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不安な夜 (3)

※2016/3/6稿&再掲

こちらはFC2サイトには未掲載となっていたお話を改稿し、Amebaより転載したものです。
同じスタートなのに書き手様によってさまざまに展開の異なるストーリーが楽しめる『不安な夜』企画の第3話となります。



逃げるように彼女がこの部屋を去って、ずいぶん時間が経った。
時間を追うごとに俺の携帯の受信箱に無機質なエラーメッセージがたまっていく。

――User unknown――

その文字の冷やかさに、指が震える。
それでも何度も何度もメールを打った。
再送ではなく、一字一字打ち直す。
そうすればいつか君に届くような気がして。

『最上さん、今日は美味しい食事を有り難う。俺はまだ起きているから、無事についたらメールだけでもしてくれないかな。君が心配だから。』

けれど何度メールを送っても、返ってくるのは同じ。

――User unknown――

届いたメールを開くたびに底知れぬ不安と焦燥が、俺をじわじわと占拠する。
“受信拒否”
ぜったいに認めたくない言葉が頭をよぎる。
電話をかけて、着信拒否を告げる言葉が流れたら、たぶん俺は耐えられない。
だから……番号を押せなかった。
彼女のことになると、情けないくらい腰が引ける俺。

そして今日、絶ち切れた糸の感触は、恐ろしいほど俺の心を殴打していた。

もう無理なのか?
俺じゃだめなのか?

最近の彼女はどう考えても、俺を避けようとしているとしか思えなかった。
俺から離れようとしているとしか思えなかった。
そのうえ心ここにあらずといった仕草。
考えれば考えるほど、イヤな想像がまざまざと浮かぶ。

俺のことがイヤになったんじゃないか。
いいかげん面倒みきれないとでも思われているんじゃないか。
あるいは……どこかに好きな男ができたんじゃないか。

背筋がすうっと冷えていく。

俺じゃ駄目なのか?
俺じゃ無理なのか?

それでも俺は、メッセージを打ちながら一縷の望みに縋ろうとしていた。
浮かんだ恐れが“決定的”になったわけでない理由をどこかに見つけようとやっきになっていた。
せめてこの状況が”着信拒否”でないことだけでも、なんとか確信したかった。

きっと何かわけがあるんだ。
もしかしたら、最上さんに何かあったのかもしれない。
そうだ……。
事故にでも遭っていたとしたらどうする?

携帯を手に家中をうろつき、結局いてもたってもいられなくなり、車のキーを手に玄関に走った。
せめて、彼女の部屋の灯りをみるだけでいい、そう思った。
無事であることがわかれば、きっとそれだけで少しは気持ちが落ち着くはずだ。

(これじゃ、まるでストーカーだな。)

自嘲的にそう思いながら玄関ドアを開ける。
すっと入り込んできた冷たい空気を蹴散らすように振り払い、俺は外に出た。

*

ようやく来たエレベーターに乗り込もうとしたそのとき、視界の端にキラリと光るものが映った。
(……?)
近寄ってみると、それは1台の携帯電話だった。

見覚えのある色。見覚えのあるデコレーション。
これは……間違いなく彼女の携帯だ。
しかし、拾い上げた携帯を手に首をかしげる。
だとしたら……送ったメールがエラーで返ってくるはずないんじゃないか?

少し考えて思い至った。
ああ、そうか。
落としたことに気付いてすぐ解約措置をしたんだな。
相変わらずラブミー部に所属しているせいでマネージャーのついていない彼女の携帯は、仕事の連絡などにも使われている。
どこで落としたかわからないとなれば、安全のためにもすぐ解約か利用停止をしてもおかしくない。
ふぅーーーっと大きく息を吐く。

(メールを拒否されたわけじゃ……なかったんだ。)

そのことに、自分が想像以上に大きく安堵していることに気付き、ふっと笑いがこみ上げた。
うん。メールが返ってきた理由はそれだ。
たぶん間違いなくそれだ。
だから……大丈夫。
大丈夫、だ。

(彼女の態度だって、こんな風に何てことはない理由があるのかもしれない。)
安堵の思いが安直に前向きな思考を呼び込む。

そうだ。
彼女は、昔から直球勝負な子だった。
ヘンな方向に曲解することは何度もあったけど、いつだってまっすぐに物事を受け止め、自分の中の正義に従ってどんなことにもまっすぐぶつかっていく子だったじゃないか。
たとえ嫌いになった相手でもあんな風に曖昧に態度を変えていくような子じゃない。
なし崩しに関係を消そうとするような、そんな子じゃない。

ん……?

曲解……?

よく考えてみろ。
あの態度の原因が、“俺のことがイヤになった”とか“俺以外の誰かのことを考えている”せいだと考えるのは……、それはあまりにも当たり前な発想すぎやしないか。
普通の子が相手ならたしかにそれが最も納得のいく理由だ。
それが事実正解かもしれない。
でも……彼女だぞ。
今まで何度その”当たり前”が裏切られてきた?
なのに今回に限ってそんな“普通”の理由が原因だということがあるのか?
もしかして、あの態度には、彼女なりの理屈に根ざした理由があるんじゃないだろうか。
それも、俺にはとてもじゃないが理解できないような斜め上の理由が。

……うん。
きっとそうだ。きっと。きっと……。

決定的な拒否をされたわけでなかったことが、俺に妙な高揚感をもたらしていたらしい。
社さんなら、冷静に「そのご都合主義な思考回路はどうなんだ」などとつっこんできそうな考えが、俺をすっかり支配していた。
ある意味それに縋っていたのかもしれないけれど。
そうなると調子のいいことに、どこからか戦闘意欲のようなものまで湧き上がってくる。

このまま何もしなければ、きっと訳も分からぬまま、どんどん彼女との間に溝が深まっていくだけだ。
それで本当にいいのか、と昂ぶった心に自問する。

―――否。

何年も、何年もずっと彼女だけを想い続けてきたのに、ここで黙って手放してどうする。
戦わずして負けるくらいなら、どんなにみっともないと思われても、情けないと思われても、彼女を手に入れるまで縋り、追い詰め、懇願したっていいじゃないか。

たとえ、彼女の心が俺に向いていないとしても……。
それならそれで、できることをやり尽そう。


だって俺は、彼女を手に入れるためなら神にだって背いてやると誓ったのだから。





(4につづく)
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