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暗香疎影 (前編) ~蓮誕~

2/10は敦賀さんの誕生日ですね!というわけで、蓮誕のお話を前後編でお届けします。

暗香疎影…どこからともなく漂う花の香りと月光に照らされた木々の影の情景のことで、梅を暗喩しています。

ハリウッド俳優の父とスーパーモデルの母をもつ俺にとって、子供のころ誕生日は特別な日だった。

めったに顔を見ない父が家にいて、これでもかと暑苦しい”愛”を振りまく。
その父に母が嬉しそうに纏わりつき、俺はそんな二人に纏わりついた。
広い邸宅を3人が団子のようにくっついて回る。
特別なものなど何もない、当たり前に幸せなひと組の親子。
その幸せを享受できる数少ない1日だった。

それが崩れたのはいつだったろう。
気が付けば俺は父を拒絶し、母を避けるようになっていた。
そしていつからか自分が生まれたことすら、呪うようになっていた。


誕生日が特別で幸せなものだと、また思えるようになったのは彼女に再会してからだ。
いや正確に言うと……。



* * *



冴え冴えとした月の光に包まれ、冷えた大気が輝きながら降りてくる。
身を切る寒さに思わず天を仰ぐと、真っ黒な空のところどころに氷の欠片のような星が張り付いていた。
春はまだ遠い。
そう思えるのに、どこからかほのかに甘く柔らかい花の香りがする。
―――これは何の香りだろう。
花に疎い俺は、疑問に思いながら辺りを見回した。

…と。

「お待たせしてすみません!」

ハァハァという息切れの音とともに、思いのほか間近から小さな声が聞こえた。
慌てて振り向き、待ち望んだ人を確かめつい頬が緩む。
「いや、ちっとも。」
どれだけ駆けてきたのか。
彼女の肩は大きく揺れていた。

「急にお呼び立てして申し訳ありません。」
ぼんやりとした月灯りの下、荒れた息を必死になだめながら、彼女は眉をハノ字に下げ俺を見上げた。
「大丈夫。気にしないで。」
笑いかければ、はにかんだ笑顔で応えてくれる。
その頬がうっすらと紅色に染まっているのが見えて、驚くほど気持ちが沸き立った。
だからだろうか。

「少し、歩かない?」
用件も聞かず、口にした。
そうして少しでも彼女といる時間を長引かせたかったのかもしれない。

「え、でも…。」
周囲を気にする彼女を安心させようと微笑みかける。
「敷地内を少しだけ。この香りが気になって。」
俺の言葉に、彼女がふっと顔を上げた。

「梅…」
「梅?」
「ええ。この香り。」
「そうか。梅か。」

言われてみればそうだったと思う。
清廉とした、それでいてほのかに甘いこの香りは、たしかに春の先触れを告げる花にふさわしい。
「どこでしょうね。探してみましょうか?」
好奇心にキラキラ光る茶色の瞳に目を奪われて、
「ああ、そうしよう。」。
返事が遅れた。


*


香りをたどり、俺たちは木々の合間を縫うように進んだ。
「あ、こっち。」
香りが強くなったと足を止める。
目を瞑り少し上向き加減に鼻をくんくんとさせる彼女に倣い、俺も目を閉じてみた。
「本当だ。」
大きく息を吸えば、たちまち身体中に清楚な花の香りが広がった。

「あった!」
その声に目を開き、彼女の視線の先を見る。
まだ新芽も出さない冬枯れの木々に隠れ、紅色の小さな丸い花がまだ低い細枝にしがみつくように咲いていた。

「可愛い。それにすごくいい香り。」
はしゃいだ様子で背伸びをし、鼻先を花弁に精一杯近づけている。
そうして振り向き微笑む彼女の髪に枝先が重なった。
髪飾りのように紅花が揺らぎ、宵闇の中でそこだけが明るく光を帯びて見える。
「うん。可愛い。」

―――本当に、君は。



「敦賀さん。お誕生日おめでとうございます。」
不意に身体をきれいに向き直し、花のような笑みを浮かべて彼女は言った。
「お祝いを渡そうと思って。」
言いながらスッとそれた視線がどこか儚げに見えたのは気のせいだろうか。


花の下で彼女はがさごそと鞄を探る。
その手がふと停まり、
「あの……。」
栗色の頭が一段低く俯いた。
伏せた睫毛が白い頬にくっきりと影を落とし、笑顔が消える。
小さく息を吸う音がして、彼女は再び顔を上げた。
「ハリウッドに挑戦なさるって…。」
真剣で、そしてどこか遠いまなざしに困惑する。
「どうしてそれを?」
君には直接俺の口から言うつもりだったのに。

「やっぱり…本当なんですね。アメリカに行かれるって。」
整った眉がほんの僅かハの字に歪んだ。
けれど彼女はそれ以上表情を変えることなく、頭をぶるりと大きく振った。


「もうすぐアメリカに行かれるなら荷物になるようなものはいけないなって。それで…」
これぐらいしか思いつかなくてと俯きながら差し出されたのは、きれいにラッピングされた手のひらにのるほどの小さな包み。
「車折神社のお守りなんです。」
京都で有名な芸能神社なんですよ、と言葉が続いた。
「すごくご利益があるって評判だから。」
ようやく顔を上げた彼女の頬は、月の光を浴びて透き通るように青かった。



(続く)
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コメント

  • 2016/02/10 (Wed)
    12:11
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2016/02/11 (Thu)
    22:02
    わお!

    車折神社の赤い玉垣が芸能人の名前だらけなのは有名ですし、見たこともありますが、さっき確認したら今どきの芸能人の名前もどんどん増えているのですね

    原作の世界なら、クーの日本名は絶対にありそうですね。

    キョコさんらしいプレゼントに納得です。

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/02/12 (Fri)
    07:55
    Re: 素敵です〜

    >p*****さま

    拙い文章なのに気に入っていただけて嬉しいです。
    後編もお楽しみいただけたでしょうか。

    亀戸天神の梅もいいですね。
    私は高尾梅郷に今年こそ行きたいなあって思ってます。

    p*****さまが素敵な早春を楽しめますように!

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/02/12 (Fri)
    08:00
    Re: わお!

    >まじーんさま

    車折神社、有名ですよね!
    実は行ったことがないのでお守りどんな感じだろうって調べちゃいました。
    (よくわからなかったけどw)

    > 原作の世界なら、クーの日本名は絶対にありそうですね。

    ほんとに!ぜったい行ってそうですよね!それも何度もw

    ちなぞ #- | URL | 編集

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