
逃げ出そうとしてもすぐ追いつかれ、揶揄うように弄ぶ。
伝わってくる熱に浮かされたように身体が痺れて、すとんとしゃがみ込みそうになった瞬間。
ようやく唇が離れた。
そのまま近くのベンチに座らされ、脱力した身体が崩れるように彼の肩に倒れ込む。

「ひどい……。」

切れる息の合間から訴えてみたけれど、どこ吹く風の彼。
逆に、
「わかった?」
仔犬のような煌めきと男っぽい輝きを宿した瞳に飲み込まれ、気が付けば催眠術にでもかかったように私はこくんと頷き返していた。

「本当はキョーコの事、誰にも見せずに部屋に大事に隠しておきたいくらいなんだ。でもそういうわけにいかないのはわかってる。だから……」

頭の中がじーんと痺れてまだ力が戻らない左手を、彼の右手が掬い取る。
え?と思う間もなく、なにか冷たい感触が指を滑っていった。

「こうすることにした。」

(……え?)

目に映ったのは、薬指にそっとはめられた細いリング。
リングの中央にはティアドロップ型をした薄紅色の石がキラキラと輝いていて。
驚きに言葉も出ない。

「こ、れ……。」
「ほら、こうすると花びらに見えるだろう?」

取られたままの左手が、彼の手で空にかざすように向けられる。
すると満開の桜を背景にその石が、まるであの日見た桜の花びらのように輝いていた。


――――そう。忘れもしない1年前のあの日の桜のように。



“桜は……特別な花だから。”



突然の出来事に固まってしまった私の頬を、彼の大きな手がそっと包みこむ。
暖かくてやさしい大好きなその感触に引き寄せられるように、私はいつの間にか頭を預けていた。

「俺だけのキョーコになってくれる?」

顔を上げた私の目に見えたのは、さっきまではなかった懇願と不安の色を宿した瞳。
頬に触れた掌がふるふると弱く震えて…いる?

彼のらしからぬ姿と、何より今言われた言葉に、胸がキュッと締め付けられるように熱くなった。
(クオン……)
唇が音もなく彼の名を象る。
気が付けば私は、彼がそうしてくれたように両手を伸ばし、そっと目の前の両頬に触れていた。





強い風がざあーっと吹きぬけ、二人を取り囲むように立っていた木々が大きく揺れる。
視界を遮る程に舞い散る花びらは夥しい数の蝶の乱舞にも似て、その中にいると一瞬自分がどこにいるのか見失いそうになる。

けれど、私の身体はしっかりと彼の両腕に包まれていて。
そのことが、たとえようもない安心感を私に与えてくれる。


私の……私だけの場所。
  ――――それはあなたの隣。



「うれしい……。」

幸せすぎて零れ出た涙に彼の唇がそっと触れる。
心地よい温もりに身を任せ、私はゆっくりと瞼を閉じた。






Fin
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