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Nudie Lip

※2016/4/4改稿&再録

こちらは、2012~2013年に実施された『ぴーち☆どろっぷ』企画への参加作品を改稿し、再録したものです。


peachdrop.jpg
『ぴーち☆どろっぷ』お風呂場企画





とぽんっ。



頭の先まで湯に浸かり、それから思いっきり顔を出す。
ぶるぶるっと子犬のように頭を振れば、濡れた髪から辺り一面に水しぶきが吹き飛んで、キラキラと光を反射した。

(はあ・・・・。)

“頭を冷やす”つもりで、湯船に顔を埋めてみたけれど、何度試しても出てくるのはため息ばかり。

(やっぱり水じゃないとダメかしら。・・・ってそういう問題じゃないわよね。)

ぬれねずみの頭をもう一度振ると、キョーコは眉をハの字に下げた。

抱き締められた感触が抜けない。
腕の中で感じた蓮の香りが、いつまでも鼻腔にまとわりついて離れない。
思い出すだけで、身体中がカーッと熱くなり、心臓がドキドキ跳ね上がる。
そして、この唇……。

(あー、もうっ!お風呂に浸かってたら、頭が冷えるどころか余計茹っちゃうだけだわ。)

私のばかばか!などと心の中で叫びながら、それでもなぜかもう一度湯船に顔を埋める。
口もとぎりぎりまでずぶずぶとお湯に浸かって、ふぅと息を吐きそっと指で唇をおさえた。

(あんな敦賀さん……見たことない。)



* * *



蓮の手がそこに触れたのはほんの30分ほど前のこと。

共演したドラマの打ち上げが終わり、「どうせ同じ方向だから」といつもの調子で家まで送ってくれた蓮。
帰り際に挨拶しようと運転席に回ったら、『ちょっといい?』というように手招きされた。
「?」と思いながら開いた窓に顔を近づければ、急に伸ばされた右手。
長い手指がすっとキョーコの顔に触れたかと思うと、指先がいきなりごしごしと削るように唇をこすられた。
「こんな口紅、似合わないよ。」
何でもないことのようににっこりと微笑みを浮かべ、そのくせ投げやるような口調で言う。
触れた指先の感触と、じっと見つめる眼差しの熱さに、キョーコがどれだけ心臓を痛くしたかなんて思いもよらなげな素振りで。

ドラマの役が奔放で少し大人な女性の役だったから、今日のキョーコはそれらしくキレイに着飾っていた。
真っ赤な口紅も遜色ない大人びたヘアメイク。
「女らしくて素敵だね。」「こんなに綺麗だと思わなかったよ。」「色っぽくてドキドキした。」
共演者からの誰からも褒められ、(もしかしたら敦賀さんも……)と心のどこかで期待していたキョーコの想いはあっさり裏切られた。

今日のキョーコを見て褒めるどころか『似合わない』と切り捨てられ、茫然とするキョーコを横目に蓮はそのまま前を向きエンジンをかける。
ブルブルと煩く鳴り響くエンジン音。

(いつもは、私がいなくなるまでエンジンをかけたりしないのに。)

訝しく思うキョーコの耳に、抑揚のない蓮の声が届いた。
「じゃあ、また。」

いつものように笑顔を向けられることもなく、何か言葉をかけてくれるでもない。
それどころか、何でわざわざ送ってくれたのかわからなくなるほど冷たい素振りに、押さえる間もなく視界が滲んでいく。
でも何もいえなくて、キョーコは小さく頭を下げると後ろを向いて小走りに駆けだした。
挨拶をしたら、先にその場を立ち去るのはいつものこと。
だって蓮は、いつだってキョーコが姿を消すまで出発しようとしないから。
だからこうして立ち去るのもいつもどおり……だったはずなのに、走り出したキョーコの瞳には次から次へと涙の雫がふくらんでは風に散っていった。

(……どうして?)

込み上げる涙に戸惑いながら、数m離れたそのとき、後ろでバタンと音がした。
え?と思って振り向く間もなく、背後からぐっと抱き締められる。
身を固くしたキョーコの鼻先に、ふわりとよく知った香りが漂った。

「ほんとはメイクなんてしてほしくない。口紅だってしなくていい。
そんなことしなくたって君は十分きれいだ。
そのままでも、もう誰にも見せたくないのに。
君の美しさは、俺だけが知っていればいい。
……それじゃいや?」

びっくりして、戸惑って、何と答えたらいいかわからなくて、ただぶるぶると震えた。
そんな様子に困ったように怯んだ腕から抜け出すと、キョーコはそのまま振り向きもせずに家へと駆けこんだ。

意味が分からない。
訳が分からない。
何が起きたのか……分からない。

混乱した頭をどうにかしたかった。
どうすればいいかよい考えが浮かばず、思わず浴室に入り、ユニットバスの蛇口をひねる。
ザーザーと勢いよく噴き出すお湯を眺めながら、キョーコは放心していた。

(とにかく……頭を冷やさなきゃ。きっとまた……からかわれたか、じゃなきゃ何か試されてるのよ。あんなこと、敦賀さんが本気で言う訳……ない。)



* * *



ちゃぷん、ちゃぷん、ちゃぷん。
音を立てて湯が揺れる。
映っていた顔がゆがみ、幾重にも散っていく。

(はあ…………。)

思わず大きくため息をついた。
それから両手で意味もなく湯をかき回してみる。
さっきからその繰り返しばかり。

(考えてても、ダメだっ!)

なにがダメなのかすら思い付かない状態で、キョーコはバシャンッと浴槽から立ち上がった。
いつになくばたばたと飛沫を散らしながら、タオルを纏い、洗面に向かう。

ごしごしと勢いよく顔を洗ってみた。
何度も。
何度も。
顔を上げて正面の鏡を見れば、つるんと剥き出しになった素顔に、年相応の幼さが浮かんでいる。

「やっぱり……地味よね。」

それなのに、敦賀さんはどうしてあんなことを言ったんだろう。
疑問と同時に蓮から言われた言葉が思い出され、身体が一気に熱くなる。

(もうっ、もうっ、私ったら!なに考えてるの!?そんな、敦賀さんが私を好……ないないない!そんな莫迦げたこと、あるわけない!だって敦賀さんは敦賀さんなんだから!)

ぺちぺちと何度頬を叩いても、思いついてしまったそのことにキョーコの頭の中がどんどん真っ白になっていく。
身体に熱がこもり、バクバクとどんどん激しさを増す心音が苦しくてならない。

(やっぱり……ちょっと浸かり過ぎた?湯あたりしたかも。)


そのとき、扉の向こうで、微かに電話の音が聞こえた。
鳴り響くその音に、キョーコは慌ててバスタオルを身体に巻き、浴室から飛び出す。
音源の携帯を見れば、そこに表示されている「敦賀さん」の文字。

(な……どうして?さっき別れたばかりなのに。)

心臓がギュッと潰れる。
震える指が、躊躇って、戸惑って、受話ボタンをプッシュした。

「もしもし……」

喉が詰まっているみたいに、上手く声がでない。
途切れるように声を出したキョーコの耳に、蓮の声がこだました。

「ごめん。もう一度会いたい。下で待ってるから、来てくれるまで、ずっと待ってるから。だから……降りてきてくれないか?」

それだけ言い残して電話が切れた。
耳元に受話機をあてたまま、立ち尽くすキョーコの足元に、ぽたぽたと髪から垂れる雫が小さな染みを作っていく。


(ど、ど、どうしよう。もうお風呂に入っちゃったのに……。髪も濡れてるし、スッピンだし……。)

トクトク、トクトク、心臓がものすごい勢いで半鐘を鳴らし、動揺する思いがぐるぐると頭をめぐる。

(で、でも、だからってまさか無視するわけにもいかない……わよね。せ、先輩だもの。)

自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、ばたばたと洗面に戻り濡れ髪をピンでまとめ、とりあえず帽子をかぶってみた。
そうすると、余計にさらされてしまう素顔。

(地味で幼くてぱっとしない……。)

こんな顔で蓮の元へ行くのが恥ずかしい気がした。
とっさに目の前にあったリップを手に取る。
それを塗るだけでも少しは違うかも、と思って。
けれど塗ろうとしたその瞬間……さっきの言葉が頭の中に大音量で蘇ってきた。

『メイクなんてしてほしくない』


迷って、
迷って、
迷って……。

そのまま飛び出した。


一歩踏み出すごとに、鼓動が高鳴る。
一歩踏み出すごとに、戸惑いが増す。
一歩踏み出すごとに、怖くて震えてくる。


それでももう一度、聞きたいと思った。
投げられた言葉の真意を知りたいと思った。


『誰にも見せたくない』


どうなるかわからない。
でも、どうなってもかまわない。
ただひとつ、間違いないのはその言葉ひとつにこんなにも揺れ動く自分の心。

―――もしかして私……

認めたい気持ちと認めたくない気持ちがせめぎ合う。
だから、もう一度聞いてちゃんと確かめたい。


――――自分の本当の気持ちを。






fin

このお話と対になる蓮ver.「Nudie heart」を、『SWEET!』美花さんが『ぴーち☆どろっぷ』企画内で書いてくださいました。未読の方はぜひご覧くださいませ!

※『ぴーち☆どろっぷ』企画へのアクセスは、パスワード入力が必要です。詳細は別途限定記事をご覧ください。

コメント

  • 2016/04/05 (Tue)
    23:22
    懐かしいです

    更新ありがとうございます。
    時々ぴーち☆どろっぷ読み直してます。
    素敵なお話しばかりですよね。
    ちなぞ様のこのお話も両片思いの2人が切なくて
    もどかしくてキュンキュンでした。
    コトノハグサシリーズもヤキモキしながら読んでます。続きを楽しみにお待ちしています。

    ponkichibay #- | URL | 編集
  • 2016/04/11 (Mon)
    17:45
    Re: 懐かしいです

    こんにちは。
    コメント返信遅くてごめんなさい!

    ぴーち☆どろっぷは本当にすごいマスター様が勢ぞろいで、私は参加していて心苦しい限りだった覚えがあります^^;
    緊張いっぱいの中UPした作品だったのですが、キュンキュンしていただけてよかった!
    コトノハの続きもがんばります♪

    ちなぞ #- | URL | 編集

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