レモンとチューリップ 前編 ~2016バレンタイン~

駆け込みで思いついたバレンタイン小話です。
前後編になるので、実際には間に合っていない気もしますが…そこは大目に見ていただけたらありがたいです (ちなみに後編はまだ真っ白。明日UPできるようがんばります!)



ひどく冷たい風が吹き荒れた昨日とは打って変わり、今日の空はどこまでも高く青く澄んでいた。
吹く風も柔らかく、春の気配を強く漂わせている。
ガラスの向こうの日陰はまだ冬の寒さを残しているように見えるけれど、こうして建物の中にいればそれもどこか遠い記憶の欠片に思えて、蓮はふと口元を緩ませた。

「……ええ、はい。そうですか。わかりました。それでは…はい。」
電話を続ける社を横目でながめ、さりげなく時刻を確かめる。

「待たせたな。ちょっと早いけど行くか。」
ようやく終えた電話を胸ポケットにしまい、声をかける社に蓮は一拍おいて声をかけた。
「あの、社さん。ちょっとコーヒー1本いいですか。」
「ああ、まだ時間もあるし。じゃあ、俺買ってくるよ。」
「いや、俺ちょっと行って飲んできます。社さんは?」
「俺はいいや。ここで待ってるから。じゃあ、15分後に。」
「はい。」


*


人影のない自動販売機の前に来た蓮はふぅと息をはき、再び時計に目を遣った。
買うものに迷っているわけでもないのにしばらくその前で立ち尽くし、ようやくコインを取り出す。

チャリンッ  「敦賀さんっ!」
コインを入れた瞬間、背後から掛けられた声。
慌てて振り向くと、廊下の向こうにうっすらと白い息をはきながら走ってくる少女の姿が見えた。

「よかった。お会いできて。」
エントランスにいらした社さんにこちらにいらっしゃると聞いて…と近づくなり言い出したキョーコの息せき切っている様子に、蓮の表情がふっと綻ぶ。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「あ、あの、これ。」
手にした大きなカバンをがさごそと探ったかと思うとキョーコは小さな包みを取り出し、蓮へと差し出した。

「どうしても今日これを渡したくて。よかったら……召し上がっていただけますか。」
「え?なに?」
分かっていて少し驚いた顔をしてみせると、形の良い眉毛が困ったようにハの字になる。
「えっと今日はその14日なので…。あの……」
躊躇いがちに口を開いたキョーコだったが、すうと1回息を吸うと、意を決したようにしゃべりはじめた。

「ラム酒漬けのレモンピールなんです。少しだけチョコもついているけれど、でも甘さは相当控えめにしてあるし、お酒にも合う味になっていると思うので、その……もしよかったら……。」
最後はごにょごにょと口ごもりながら、それでも必死に続けたのは蓮が甘いものを苦手としているだけでなく、バレンタインのチョコはけっして食べないと言っているのを知っているからだろうか。
時折目を伏せ上目遣いに言う頬が、言葉を重ねるごとにほんのりと赤らんでいく。

「本当はもっと食べやすいものをって思ったんですけど、召し上がっていただく時間があるかわからなくて、だから…「ありがとう。」」
キョーコの手の中から、包みがすっと取り上げられた。
「うれしいよ。ありがとう。俺のために作ってくれたの?」
不意打ちのように間近から向けられた破顔に、キョーコの顔が首まで真っ赤に染まる。
「え、ええ。はい。そう、なんですけど。あの……あっ!た、たしかお急ぎなんですよね。お会いできてよかったです。それじゃまた。」
どもりながら一気にそう言ったかと思うと、キョーコはそのまま勢いよく踵を返しその場から走り出そうとした。
その腕を蓮がすかさず掴みとる。

「待って。」
きゅっと肩があがり、かちんと固まった身体。
捕まえた蓮まで、一瞬息が詰まる。
「俺も君に渡すものがあるんだ。」
縫い付けられたように足が止まり、キョーコがえ?と驚いた顔で振り向いた。
「この間チェコに行ったときのおみやげ。」
ほら、と胸ポケットから取り出された小さなギフトボックスはとくにリボンがかかっているわけでもなく、シンプルというより無造作に包まれていて、たしかにいかにも“おみやげ”だった。
「たいしたものじゃないんだけど、気に入ると思って。」
少し首を傾け、どうかなと見つめる瞳がやさしすぎて、キョーコの胸がきゅうと痛んだ。

――みつめられるだけでこんな気持ちになるなんて。

やるせない想いが全身を駆け巡り、渡した箱を取り戻してこの場から逃げ出してしまいたくなる。
渡した箱……。
それは蓮のためだけに作った、レモンピール。
レモンに「心からの思慕」なんて花言葉があることに、この人が気づくことはないだろう。

「そんなおみやげなんてわざわざ…もったいないです。」
「たまたま見つけてね。君が好きそうだなって思って買ったものだから、君に受け取ってもらわないと困るんだ。そうだな…。このレモンピールと物々交換ってことで。」
くすりと笑い受け取った包みを軽く持ち上げると、自動販売機を指さしてみせる。
「ああ、それとこれ、よかったら好きなものを飲んで。」
「わ、わかりました。ありがたくいただきます。…って、え?飲み物まで?でも、えっと。」

混乱するキョーコを面白がるように笑い、蓮は後ろ手を振りながらその場を後にした。


*


「お待たせしました。」
「いや。大丈夫。」
ようやく戻ってきた蓮に、社がにやりと笑いかけてきた。

「で、もらった?クッキー。」
言われた言葉に思わず首を傾げた蓮を、社があれ?と見返す。
「あれ?まさか行き違い?あの、さ。キョーコちゃんに会わなかった?」
焦った顔でそういう社を蓮は何も言わずじっと見つめた。
「うわっ、まじか。あの、さ。怒らないで聞いてほしいんだけど。さっきキョーコちゃんが駆け込んできてさ。コレ。」

社の手の中にあったのは二つの袋。
きれいにラッピングされた透明の袋の中には、さまざまな形のココアクッキーが詰め込まれている。
「バレンタインだからってくれたんだ。チョコだと溶けるからクッキーにしましたって。蓮に会えなかった時のためにっていちおう二つくれたんだけど…。」
おかしいな、会えないはずないのにと呟く社の手から、蓮は袋のひとつをすっと取り上げた。
「じゃあ、こっちは俺のですね。」
「あ、ああ。たぶんそうだけど。でも、お前そういうの食べな…「いただきます。」」
取り上げた袋の中身を、何かを確認するように蓮は見つめた。

四角や丸はもちろん、星やくまの形まであるクッキーの詰め合わせ。
でも…。

(ハートはないな。)

つまらないことにほっとして口元が緩みかけ、慌てて社に気づかれぬようコホンとひとつ咳をした。





(続く)
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コメント

  • 2016/02/15 (Mon)
    21:30
    蓮くん

    こっそり2重取り?笑

    蓮くんと違い空腹中枢が麻痺していないヤッシーの保存食おやつ(?)は半分の1人前に減りましたが、蓮くんのレモンピールは分けてもらえそうにないですね。(*´∇`*)ハハハ

    キョコさんに会えないかなーと願ってたであろう蓮くんのバレンタインデーは嬉しいものになりましたね。(これでキョコさんとホワイトデーにも会えるし)

    続きも楽しみにしてます。

    お土産が無造作に包まれているところに疑いの目を向ける魔人より。←色々前科ありな蓮さん

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/02/22 (Mon)
    10:10
    Re: 蓮くん

    > こっそり2重取り?笑

    ハッ!たしかに二重取りw
    レモンピールはたぶん存在すらやっしーに明かされないことと思います!

    > お土産が無造作に包まれているところに疑いの目を向ける魔人より。←色々前科ありな蓮さん

    ふふふ。
    後編いかがでしたでしょうか。
    ご期待に添えられていたら嬉しいですー

    ちなぞ #- | URL | 編集

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