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10回、言って

突然、雹がものすごい勢いで降ってきてびびってます。皆様のお住まいの地域は大丈夫でしょうか。気圧の変化は体調にも影響しているようで、偏頭痛&肩こりまで……。寄る年波には勝てないようです。というわけで続き物が思うように進まなかったため、ぱっと浮かんだ短編をお届けします。



「え、えっと、ク、クイズでもしますか?」

焦った口調でキョーコがそんなことを言い出したのには訳がある。
うららかな春の光が差し込む午後のラブミー部室に、なぜかキョーコは絶賛片思い中の人気俳優と二人きりになっていたのだ。
それもかなり濃密な……息がかかるほど間近い距離で。
これが落ち着いていられるわけがない。

*

「やあ、最上さん。ちょっとここでのんびりさせて。」
なんて言いながら、蓮がここにやってきたのは数十分ほど前のこと。
キョーコはちょうど頼まれた垂れ幕補修の作業をしていたのだけれど。

「あ、手伝うよ。一人でやるのは大変でしょ?」
言うなり蓮は、キョーコの隣にひょいと腰かけた。
「ここを押さえればいい?」なんて言いながら手を伸ばされれば、自然に肩と肩がふれる。
(ちょ、ちょっと待って!)
それだけで、触れた箇所はぼっと熱くなり、心臓がうるさく跳ねはじめ、キョーコは動揺を隠せない。
そのうえ「どうしたの?」なんて間近から話しかけられれば、頬を霞める吐息に触れて悲鳴を上げそうになる。

「い、いえ、大丈夫です!敦賀さんはあちらでゆっくりなさってください。あ、私お茶でも……」
だからそう言って離れようとしたのに、すっと伸びた蓮の手にあっさり腕を掴まれた。
(ひぃっ!)
「どうぞおかまいなく。」
あまつさえ、この距離からにっこり微笑まれれば身体ががちがちに固まるのも無理はない。
「それよりほら、いっしょにやってさっさと終わらせちゃうほうがラクでしょ?」
穏やかなのにどこか有無を言わさない声で言われ、もう従うしかなかった。

*

「あ、ありがとうございました。おかげさまでさくっと作業を終えることができました。」
「どういたしまして。お役にたてて何よりだよ。」
返す蓮は相変わらずキョーコのすぐ隣に陣取っていて。
何が楽しいのか、それはそれは楽しげにキョーコの顔を覗き込んでくる。

「つ、敦賀さんは今日はずいぶんお暇……なわけないですよね。」
じっと見つめられるのがあまりに気恥ずかしくて、キョーコはなんとか気をそらそうとおしゃべりをはじめた。

「うん、まあ、そうなんだけど。ちょうどぽっかり時間が空いちゃってね。」
「の、のんびりさせてっておっしゃってたのにすっかり手伝っていただいちゃって申し訳ありません。」
「ううん。君の手伝いができて楽しかったし。いい気分転換になったよ。」
「気分転換、ですか?え、えっとそしたら……」


「ク、クイズでもしますか?」

どうにも止まらない心臓のドギマギが限界にきて、苦し紛れにキョーコはそう口にした。
きょとんとした蓮の顔がすぐ、ふっとこみあげた笑いに染まる。

「いいよ。どんなクイズ?」
「えっと……。敦賀さん、10回クイズって知ってます?」
懸命に頭の中を探り、最近テレビで見た懐かしのクイズシリーズを思い出したキョーコ。

「10回クイズ?」
「ええ。意外と面白いんですよ。じゃあ、私が出題しますから」
「OK。」

「えっとまず……ピザって10回言ってください。」
「ピザ、ピザ、ピザ……。」
「じゃあ、ここは?」
「ひじ?」

「……正解です。」

(……なんで引っかからないかなあ。)

「じゃあ、次。キッチンって十回言ってください。」
「キッチン、キッチン、キッチン……」
「鳥は英語で?」
「Bird」
「せ、正解です。」

(なんか発音まできれいすぎてちょっとムカつく。)


そんな調子でことごとく正解を連発する蓮に、キョーコはいつしかドキマギを露忘れ、すっかりクイズに夢中になっていた。
ちょっと手を伸ばせば届いてしまう距離も、クイズに集中するあまり今はもう頭から消え失せているらしい。
すぐ目の前で、くるくると表情を変えるキョーコを蓮は柔らかな眼差しで見つめる。

「へえ。面白いもんだね。」
「ですよね。意外と引っかかる人多いんですよ。……敦賀さんはちっとも引っかかってくれないですけど。」

軽く小首を傾げ、不満そうに尖がる唇。
その表情にクスクスとこみ上げる笑いを押さえきれず、「じゃあさ。」と蓮は口を開いた。

「最上さん、好きって10回言ってみて。」
そういって、キョーコの顔を覗き込む。
「え?」

言われた言葉にはっとして、すぐに頭がカァーッと熱くなる。
(・・・やだ。クイズなのに。)
そう思っても、熱はまったくおさまらない。
それどころか、今さら近すぎる蓮との距離を再確認させられて、息が止まりそうになる。
でもそれを悟られるのが怖くて。
「あ、は、はい。」
素直に返事を返した。
そんなキョーコを、蓮は無邪気な笑顔で見つめている。

(ほら、クイズなんだから!)
ドクドク高鳴る心臓を抑え、平静なフリをして。
「いいですよ。」
キョーコは必死ににっこり微笑み返した。

「好き、好き、好き・・・・」

わざと他所を向いて言い始めたけれど、やっぱり少し気になってキョーコが視線を蓮に向ければ、そこにはキラキラと宝石のように輝く瞳があって。
気づいた瞬間から心拍がどんどん速まっていく。
“はあーっ“”
だから言い終わった瞬間、思わず力が抜けた。

……………。

「さあ、敦賀さん。」
「ん?」
「続きのクイズは?」
「?」
「だから、その先です!」
「ああ……。」

勇むキョーコに向かい、蓮は前屈みに身体を乗り出して耳もとにふっと顔を寄せた。

「言わせてみたかっただけ。」

耳朶にかかる吐息は悪魔的に甘く。
ぞくりと背筋を震わせる。

「……え?」
「だから……、」

乗り出した身体を少し引き、呆然と言葉も出ないキョーコに向かい蓮はそっと微笑んだ。
繰り出された帝王の笑みは、それはそれは艶やかで蕩けるような色香に満ちていて。
抗いがたい熱を帯び、キョーコに迫る。
逸らしがたい漆黒の瞳は怪しく光り、キョーコはそのまま吸い込まれるような甘い誘惑に堕ちそうになって。

ガタンッ
思わず力いっぱい両手をテーブルについた。

「か、か、からかわないでください!!!!」

声を裏返してそう叫ぶキョーコの顔は信じられないほど真っ赤に染まっていて。
その赤さに今度は蓮が目を見張る。

「最上さん……。」

「つ、敦賀さんは意地悪すぎます!」
言い放つなり、席を立ち逃げ出しかけたキョーコの腕を、蓮はとっさにがしりと掴んだ。

「待って!」

振り払おうとするキョーコの腕を蓮は思いきり引き寄せる。
その拍子にバランスを崩した身体が倒れ込むように胸に飛び込んできて、蓮は慌ててその身を抱え込んだ。

「ちょっ!……やっ!」

蓮の胸にすとんと飛び込みキョーコは焦って逃げ出そうとしたけれど。
いつのまにか逃げようもないほどしっかり抱え込まれていて、その事実に気づいたキョーコの顔が、首筋が、ますます赤くなっていく。
「は、放してください。」
言いながら蓮を覗く上目づかいに潤んだ瞳は、朱に染まった顔色と相まって蓮の理性を揺さぶり打ち壊すのに十分すぎるほど十分で。

「からかってなんかいない。」

きっぱり言うなり、蓮は言い返そうとした唇を自分のそれでさっと塞いだ。

「つるっ……んぐっ。」

「からかってなんかいないから。」

本気だってわかってくれるまで続けるよ。
10回と言わず、100回でも1000回でも。

キョーコの耳もとでそう囁くと、蓮はもう一度キョーコの唇を塞いだ。






Fin
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コメント

  • 2016/03/29 (Tue)
    15:41
    可愛い〜♡

    ちなぞさんのお話は最高に可愛いー!!といつも悶え悶えしちゃいます!
    和歌シリーズも大好きで続き気になってますが、こういう短編も大好きです!
    全作品コメント残したいと思うくらい大好きです!((*´∀`*))


    タイトルと最初の内容から、『好き』って言わせちゃうんだろうなーとは思ってたのですが、言わせてみたかっただけって可愛くて素敵ー!!( *´艸`)
    だよね!!言わせてみたいよね!!なんて思っちゃいました。

    そしてちなぞさんのお話に触発されて風月脳内で勝手に妄想爆発(笑)
    スキを10回言わされたキョーコが問題は?って聞いたあとに、蓮様の唇が降ってきて『ちゅっ』と微かな音が響く。
    そしてビックリ顔で固まってるキョーコから離れながら蓮がにっこり「これは…?」って問題を出して、「え…?キ、キス…?ええぇ?!」ってキョーコちゃんがしどろもどろで答えながら真っ赤になるのを想像しちゃいました(笑)
    ↑もはや病気(笑)

    いつも素敵なお話をありがとうございます!!

    風月 #- | URL | 編集
  • 2016/03/29 (Tue)
    16:22
    Re: 可愛い〜♡

    うおおお、風月さんソレ完璧!完璧すぎます!
    なぜそう落とさなかったのか!自分の頭をポカポカしたくなりました…。

    にしても、仕事しながら(←おいおい)コメント読んでニヤニヤがとまりませぬよ!!!
    そ、そのラストで書き直したくなります!!!!

    ちなぞ #- | URL | 編集

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