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サンブザキ


こんばんは、ちなぞです。
通勤途中の桜の蕾がずいぶんふくらんできました。
風はまだ冬の冷気を漂わせているというのに、幾枝かはすでに咲いていて、ああもうそんな時季なのね~と春の近さを痛感しています。
この時季になると書きたくなる「桜」ネタ。今年は桜の開花に合わせて、連作にできたらいいなあと思っています。
毎度毎度似たようなお話で恐縮ですが、読んでいただけたら嬉しいです。



まだ暮れきっていない青鈍色の空の下、軽快に車を走らせていく。

隣にちょこんと所在なさげに座っているのは、片想い中の鈍感娘。
社さんの依頼で都下のスタジオまで差し入れに来てくれた彼女を「演技の勉強のためにも撮影見学していったら」と無理やり引きとめ、こうして送り届ける権利を手にした。

『俺はまだ打ち合わせがあるから』と残った社さんが、去り際俺の肩をポンと叩いていったのは、たぶんいろいろ含むところがあったんだと思うけれど、そこはあえて目も合わさずにスルーした。
もちろん山ほど感謝はしているが、にやにや笑いは見たくない。

それにしても……。

バックミラーを見るふりをして、さりげなく隣をのぞく。
俺の車の助手席は初めてじゃないくせに、彼女にとってそこはいまだにひどく落ち着かない場所のようだ。
さっきから何度ももぞもぞと動いては困ったように首を傾げている。
居心地悪げに見えるのは、車のせいか。それとも俺のせいなのか。

「あの……かえってご迷惑だったんじゃ?」
やがて、意を決したように彼女は口を開いた。
緊張しているのか少し上擦った声色で言われたそのセリフは、あまりに想定内すぎてため息をつきたくなる。

「何が?」
「だってわざわざ送っていただくなんて。まだ電車もある時間なのに……。」

本当に君はわかっていない。
俺がどんな気持ちで君に声をかけたのか。
そもそも送るよと俺から声をかけた時点で、そんな心配はまるでいらないに決まっている。
いや、まて。
まさか俺が誰に対してもとりあえず”送るよ”と儀礼的に声をかける男だとでも思ってる?
だとしたら、心外だ。心外すぎる。

「別に迷惑なんかじゃないよ。」
頭の中をそのまま言葉にできるはずなどなく、そう言って笑いかけてみた。
この程度で君が納得するわけがないとは承知のうえで。

「それより……俺って運転下手かな。」
ついでに思いついたセリフを吐き出してみる。

「え?そんなことない、と思いますけど。むしろお上手なのでは?でも、どうして?」
「どうしてって、さっきからやけに落ち着かないみたいだから。」
「そ、そりゃ……。」

困ったように下がる眉。
ちょっと情けない、そんな顔も可愛くてつい意地悪したくなるなんて、俺も相当イカレてるな。

「そりゃ……なに?ああ、もしかして、俺の車に乗るのがイヤだった?」
「イヤだなんて、そんなことないです!」
「イヤじゃないけど……好きでもないわけだ。」

なんてちょっと意地悪すぎる言い方だっただろうか。
びくりと肩を震わせて、何か言いかけ躊躇う彼女。
そのまま返ってくる言葉はなく、会話が途切れてしまう。
この間(ま)に彼女はいったいどんな言葉を言い淀んでいるのだろう。
気にかかり、隣に目を遣りかけたそのとき、

「好き……ですけど。」

耳に届いた言葉に不意打ちされ、危うく急ブレーキを踏みそうになった。
跳ね上がった心臓が、そのまま大きくバウンドする。

「好き、なんだ?」
「好き、ですよ。」

じゃあ、俺のことは?
言えない言葉を心の中で呟いた。

こんなに好きなくせに、先輩の位置に甘んじて何も言えず何もできない。
彼女に向き合う俺は、とにかくヘタレで弱虫だ。
一歩踏み出す勇気が持てず、いつもまごついてばかりいる。

今日もやっぱりそうだった。

「そうか。よかったよ。この車、スポーツタイプだから乗り心地はいまいちっていう人も多いから。」

適当なことを口にしてどんなにポーカーフェースを気取っても、さっきの動揺はまだ抜けず語尾が少し震えてしまう。
車の揺れとエンジン音で、君はきっと気づきやしないだろうけれど。


「あっ、桜。」

案の定まだひどく狼狽えている俺のことなど気にも留めない様子で、彼女は車窓から見える景色にそう声をあげた。



* * *



「あっ、桜。」

どうしても話をそらしたくて、とっさに見えた木の名を呼んだ。
とんでもない会話にいたたまれず、目を遣った窓の外。
左右に立ち並ぶ木々の枝先に、まだ申し訳程度だけれど薄桃色のかたまりが連なっているのが見えた。
それだけで何の木かすぐわかる。

「もう咲き始めたんですね。」
「ああ、そうだね。」
「満開にはまだちょっとかかりそうだけど。」

何気なく話を変え必死に会話を続けてみるけれど、心の中では嵐が大いに吹き荒れていた。

―――好きって2回も口にした。

そういう意味で聞かれた言葉じゃないってことくらい、重々承知している。
でも。
それでも、敦賀さんに向かってイヤとも嫌いとも口にしたくなかった。
だからって、私……。

―――好きって2回も口にした。


*


「送っていくよ。」

さりげなく言われたとき、あり得ないほど胸が弾んだ。
まだもう少し敦賀さんといっしょにいられる、そう思うだけで心がほわんと温かくなって。
どれだけ好きなんだろうと、自分で自分にあきれてしまう。
だから『俺はまだ打ち合わせがあるから』と社さんが言うのを聞いてがっかりした自分に驚きはしなかった。

ただ、ちくちくとした痛みが心にさして、

社さんのついでだから送ってもらえるのに。
送ってもらう理由がなくなってしまった。
まだいっしょにいられる理由がなくなってしまった。

そんな風に思ってしまう勝手な自分がさもしくてイヤになる。
だから……、

「じゃあ、最上さん行こうか。」

ため息を隠していた頭をぽんと叩かれ、いきなり掛けられた言葉に驚きを隠せなかった。
思わず見上げ為の前に敦賀さんの優しい瞳がきらきらと輝いていて。
心臓がキュッと絞まるように痛くなる。

「え?でも、私は電車で……。」
「車はあっちだから。」
口を挟む余地もなくあれよあれよと連れていかれて、気がついたら助手席に乗っていて。
いつの間にか車はもう、静かな住宅街を走り出していた。


ブルブルと低く唸るエンジン音と振動が、自分がたしかにここにいることを知らせてくれる。
そのくせどうしても現実味を感じられない車の中は、そこかしこに敦賀さんの気配が満ちていて落ち着かない。

ふぅと呼吸すれば敦賀さんの香りが鼻先に漂うし、視線を落とせばシフトレバーを握る手が見える。
男らしく骨ばっているけれど、ひどく綺麗で目を奪われる指先。
そして、視界の端で艶やかな黒髪がさらさらと揺れる。

すべてが二人きりの空間を、濃密に意識させてきて。
気にしないよう必死になればなるほど、鼓動がたまらなく早くなっていく。
運転中に余計なことを話しかけたらいけないと思うけれど、続く沈黙があまりにも苦しくて、つい声を出した。

「あの……かえってご迷惑だったんじゃ?」
破裂しそうな心臓をどうすることもできず、上擦ってしまう声。
敦賀さんは、そんな私を変に思わなかっただろうか。
そして何より、このドキドキを悟られていやしないだろうか。

「何が?」
「だってわざわざ送っていただくなんて。まだ電車もある時間なのに。」

どうか迷惑じゃありませんように。
“本当は面倒”なんて表情がどこにも現れないよう、ひたすらそう祈りながらそっと隣をのぞき見た。
でも……、

「俺って運転下手かな。」

返ってきたのは予想外のセリフだった。
「え?そんなことないと思いますけど。むしろ上手なのでは?でも、どうして?」
「だって、さっきから落ち着かないみたいだから。」
「そ、それは……。」

二人きりの空間、それもこんな狭いところで好きな人の隣にいたら、緊張するのも当然です。
なんて、本当のことを言えるわけがない。

「“それは……”、なに?ああ、もしかして、俺の車に乗るのがイヤだった?」
「イヤだなんて、そんなことないです!」
「イヤじゃないけど……好きでもないんだ。」

畳み掛けるように言われて、頭の中がついていけない。
イヤとか、好きとか、そんな単語ばかりがポンッ大きく頭に残り、ますます動揺してしまう。
だからつい………、


―――好きって2回も口にした。



* * *



青鈍色の空を背景に、絵の具を落としたような薄桃の点々がぽつぽつと並ぶ。
それを目で追うようにじっと前をみている彼女。
「満開にはまだちょっとかかりそうだけど。」
やがて残念そうにそう呟くのが聞こえた。

「桜か……。」
来週の今頃は、この桜も満開になるんだろうか。

「好き?」
「え!?」

飛び上がるような声の響きに驚いて隣をみると、目をまんまるくさせた彼女が俺をまじまじと見つめていて。
その頬がみるみる朱に染まっていく。

「桜。」
「ああ……桜、好きです。」

そう言うと今度はふぅーと大きく息をはきながら、ほっとしたように身体を弛緩させていくのがわかった。
見たことのないその反応が、妙に心に引っかかる。

今の反応はなに?
好き?と俺は聞いたよね?
いったい何のことだと思ったの?

思案に暮れる視線の先で、人影のない道路の信号が静かに赤に変わる。
車が停まったのをいいことに、俺はぐいと身体を傾け彼女の顔をのぞきこんだ。
彼女の頬は、思わず触れたくなるほどまだ赤い。

「ねえ、最上さん。よかったら……来週もまた差し入れに来てくれないかな?」

―――君と桜を見たいから。

続けて言いかけた言葉はあまりにも直球すぎるように思えて、心の中に飲み込んだ。
その代わり……。

「それで、ついでに帰りにうちに寄って夕食を作ってもらえたら嬉しいんだけど。」

思い切って言ってみる。
じつはこうして誘うのも決死の覚悟で言っているなんて、きっと君は夢にも思わないんだろうね。

「………」

しばらく待っても答えはない。
ただ、コクリと唾を飲み込むのがみえた。

「ダメ、かな。」

情けないけれど、縋るようにもうひと押し。

―――君と桜を見たいから。

いや、本音の本音はそうじゃない。

―――君とふたりきりになる時間が少しでもほしいから。


信号が変わる間際、ようやく彼女が僅かに頷くのが見え、俺はほっとしてアクセルを踏んだ。
走り出した道の両脇には、山ほどの蕾を抱えた桜の大木が幾本も並んでいる。

満開になっていなくてよかった。

次の約束ができたことを三分咲きの桜に感謝して、俺はさらにアクセルを踏み込んだ。
うっかり口元が緩みそうになったのを全力で噛み殺しながら。






Fin  ~その後の二人はまた次のお話で~
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。

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