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追風用意 ~ side K ~

某テレビ局本社ビルでの出来事、というイメージで書きました。



ドアが開いた途端、ざわめく人波が一気に押し寄せてくる。
それほど狭くない空間が瞬く間にすし詰めになり、キョーコはパネルの前できゅっと身を細めた。

「21階!」
「17階お願いします。」
「18階ね。」

ときおり『開』ボタンを押しながら、かかる声に合わせて数字を順に押していく。
そろそろ乗れる限界かなと思ったとき、薄く流れてきた香りに思わず顔を上げた。

(・・・あ!)

偶然だった。
相手もひどく驚いたのだろう。
目を見開いてキョーコを見つめ、はっと気づいたように小さく笑みを浮かべる。
そうして、さりげなくキョーコの脇に身を置いた。
「やあ、おはよう。」
「お、おはようございま・・「すいませーん!乗りまーすっ!」
交わす挨拶が終わるか終わらないかのうちに、大きな荷物を抱えた男が駆け込んできた。
ぎゅーっと力いっぱい押し込まれた身体の勢いが、乗り込んでいる人々の塊を揺り動かす。

「あ、ちょ、ちょっと・・・・・・きゃっ!」
すでに満員に近かった内部のバランスが崩れ、雪崩に巻き込まれるようにキョーコは角の壁に押し付けられた。
押し付けているのは蓮。
いきなり押されて勢い余り、壁に手をついた弾みでキョーコに覆いかぶさるように重なった。

(・・・う、そ。)

長い腕が織り成す檻に捉われてしまったような錯覚に襲われ、キョーコの身体がビクンと跳ねる。
押し付けられた身体は厚みのある布越しでも体温をはっきりと伝えてきて、火が出そうなほど顔が熱い。
視線を外し気をそらそうとしても、柔らかく甘い香りがこれでもかとキョーコの鼻腔を弄った。

「ごめん。大丈夫?」
不意に耳もとで響いた甘い低音。
吐息が耳朶を擽り、全身が硬直する。
周囲から聞こえたひゅうと息をのむ声は、たぶんキョーコの立ち位置をうらやむ女性陣のものだろう。
それがキョーコをひどくいたたまれない気持ちへと追い込む。
「だ、大丈夫です。」
必死に返したけれど、動揺は隠せない。

(この場所から、一刻も早く抜け出したい。)

切実に思ってもこの状況ではどうすることもできず、キョーコは俯いたままそっと息を吸い込んだ。
けれどそのせいで、蓮の香りが余計に強く身体に回る。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ
全身が心臓になったように脈打ち、どうやってもおさまらない。
それなのに上昇する弾みで、ますます押し付けられる身体。

―――息が・・・詰まりそう。

抱き締められているわけでもない。
抱き合っているわけでもない。
ただ、身体が触れ合っている。
それだけだというのに。
身体中に響き渡る鼓動と駆け巡る熱に、頭が破裂してしまいそうな感覚に陥った。


高層階に向かって上昇するエレベーターは、妙な静寂に包まれている。
時折誰かが咳をする音。
囁くように交わされる会話。
窮屈な思いから抜け出そうとする衣擦れの音。
普段なら誰も気にしないそんな音が怖いくらいにクローズアップされ、誰もが互いに耳を欹てている。
その中で、明らかに周囲から意識されている男・・・と女。
緊張が頂点に達し、キョーコは大きく息を吐いた。

「本当に大丈夫?」

ひどく不安げに再問されて反射的に顔を上げ、すぐに後悔した。
長い睫毛の1本1本まで確認できそうなほど間近から、月のように澄んだ瞳がキョーコをじっと見つめていた。
震えるほど魅惑的な漆黒の瞳。
何も言えずこくんと頷き、そのままさっと俯く。
俯くしかなかった。



カクンッ
やがて、激しくなる心音に被るように小さな揺れが生じ、エレベーターが止まった。
ゆっくりとドアが開く。
再開する人々の喧騒。
その中をかき分けるように柔らかな声が降る。

「じゃあまた。仕事がんばって。」
触れていた温もりが薄れ、甘く愛しい香りが空気に淡く溶けていく。
(敦賀さん・・・。)
ハッと顔を上げたときにはもう、人波の向こうに頭一つ抜きん出た後ろ姿だけが見えていた。


去り際、頭の上に小さな重みを感じたのは、気のせいだろうか。
腕にそっと触れる感触を覚えたのは、勘違いだろうか。

気のせいでもいい。
勘違いでもいい。

そのすべてをできるだけ自分の中に留めておきたい、と。
キョーコは切ない気持ちで、残された微かな香りに想いを寄せた。





Fin
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side Rも書く予定です。

※追風用意…人とすれ違ったあとにいい香りが漂ってくるように、衣服にお香のにおいを染み込ませておくこと
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コメント

  • 2016/01/29 (Fri)
    21:49
    あぁやっぱり。

    ちなぞさんの書かれるお話は何って可愛いんでしょう♪
    毎回毎回読む度に心がポワンと暖かくなります☆
    蓮様サイドもとっても楽しみにしてます!

    風月 #- | URL | 編集
  • 2016/01/31 (Sun)
    13:00
    Re: あぁやっぱり。

    いつもコメントありがとうございます^^
    可愛いいって言っていただけてよかった~。
    敦賀さんサイドも今がんばって書いてるので、読んでいただけたら嬉しいです

    ところでこんなところでナンですが、
    「なくした記憶」が再開されると知り、ワクワクしてます。
    楽しみにお待ちしてますね!!

    ちなぞ #- | URL | 編集

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