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10年後 <飛→奏> (後編)

こちら図書●戦争文庫本SSに触発された妄想を文字に起こしたものです(ファンの方、勝手をしてごめんなさい)。
蓮×キョではなく、飛→秦(飛鷹21歳・奏江27歳)のお話となりますので、それでもOKという方のみお読みくださいね。



足元のおぼつかない奏江を背負い、直通のエレベーターから駐車場へ向かう。
迎えの車は呼んであるが、そこまでコイツを店員に運ばせるわけにはいかない。
といってお姫様抱っこも憚られ、結果こうなった。
パンツスーツを着てくれていて、これほどほっとしたことはない。
まあ、素直に負ぶわれるようなヤツじゃないからこうなるまでもけっこう大変だったんだが。


「ほら、乗れよ。」
背中を向けた俺に、秦江は目を真ん丸にした。
「どうして?」
「お前、相当酔ってるだろ。」
「だ、大丈夫だし・・です。」
「いいから、さっさと乗れ。」
「ちゃ、ちゃんと自分で歩けますから。ほんと、平気です。」
「実際、歩けねーんだから仕方ないだろが。てか、なんで今さら敬語なんだよ。」
「え?いや、それはなんとなく・・・?」
「グタグタ言ってねーでさっさと乗れ。いいか。これは命令だ。」
「・・・はい。」

なんか10年前に戻ったみたいだ。
―――10年、か。
考えてみたら、その10年の間にあの黒い悪魔でさえ恋をして結婚に辿りついてるんだよな。
それも、あの敦賀蓮と。
だとしたら、秦江だっていろいろあってもおかしくないんじゃないか?
思いついたとたん、ぶるっと背筋に震えが走る。
この10年、なにかと理由をつけては呼び出し、誘い出し、連れ出し、様子を伺ってきたが、一度も男の影をみたことはない。
仕事のときはもちろんプライベートで会っていても、コイツはいつだって演技一筋、女優業一筋で、たまに愚痴や相談をきくことがあってもぜんぶ仕事がらみだった。
だから正直考えてもいなかった。
男がいるかもしれない、なんて。
27歳といえば、けっこういい年齢だ。しかもこれだけキレイな女、これまで周りの男が放っておいたわけがない。
ええぃ、くそっ。むかつく。

「おいっ、なにしてるんだ。さっさと乗・・・」
 トスンッ
苛立ちながら再び口を開いた瞬間、背中に重みが加わった。
同時に花の香りが押し寄せてくる。
―――軽い。
焦るほど軽い。女優だから当然かと思う一方で、いくらなんでも華奢すぎるとも思う。

「お前、軽すぎじゃね?」
「そ、そんなことないわよ。」
花の香りに混じって、強い酒のニオイがぷんと漂う。
小学生のころは、奏江をおぶう日がくるなんて思ってもみなかった。
いや、今この瞬間まで思ってもみなかった。

―――お姫様抱っこはいつかしてやるって思ってたけどな。

「そんなに軽くちゃ、つくべきところにもろくに肉がついてないんじゃねーか。」
密着した身体が妙に熱く感じて、つい無駄口をきいてしまう。
こんなに酔っぱらった奏江を見るのも初めてなら、俺がコイツを背負うのも初めてだ。
妙な焦りが口を滑らせた。
「失礼ねっ。そんなこと言うなら下ろしなさいよ。」
カチンときたのか、急に酔っ払いが暴れだす。
「私、ちゃんと歩けますっ!もーっ、今すぐ下ろしなさいったら下ろしなさい。」
「うるせえ。そう言ってさっきも危うくすっころびそうになっただろ。素直に乗ってろ。」
「もーっ!言うこと聞け―!下ろしなさ―い。おーろーせーっ!」
なんだ、この駄々っ子みたいな口ぶり。
手足をばたばたさせて、お前、本当に秦江かよ。
やっぱりこいつ、相当酔ってる。

「俺がいいって言ってるんだ。静かにしろっ。」
一喝して、ふと思う。
こんだけ酔っぱらってたら、今俺が何を言ったってきっとからっきし覚えていないだろう。

―――それならちょうどいい。

魔がさした。

「おい、奏江。もし俺が・・・。」
「なによ。」
「もし、俺が急にいなくなったら、お前は淋しいか?」
「・・・・・・・は?」
思いっきり素っ頓狂な声に身体から力が抜ける。

「意味がわからないんですけど。」
むかつくほどなんの動揺もない平らかな口ぶり。
「意味も何も、そのまんまだよ。で、どうなんだよ。」
「どうなんだよって・・・わかんないものは、わかんないわよ。」
言いながら足をぶらつかせたかと思うと、秦江は突然思い出したように俺の頭をぽかすかと叩きはじめた。
「もーっ!いきなりわけわかんないこと言うんじゃないわよっ!こいつめっ!」

ガキかっ!
いつもの落ち着いた美女ぶりはいったいどこへいったんだよ。
ぼやく俺を労わるように、エレベーターがスピードを落とす。
やがてガタリと箱が揺れ、ドアが開こうとしたそのとき。
「つまらないことをいうのはこの口かっ!」
後ろから伸びてきた細い指先が俺の唇をぐいとつかんだ。
「ちょっ、やめろ。痛いだろ。」

―――やめろ。唇に触れる指先に頭の中がかっかと火照る。

「これくらい平気でしょっ!」
「平気じゃねーよ。危ないだろ。」

―――平気じゃねーよ。ただでさえ距離が近すぎてもう心臓が爆発しそうなんだ。

「おいっ。暴れてると落ちるぞ。」
不意に秦江の動きが止まった。

「落とすの?」
言われて、抱えた両腕に力がこもる。
今の俺はそんなにやわじゃねえ。
お前ひとりくらいいくらだって支えていられる。

「ぜったい落とさねーよ。」

―――ぜったい落とさねー。落とさねーけど、落としてーよ。

唇を血が出るほど噛み締めた。

どうしたら落ちるんだよ。琴南奏江って女は。
誰か俺に教えろよ。
教えてくれよ。


結局、俺の疑問に奏江は答えなかった。



* * *



「ねえ、飛鷹くん。ひとつ、言ってもいーい?」
遅ればせながら結婚祝いにかけつけた俺を前に、キョーコは瞳をキラリと光らせ言いだした。
楽屋にいるのは、俺とコイツの二人だけ。
そんな状況でのこの言い方。
イヤな予感しかしない。

「いやだ。」
即答したのにニヤニヤと笑い続けるコイツは、相変わらず黒い悪魔だ。
敦賀蓮はコイツの一体どこがよくて結婚したんだろう。
式ではたしかにものすごーくキレイだったと聞いているが、素はコレだろ?

「相変わらずモー子さんのこと追っかけてるんだ。」
は?
思わず口があんぐり開く。
「なんだよ、それ。」
視線をそらしごまかそうとしたが、無駄だった。
「えー?言葉通りだけど?」
「追っかけてなんかねーよ。」

―――追い込んでるんだよ。

「だって、しょっちゅう飲みに行ったりしてるんでしょ?」
「しょっちゅうじゃねえし。」
「でも誘ってはいるんだ。」
「・・・・・・。」
「あっそ。ふーん。そっかー。飛鷹くん、やっぱりねえ~。」
コイツ、俺の話なんて聞く気ねえだろ。
と思ったら、いきなり身を乗り出して俺をまじまじと見つめ、にやりと笑う。
・・・・・・この悪魔が。
「やっぱり、モー子さんのことずっと好きだったんだねっ。」

「はああああ?????」
思わず立ち上がりかけて、かろうじて自分を抑えた。
「思った通りかぁ~。」
なんだ、その満足そうな顔。
「モー子さん、ああ見えて案外鈍いから大変でしょ?」
「お前が言うか。」
秦江も、お前にだけは言われたくねーだろうな。
そう思いつつ、ぷいと横を向いたのに構わず話しかけてくる。
「あのね、なんかね。」

「最近、飛鷹くんの話が妙に増えたから気になってたんだよね。」
思わずがっと向き直った俺を見て、ふふふとイヤな声を出す悪魔。
「モー子さん、言ってたよ。飛鷹くんが最近急に大人びちゃって変な感じって。
いつの間にか背も超えられてたし、お酒も飲むようになって、ちょっと焦るときがあるって。」

奏江のヤツ。
俺の前ではそんなそぶり一度だって見せたことないくせに。
にしても、焦るっていったいどういう意味だ?

「でねー。でねでね。」
もったいぶった口ぶりが気に入らずじろりとにらんではみたが、こいつは俺のことなどいつだってまったく意に介さない。
「なんか考え込んでるなあって思ったら、ちいさーい声で”姉弟かぁ”って呟いてた。」

飲みかけていたカップが口もとで止まる。
そんな俺に気づいたのか悪魔笑いが最高潮に達した。
「やったじゃん。」
なにが、やったじゃん♪だよ。
ちっともやってねーし。
心の中で思っても、口に出せるはずがない。
でも顔には微妙に出ていたらしい。
「ま、私もそれがどういう意味かまではわからないけどね。」

言い捨ててキョーコは、すっと立ち上がった。
「お祝い本当にどうもありがとうございました。」
丁寧に頭を下げられ、俺も慌てて頭を下げ返す。
相変わらずきれいなお辞儀をするヤツだな。
ぼんやりと眺める俺の目に、キラキラと輝く指輪が映る。
「じゃあ私、そろそろ出番だから。」
にっこり笑ってそう言うと、キョーコは俺の肩をトンッと1回叩き、部屋から出て行った。



誰もいなくなった楽屋でひとり。
言い残された言葉を反芻する。

考えろ。
考えろ、俺。

考えて、考えて、考えて―――そして俺はスマホを手に取った。


覚悟しろよ、奏江。


―――全力の追い込みはここからだ。




Fin
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コメント

  • 2016/02/11 (Thu)
    00:16
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2016/02/12 (Fri)
    07:58
    Re: No title

    >ボ○○○○○○さま

    有川さん作品、私も大好きなのですー!
    批判覚悟で勝手にW二次しちゃいましたが、お楽しみいただけたみたいでほっとしました!

    飛鷹くんは、きっと10年後にはすごーくイイ男になってると思うのですよ。
    いつかそんなスピンオフを仲村先生が書いてくださったらいいなあ、なんて願ってます。

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/03/01 (Tue)
    23:13
    言葉が素敵

    こんばんは

    落とさねー。けど、落としてーよ。

    って…。はうぅ。ときめく…。

    図書館-戦争、読んだはずなのに、忘れてました。

    もう一回、読みます。

    かばぷー #- | URL | 編集
  • 2016/03/01 (Tue)
    23:57
    Re: 言葉が素敵

    > 落とさねー。けど、落としてーよ。
    > って…。はうぅ。ときめく…。

    ときめいていただけてよかった^^
    ちなみに私もこのセリフ(書いといてナンですが)すごーーーく気に入ってます♪
    オトナになった飛鷹くんにこんな風に言われたら…ちょっとやばいかもw

    図書●●争(に限らず有川さん作品)、改めて読むといろいろ妄想ハカドリます♪

    ちなぞ #- | URL | 編集

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