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人言を繁み言痛み己が世に… (2)

※2016/04/29一部改稿

いつもより少し短いですが、キリがいいのでお許しくださいませ。



(誕生日の朝……?)

言われた瞬間は、いったい何の話なのかわからなかった。
正直自分の誕生日なんて、人に言われて初めてそれと気づくほど気に留めたことがない。
だからいつのことかもわからず戸惑った。
女の声、というのがなおのことわからなかった。
そんな女、いるはずが……

(まさか……)

思い当たるただ一度の過ち。
いや、正確には過ちではないのだけれど、思いついた通りなら誤解されても仕方ない。
だから……

「信じてはもらえないかもしれないけれど、あれは……」


二人の間に縺れ絡み合った糸がほんの1本でも残っているのなら、すべてほぐしてしまいたい。
君の中に気になる芽がひとつでも残っているならそれをすべて摘み取ってしまいたい。
そして代わりに、何よりも君を想うこの気持ちを余すところなく注ぎ満たしたい。

ただ切実にそう願っていることをどうにかして伝えたくて、俺は必死に言葉を紡いだ。



*



長い長い話をした。
私の言葉に敦賀さんが答え、敦賀さんの言葉に私が答える。

言葉では言い尽くせないことも、
抱きしめられた胸もとから聞こえる心音や、絡めた指先から伝わる温もり。
時折こめかみにあてられる唇のやわらかな感触が、たしかに答えを教えてくれて。
気持ちが静かに満たされていく。

アルバムの空白を埋めていくように。
パズルの欠けたピースがきれいにはめられていくように。
心のそこかしこに空いていた隙間が、次第に埋められていき、
そのたびに、ああこんなにも自分の心はスカスカになっていたのかと思い知らされた。

縺れて絡んで私の身体をぐるぐるに取り囲っていた諦めという名の鎖は、もう決して解れることがないと思っていたのに。
それなのに……。
あなたの言葉は、あなたの心音は、あなたの温もりは、こうやっていとも簡単にそれを解いてしまう。
それどころか、代わりに信じられないほど温かく優しいものを私に注いでくれて。
冷え切った身体が温もりを得て再び自由に動き出すように、カラダが、ココロが、息を吹き返していくのがわかった。

どうして私はこの人なしにいられると思えたんだろう。

そんな風に感じてしまうほど。
あなたがもたらしてくれるものは、私のすべてを生き返らせる。


その事実をこうしてあなた本人の手で知らされていることが
怖いほど嬉しくて。

そして、嬉しいほど怖かった。



*



5年という月日のすべてを埋められはしない。
それでも俺たちは、互いの中にある空白を探しては埋め、探しては埋めていく作業に没頭した。

わかったことがひとつある。
俺も君も。
その空白の時間、”生きて”いなかった。


――――在るべき”自分”として。


「君だけなんだ。」
何度も繰り返し告げた言葉。
「君だけが俺に、光を、色を、温もりを与えてくれる。君というかけがえのない存在がなければ、俺はただの抜け殻だ。誰にもそれを気づかせやしないけれど、でも自分が一番よくわかっている。」

「あなただけ。」
そのたび返される言葉。
「あなただけが私に、哀しみを、憂いを、喜びを、幸せを。あらゆる感情を与えられる。あなたがいなければ、私はガラスケースに入れられた人形のようなものなの。そうして私自身すら本当の私を忘れてしまう。」

―――悲しみも、憂いも?

問いたくなる気持ちを悟ったように君の瞳は柔く瞬く。

「悲しみも、憂いも、私が私でいるために必要なものだもの。」

囁かれた声に混じる笑みが愛しすぎて。
耐え切れず抱き竦めた胸もとから、君の香りが匂い立つ。
知っていた香りとはもう違うはずなのに、それは以前と変わらず俺の心を強く煽ってきて。
たまらず俺は、僅かに朱を帯びた頬に手を翳して上を向かせた。

そうして潤みを湛えた瞳が、ただ俺だけを映し出していることを確かめてようやく安堵する。
同じように君の瞳にも、安堵の色が浮かぶのが見えて。

今こうして共にいることがたしかに現実なのだと確かめ合った俺たちは、引き寄せられるように口づけを交わした。


軽く触れるだけのキス。
ひとつに溶け合ってしまいそうなほど情熱的なキス。
何度も触れては離れ……離れてはまた触れ……。
ソレは、埋めきれなかった隙間のすべてを埋め尽くすように幾度となく交わされる。
角度を変えて。
深さを変えて。
何度も、何度も。


そうしてようやく、重なる唇は一方の想いをぶつけるものではなく、互いの想いと温もりを与え合うものなのだと悟った。



*



どれだけの時間が経っただろう。
閉ざされたこの部屋の中では、時間の経過すら不明だった。

このわずかな時間に二人の間にあった深い隔たりの全てが埋まったとはいえない。
いや、どれだけ時間をかけてもそれを埋めつくすことは決してできないだろう。
ただ、求める未来への道標は確かに共に同じ方向を指している。

蓮はそう確信していた。

(だが―――俺にはまだ話さなければいけないことがある。)

『キョーコ……。』

明かさなければならない秘密を口端に上らせかけた矢先、

「私……帰らなくちゃ。」

不意に放たれたひと言に蓮は驚愕し、大きく身体を震わせた。
「キョーコ!」
悲哀に満ちた叫びが零れ出る。

けれどキョーコは、ゆっくりと首を振った。
揺るぎない想いを秘めた眼差しとともに。

それは迷っている目ではなかった。
悲しんでいる目でも苦しんでいる目でもない。
気持ちを定めた目。

瞳には穏やかなそれでいて確固たる意志が宿っている。
かつての彼女を彷彿とさせる力強さを得た、懐かしい瞳の色だった。

信じよう。
彼女の気持ちを。
決意を込めた瞳の色を。

目に映る瞳の色に安堵の息を漏らしながら、蓮はそう自分に言い聞かせた。

「蓮、さん……」

そして呼ばれた名前。
キョーコの唇が自分の名を象った事実に、蓮は小さく震えた。
それは紛れもなく、自分のもとにキョーコが戻ってきた印だと、そう思えたから。

抱き締める両手に力がこもり、それに勇気を得たようにキョーコの唇が小さく開く。

「私……。」

言いかけた言葉が一瞬、躊躇いがちに言い淀む。
蓮はじっとその続きを待った。

「もう一度、あなたと同じ道を歩いていきたい。あなたを………。」

くいと見上げた瞳が蓮を捉え、不意に花が綻ぶような笑顔が浮かんだ。
迷いのなくなったそれは大輪の花のように鮮やかで美しく。
真摯な瞳は心のすべてを射抜く眩さに満ちている。

「あなたを愛しているから。」

何よりもほしかった言葉に、蓮は呆然とする自分をおさえきれなかった。

「でも……。ううん、だから……帰ります。」





「新しく何かを始めるなら、今をきちんと終わらせなければいけないから。」




* * *




「キョーコちゃん。あれ。」

少し焦った声に、キョーコははっと我に返った。
隼人が凝視しているその先に目を向ける。
それは、店内に据えられた小さなテレビだった。
ちょうどチャンネルが変えられたらしく周囲の注目を集めている画面。
そこに映し出された定番のワイドショー。
アナウンサーがにこやかに語る。


「それではここで、敦賀蓮さんの緊急記者会見をお届けします。」

二人は言葉もなく、画面を見つめた。





(続く)

前中後編では終わらない予感。

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