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旅する蓮キョ ~Venezia~


宵闇に包まれた水路を、水上バスがゆっくりと進んでいく。
真っ暗な水面の向こうにぼんやりと瞬く光はどこか別の島のものだろうか。
目を向けた途端、ざぁーっと吹き抜けた風が少し肌寒く、私は思わず隣の肩に身を寄せた。

日本からの観光客も多いのに、私たちがこうして寄り添っていられるのは付けている仮面と衣装のせい。
ベネツィアは今ちょうどカーニバルの時季だから、どこもかしこも同じように仮装した人たちで溢れている。
この水上バスにも、ほらたくさん。
声さえ出さなければ、それがどこの誰かなんて誰にもわからない。
蓮さんがどんなに有名人でも、そう。
だから、船を下りた人込みも安心して手をつないで歩ける。
通い合う温もり。
それが、こんなにもうれしい。

中世にタイプスリップしたような幻想的な街並みは、それだけでも気分を高揚させるのに。
たくさんの人を欺いているみたいなドキドキと、秘密のはずの恋を堂々と見せつけられるドキドキと。それから大好きなこの人の隣にいるドキドキと。
いろんなドキドキまで重なって、私はすっかりふわふわと夢心地なひとときに酔っていた。

20160320サンマルコ広場の喧騒を少し離れれば、目の前に広がるのは迷路のように張り巡らされた狭い路地と細い水路。
右も左もわからない初めての街をつながれた手に導かれるまま、石畳の上を滑るように歩いていく。
いくつもの小さな橋を渡り、建物の下に作られたトンネルをくぐるうち、自分がいったいどこにいるのかさえわからなくなって。
しがみつくように私の手を引く腕を掴んだ。
「ゴンドラもいいけど、このほうが二人きりになれるから。」
そっと囁かれて辺りを見回せば、オレンジ色の街灯が点々と揺れるばかりの裏路地には私たちのほか人影はなく…。
いつの間にか蓮さんは、つけていた仮面を頭の上にずらし立ち尽くす私をじっと見下ろしていた。

いつも優しい瞳が、今はひどく艶めいて見えてどきりと胸が高鳴る。
一気に顔が熱くなるのが自分でもよくわかって、恥ずかしくて。
つい目の前の仮面を元に戻そうと伸ばした私の手が、蓮さんに捕らわれた。
そのままぐいと引き寄せられ、身体全部が蓮さんのマントにすっぽりと覆われる。
ぎゅっと抱きしめられた、その力は驚くほど強くて。

「蓮……さん?」
思わず声を出した私の仮面が外され、頬を大きく温かい両手が包んだ。
そのまま、魅入られるほど綺麗な顔がゆっくりと近づいてくる。

「愛してる。」
囁かれた言葉にハッとする間もなく、重ねられた唇から伝わってくる仄かに熱い体温。
確かめるように何度も髪を撫でられ、鼓動が激しさを増していく。
頭の中が真っ白になるほど続くキスに心臓が耐え切れず、つい自分から唇を離してしまったけれど。
すぐに淋しくなって、思い切り背伸びして彼の耳元に唇を寄せた。

「私も……愛してます。」
早口にそれだけ囁いて、そっとキスを返す。
触れるだけのキス。
私にはそれが精いっぱい。
もう気持ちが溢れていっぱいいっぱいになって、たまらず逞しい胸に顔を押し付けた。
背に回された手が、熱い。


風に乗って、どこからか歌声が聞こえる。
ゴンドリエーレの力強い歌声。
朗々と愛を奏でるその声に後押しされるように、私はもう一度背を伸ばした。



Fin
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