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旅する蓮キョ ~Agrigento~


日本では突き刺すような寒さが身に染みる2月。
それがここシチリアでは上着も必要ないほど暖かく、吹く風も心地いい。

目の前には、赤土の大地がなだらかな起伏を見せて広がっている。
合間合間に群生するオリーブやアーモンドの緑。
遠く霞む海岸線は鮮やかに輝き、日本の2月とはまるで違う春の装いを見せていた。
(ここかな、)
幹線道路から脇道に入り、がたつく無舗装の砂利道で俺は車を停めた。

「見て。」
車から降りれば、なお一層広がって見える大地。
左手に目を向ければ、せり上がった丘の上に立ち並ぶ遺跡が見えた。
「ここは神殿の谷って呼ばれてるんだって。」
かけた声への反応が鈍い。
いつもの君なら、こんな景色をみたらとたんに歓声を上げて喜ぶだろうに。

「キョーコ?」
「はい?」
返事はちゃんとくれるけれど、なんだかちょっとそっけない声色。
(ランチをするまではいつものキョーコだったのに、いったいどうしたんだろう。)
顔色もいいし、体調が悪いわけでもなさそうだ。
考えても思い当たることは何もない。
困って横顔をそっと盗み見ると、唇が少しとんがっている。
(拗ねてる?)

「ねえ、キョーコ。」
「はい。」
「俺、何かした?俺に……怒ってる?」

こんなときは直球が一番。
腰を屈め、しょぼんとした顔で彼女を下から覗き見る。
途端にぱっと頬を染め、キョーコは困ったようにそっぽを向いた。
「だって……蓮さん、笑顔だったから。」

笑顔だったから?
さっぱり意味が分からない。

「レストランで……笑顔、だったでしょ。」
ぽつりと続いた言葉でようやく合点がいった。

「もしかして……あのウエイトレスさん?」
「もしかしなくても……ウエイトレスさんです。」
小さく噛まれた下唇。
眉がハの字に下がりかけている。
「二人で楽しそうに話して、笑顔で見つめあって……。そりゃきれいな人だったけど、でも……。」
次第に声が小さくなっていく。

ああ、そうか、そういうことだったのか。
やっと理由に思い至って、つい口もとが緩んでしまう。

あれはただ、ふたりきりで景色をゆっくり眺められるいい場所はないかと教えてもらっていただけだったのだけれど。
会話の最後に「本当に可愛い彼女ね!お幸せに。」とウインクされ、思わず微笑み返してしまった。
キョーコはまだイタリア語は早口の会話を聞き取れるほど得意じゃない。
だからきっと、あの様子を変な風に誤解したんだろう。

「どうして笑ってるんですか!」
「だって……」
「だって?」
「嬉しくて。」
きょとんとした彼女をのぞきこみ言葉を続ける。

「妬いてくれたんでしょ?」

俺の言葉に飛び上がって身を引こうとする彼女を腕の中におさめ、唇を寄せた。
「キョーコ、可愛すぎ。」
何度も何度も、キョーコの身体からくたんと力が抜けてしまうまでキスを繰り返して。
さすがにやりすぎたかと、ようやく身体を離したというのに。

20160320
「ひ…ど、い。」
とろんと潤んだ瞳で仰ぎ見られ、すぐ我慢できなくなる。
(本当に君はなんて……)
このまま誰の目にも触れさせず、どこかに閉じ込めてしまいたい。
切実にそう思った。
だから―――――

「そんな顔で煽る君が悪い。」
もう一度、さっきよりずっと深く長い長いキスをした。




「きれい……。」

緩やかに日が落ち、空が深く濃く色を変える。
紺碧の空を従え、広がる大地に幻想的に浮かび上がるライトアップされた神殿たち。
キラキラと輝く瞳で景色に見入るキョーコは、正直目の前の美しい景色より俺にはずっとずっと魅力的で。
あまりに魅力的過ぎて、このままどこかに消えてしまいやしないかと不安になる。
「おいで。」
だからそっと肩を引き寄せ、後ろからこの腕の中に閉じ込めた。

この大切な温もりは俺だけのもの。
そうだろう?

「キョーコのほうがずっときれいだよ。」
瞬く間に朱に染まった耳朶を軽く甘噛みする。
「はうっ。」
そんな声、ほかの誰にも聞かせやしない。

「このまま時間が止まってしまえばいいのに。」
思わず口にした言葉に小さく頷く彼女がたまらなく愛しくて。
これでもかというほど強く強く抱き締めた。


いつまでもこうして俺の腕の中にいてほしいと心から願いながら。




Fin
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