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遺れ居て恋ひつつあらずは… (中編)

※一部改稿済

パソコンが修理からまだ戻らず、なかなか思うように書き進められません。
そのうえコンビ組んでる同僚の退職が突然決まり真っ青に。年初に大枚はたいてお祓いしたのに意味なかったよ~(嘆
そしてこちらのお話。あっさり終わらせるつもりだった敦賀さんの過去をついつい書きこんでいたら予想をはるか超える長さになってしまいました。そのせいでタイトルになっている和歌の意味合いと少々ブレが出てきております。
もしかしたらもう1首、限定混じりでお届けするかもしれません!そんなぼろぼろ状態で恐縮ですが、読んでいただけたら嬉しいです。




続く沈黙とともに、景色がどんどんうしろに流れていく。
刷毛で塗ったように連なっていた緑はまばらに薄れ、やがて建物の灰色が混じり始めた。
駅はもうすぐそこまで近づいている。

蓮は黙ったまま、そっと目を閉じた。


*


温暖なロスにいてさえ、日が沈めば吹く風に凍てつく寒さを感じ始めた頃。
蓮の慄く心を察したように、キョーコからの電話やメールが間遠になった。
その事実に意識を向けると、恐怖にがんじがらめになる。
だが同時に、心のどこかで安堵する自分もいた。
そんな自分がたまらなく怨めしい。
けれどもうどうすることもできなかった。

不安定に揺らぐ心を抱え、蓮が唯一目を背けなかったのは”演技”に打ち込むことだった。
どんなに荒れた生活をしていても。
疲労困憊し、焦る感情に苛まれていても。
“演技”しているときだけは、すべてを忘れていられた。


ちょうどそのころ、敦賀蓮として出演した映画がクランクアップした。
若手俳優が多く出演したその映画は、撮影中から同年代同士の交流がかなり深かった。
何かといえば行われるふざけたパーティ。
繰り返される乱痴気騒ぎ。
蓮もやむをえず参加することがないわけではなかったが、顔を出す程度で明らかに一線を画していた。
それが却って目立っていたのかもしれない。
ただでさえ人種を問わず目を惹く美貌は、女性陣からは強い好意の眼差しを、男性陣からはやっかみや嫉妬を受けやすいのだから。
撮影中から蓮にアプローチする女優は多かったが、なかでもしつこかったのは、ヒロインを演じたハリウッド期待の人気若手女優だ。
”恋多き肉食系”として知られ、共演者キラーとも呼ばれる彼女が次に目を付けたのが蓮だった。
しかし彼女がどんなにモーションをかけても、蓮は一向に応じない。
自信家の彼女がそのことに業を煮やし意地になりはじめたころ、撮影は終わり打ち上げパーティが開かれることとなった。
さすがに蓮も打ち上げともなると参加しないわけにいかない。

その席で蓮は、柄にもなく酔い潰れた。
いや、正確には”潰された”というべきかもしれない。
途中何度も帰ろうとした蓮をその女優は取り巻き達とともに無理に引き留め、次から次へと酒を飲ませた。
酔いが回るほどにどんどん強い酒を勧め、断らせない。
あるいは中に多少のクスリが仕込まれていたのかもしれない。
ただでさえ疲れ切っていた蓮の身体に、それはてきめんに作用した。

朝まで続いたパーティの終わりにはもう、蓮はふらふらと酩酊に近い状態に陥っていた。
そんな蓮にねっとりと絡みつき、『ちょっと上で休ませてくるわね。』
ウインクする彼女に、取り巻き達はただにやにやとイヤらしい笑いを返した。


バタンとドアの閉まる音に、はっと目を開ける。
ぼんやりと揺らぐ視界に映る、さらさらと流れるような茶色い髪、小さな頭。
蓮の胸に押し付けられたぬくもりが、遠い記憶を甦らせる。
(ああ、キョーコ……。)
酒で緩んだ身体の奥底からじわじわと湧き上がる想いの強さに、熱い欲望が突き動かされる。
気が付けば蓮は、胸元に埋まる頬に両手をあて、そっと唇を近づけていた。
熱い吐息が耳元を掠め、吸い寄せられるように口づけようとした瞬間、
(違うっ!)
気づいてぐいと身を引いた。
蓮の目の前にいた相手はキョーコとは似ても似つかない女だった。

動揺する蓮をどう勘違いしたのか、彼女はおもねる瞳で蓮を見上げ、ゆっくりと身体をしならせた。
『ふふっ。意外と奥手なのね。私、先にシャワーを浴びてくるわ。あとから来て。』
自信ありげな微笑みを向け、さっと蓮の唇に自らのそれを重ねると、彼女はそのままシャワールームへと姿を消した。

(いったいどういうことだ。何が起きてるんだ。)
痛む頭を抱えながら周囲を見回せば目に映る見知らぬインテリア。
どうやらここはホテルの一室らしい。

…と、突然胸ポケットから電話が鳴った。
ずいぶん久しぶりに聞くそれは、キョーコ専用の着信音だった。
(キョーコ……?)
先ほどの余韻か、燻る欲望に突き動かされるように、痛みに霞む頭を抱えながら蓮は携帯へと手を伸ばした。
ふらふらと通話ボタンを押し、キョーコの声を耳にした途端、ようやく脳がはっきりと覚醒した。

「もしもし。敦賀さ…「ごめん。今ちょっと立て込んでて。」」
受話口を手で覆い、そっと囁く。
「あとで掛け直すね。」
言い捨てて通話を終了させると、すぐに服を探した。
追いかけるようにシャワールームからかけられる声。
「レーン。まだぁ?早くぅ~~。」
「ああ、今行くから待っててくれ。」
そう告げて時間を稼ぎ、蓮は見つけ出した服を着、荷物を手にそっと部屋を出た。

―――電話が通話状態になったままだということなど、夢にも思わずに。

自宅へ向かうタクシーの中、キョーコに電話をかけなおそうとした蓮は留守番電話が入っていたことに気付いた。
何気なく録音を聴いて、顔色が変わる。
慌てて家に戻り、シャワーを浴びるとすぐに家を飛び出した。

それが運命の分岐になるとは、蓮自身そのときはまだ思ってもみなかった。



*



『やあ、クオン。よく来たね。』

2時間後、呼び出された小さな事務所で、蓮は初老の男と向き合っていた。
相手は数年に一度しか映画を撮らないことで名高い寡作な映画監督。
だが、撮影された作品は短長問わず傑作との呼び声が高く、監督の存在そのものが世界の至宝とまで囁かれている。
その監督がついに次回作の準備に取り掛かったと耳にしたのは、クオンとしてオーディション回りを続けている最中のことだった。

どんな役でもかまわない。
端役でもいい。
なんとかして出演したい。

切実に願い、必死に手を回し、ようやく得たオーディションのチャンス。
敦賀蓮として事務所を経由し受けることも可能だったかもしれない。
しかし、蓮はどうしても何のしがらみのない素の自分で監督に相対したかった。
そして俳優としての自分の資質を判断してもらいたかった。

1年半以上続いた鬱屈の日々をぶつけるように蓮はそのオーディションに全力をぶつけた。
これは神様がくれた最高のチャンスだと、そう確信していた。
このチャンスをモノにすることができれば、そうすれば……。
俳優になったときから抱えていた大きな目標がひとつ実現する。
それだけではない。
自分の中のすべてが変わる。
審査が進むにつれ、いつの間にかそう信じていた。

そして数度の審査を経て蓮は今、この席に呼ばれている。

『君がもし条件をのむなら、私は君と次の仕事をしたいと思っている。』
言われた言葉に全身の血がざわりと波立つ。

―――ああ、ついに。ついにきた。

よろしくと差し出された手を勇んで握り返す自分の手がぶるぶると震えた。
掌に汗を滲ませるなど、蓮にとって初めての体験だった。

『だが契約にあたり、非常に重要かつ面倒な条件がある。』
握った手をゆっくりと離し、監督は淡々と蓮に告げた。
『まずひとつは、今回の作品についてエージェントも含め君に係るすべての人間に対し情報を一切口外しないこと。どんな些細な情報も、だ。これは契約を交わした瞬間からこちらがOKを出すまでずっと続くことになる。
さらにもうひとつ。撮影期間の3か月、君は完全に外部から遮断されることになる。何があっても外との連絡は取れない。
ちなみに撮影の準備はすでにできているから、もし君が頷けば、撮影は今日にも始まる。
それでもかまわないなら、これを受け取りたまえ。』

差し出された分厚い契約書を前に、蓮は躊躇した。

―――すべてを遮断される3か月。

まず敦賀蓮としての仕事が頭に浮かぶ。この仕事を受ければ、多大な迷惑をかけるであろう人々の顔、顔、顔。
そして最後にキョーコが浮かんだ。
去来する想いに思わず唇を噛みしめる。
しかしそのすべてと引き替えでも、自分はこの話を蹴ることはできないと確信していた。

『ひとつお話があります。』

蓮は監督に告げた。
実は自分は、クオン・ヒズリであると同時に日本の俳優敦賀蓮でもあること。
この仕事を受けるために、そちらの仕事の調整をしなければならないため、映画については一切漏らさないが、休暇を得る連絡をしなければならないこと。
そして、作品が公開されることになった暁にはクオン・ヒズリではなく敦賀蓮としてクレジットしてもらいたいこと。

敦賀蓮の名前での公開を希望したのは、ただキョーコのためだった。
3か月もの休暇をとってこの仕事にかかれば、今はともかくいずれクオンが敦賀蓮であることは少なくとも事務所において周知の事実になってしまうだろう。
ずっと隠してきた真実が、自分の口以外の何かから彼女に伝わることだけはどうしても避けたかった。
そのためにはここでクオン・ヒズリの名を使うことはできない。

『ほう…。君がレン・ツルガだったとはね。』
興味深そうに目をあげた監督に首を傾げる。
『”Tragic Marker”を観せてもらったよ。君が演じた役は実に面白かった。じつはこのフリーオーディションでいい人材が見つからなければ、Mr.ツルガに声をかけようとも考えていたんだ。』

その言葉に胸が痛いほど熱くなる。
自分の演技は確かにこの人に認めてもらえたのだと、そう思えた。
ああ、やはり何をしても、この人と仕事がしたい。
蓮は切実にそう思った。

『では、別室で必要なだけ連絡をとりたまえ。ただし、さっきも話したように映画について一切語ってはいけない。そして、この契約を結ぶかどうかの判断は今日ここでしてもらうことになる。いいね。』

蓮は監督の目を見つめ、はっきりと頷いた。
その顔に監督はふと口元を緩ませ、『君と仕事ができるよう祈っているよ。』と言った。


まず蓮が連絡をしたのはローリィだった。
深夜の電話を詫び、何も聞かずに3か月休ませてほしいと告げる。

「どうしてもお前に必要な3か月か?」
「どうしても譲れない3か月です。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
言い切った声は、自分でもはっきりわかるほど自信と確信に満ち、そして喜びが滲んでいた。
それがローリィにも伝わったのかもしれない。
「……そうか。わかった。好きなようにしろ。もろもろの始末はすべてこちらで片づけておく。ただし、ひとつ約束しろ。」
「なんでしょうか。」
「その3か月にお前が何をするつもりかわからんが、それがなんであれ全力を尽くせ。」
「わかりました。ありがとうございます。」

ほうっと大きく息をつく。
そして蓮は携帯を手に、心を鎮めるようにじっと文字盤を眺めた。
黙っていても指がはっきりと覚えているキョーコの番号。
詳しいことは一切話せない。
それでも自分のこの昂ぶる想いを、何とか伝えたかった。
それだけでもキョーコはきっと我が事のように喜んでくれる。
そう思えた。


…………けれどかけた電話にキョーコが出ることはなかった。

その後もずっと。



* * *



車は穏やかに走り続ける。
社はもう何も言わない。

それでも、目を閉じたままの蓮の頭の中は
「なんでキョーコちゃんにちゃんと言わなかった。」
社の言葉で占められていた。

結局、自分の夢の実現を最優先させる形で踏み切った、あの”3か月”。

―――俺は、選択を間違えたのだろうか。

いや、おそらく今あの瞬間に戻っても、俺はきっと同じ選択をするだろう。
たとえ彼女を失う未来がわかっていても。
それでも……。



* * *



撮影された映画は、監督らしい異色で不条理で難解な作品だった。

偶然が重なり生まれた閉鎖空間に一人取り残された男。外部とは一切の通信が遮断され、時間経過も不明な中で追い詰められていくその男の孤独と弱さ、しかしそれでも生き抜いていこうとする人間の根源的な強さをドキュメンタリータッチで描いていく。
蓮はただ一人の出演者として、“男”を演じきった。

『君と仕事ができてよかったよ。』
監督は最後にそう言って笑った。


撮影を終えた蓮はすぐにキョーコに電話をした。
数か月前の自分が嘘のように、心がすっきりと澄み渡っていた。
俳優として確実に自分がステップアップしたことを実感する。
結果云々ではない、それ以上の何かを蓮は確かに得ていた。

「あなたが笑顔で帰ってきたら」
その言葉はもう何も怖くなかった。
今こそようやく自信をもってキョーコに向き合える。
そう確信できた。

しかし……。

『おかけになった電話番号は現在……。』
最初は番号を間違えたのかと思った。
掛け直して、掛け直して、きっと電池切れだと思い直した。
翌日も、翌々日も、その次の日も。
同じことが続き、ようやくおかしいと気づいた。

愕然とする蓮をさらに突き落すように社からのメールは届いた。
『キョーコちゃんが消えた。』
けれど、3か月の休暇を経て山積みになった仕事を前にすぐ帰国することはかなわなかった。
焦る心を必死に抑え、ローリィに電話する。

「社長、どういうことですか!黙って彼女を行かせるなんて。いや、あなたなら本当は彼女の居場所を知っているんじゃないですか!?」
「俺はあの子が今どこで何をしているかまったく知らんよ。」
「しかし……女優を辞める、なんて。彼女がまさか。」
「それがあの子の選んだ答えだったからな。」
「だからって、そんな…」
絶句した蓮にローリィは言った。
「あの子は俺にいつか必ず連絡すると約束した。真摯な瞳をしていたよ。だから俺はそれを信じた。お前の時と同じだ、蓮。約束を信じる。あの子を信じる。それだけだ。」

たとえ行き先を知っていても、俺がお前に教えることはない。ローリィの口調ははっきりとそう告げていた。



そして気が付けば1年が過ぎた。
過去の2年とは大きく異なる1年。

撮影された映画は、その後カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した。
さらにその後、アカデミー賞で作品賞、撮影賞、監督賞、主演男優賞にノミネートされるという快挙をも成し遂げた。
公開後、主演俳優が敦賀蓮と明かされ、蓮は一躍世界から注目を集めた。
一変する生活。
ハリウッド俳優としてさらに上へと駆け上がっていく蓮に、プライベートな時間は皆無に等しくなった。
俳優として充実し、そして忙殺される2年が続く。


実は撮影直後、蓮は密かに日本に戻り限られた時間の中、東京と京都を中心にキョーコの行方を探し回っていた。
不破尚にさえ頭を下げて。
けれど、キョーコの行方はまったくわからなかった。
恐らくこれまでの彼女の人生とはまったく接点のない場所にいる。
それだけはわかった。
だが、それだけだった。

もちろんアメリカに戻った後も蓮は人を使い、伝手を辿り、キョーコを探し続けた。
今もなお、蓮は探し続けている。
それでもキョーコの行方は一向に掴めない。

だが諦めるわけにはいかない。
諦められるわけがない。

何より蓮は信じていた。
幼い頃別れ別れになった彼女と再会できたように。
運命はいつか必ず二人を出会わせると。


そして今年。
未だクオン・ヒズリの名を明かさぬまま、蓮はようやく日本に戻ってきた。



* * *



「……あ、ここでいいから。すまないな。わざわざ。じゃあ、明日。いずれにせよあとで連絡するから。」

かけられた声にはっと我に返る。
荷物を抱えた社が慌てた様子で車から降りるところだった。
「お疲れさまです。」
小さくなっていく背中をスモークガラス越しにぼんやりと眺め、何気なく街角に目を向ける。
よくあるカフェの店先。
大きなガラス窓。
並んでコーヒーを楽しむ男女。

(……!!!)

窓際に座るその姿が一人だけぽっかりと浮き上がっているように見えた。
3年前よりほっそりとした肩幅。
少し伸びた髪。
くりりと大きな瞳が印象的な横顔。
以前に比べどこか淋しげな笑顔。

凍り付いていた心が一気に溶け出し、色あせた景色が鮮やかに変化していく。
空気が変わり、音が変わり、匂いが変わる。
纏わりついていた虚無が逃げ出し、感じるすべてが生き生きと息づきはじめる。

気のせいかもしれない。
―――そんなはずはない。

見間違えかもしれない。
―――見間違えるわけがない。

でも、もしかしたら…
―――いや、絶対に

彼女だ!

「停めてください!!」

仕切りの向こうの運転手にものすごい勢いで叫んだ。
発進しかけた車が停まるやいなや、蓮はコートを片手に飛び出した。


先ほど目にしたあの姿に向かって。







(続く)
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。

勢いのまま書いたので矛盾点があるかもしれません。あとからちょろちょろ書き直しや書き足しが入るかもしれませんが、お許しくださいませ!
ところで最近『春待つ僕ら』という漫画にときめいているのですが、どなたかお仲間はいらっしゃらないでしょうか…。
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コメント

  • 2016/02/27 (Sat)
    22:32
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2016/03/01 (Tue)
    23:45
    Re: ヘタレたすれ違いですね〜

    か○○ーさま

    ヘタレてこそ蓮さん!という妙な確信があるので、我が家の蓮さんのヘタレ率は半端ないですw
    曲解娘のキョコちゃん相手では、誤解が誤解をよび……もある意味仕方ないかな、と。

    > 流石、蓮さん!
    失せもの探しは蓮さんお得意かも!(※ただしキョコに限る)

    なんだか長引きそうなお話ですがおつきあいいただけたら嬉しいです^^
    よろしくお願いします!

    ちなぞ #- | URL | 編集

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