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10年後 <飛→奏> (中編)

こちら図書●戦争文庫本SSに触発された妄想を文字に起こしたものです(ファンの方、勝手をしてごめんなさい)。
蓮×キョではなく、飛→秦(飛鷹21歳・奏江27歳)のお話となりますので、それでもOKという方のみお読みくださいね。



「じゃあ、なんだよ。」
一瞬浮いた掌を振り払うように自分の膝に乗せ、俺は言った。


「うーーーーん・・・。」
返事はなく、唸るような声がする。
と思ったら、コツンと肩に何かが当たった。
その重みにハッとさせられた次の瞬間、花のような香りがふわりと鼻を覆う。
ほんのり甘く柔らかい香り。
香水とは明らかに違う。とすればこの香りは髪からか、肌からか。
いずれにせよそれは、秦江が俺のパーソナルスペースを余裕で侵してきていることを証明していた。
ちっ。
思わず舌打ちしたのは、それが嫌だからじゃない。むしろ逆だった。

―――お前さ。
さんざんアイツのことを『無自覚で煽っているから、ほんとタチが悪い』とかなんとか言ってたけど、人のこと言えないよな。
お前だって相当だよ。
「淋しい。」
そのうえ耳もとで囁かれ、飛び上がりそうになった。
「・・・のかな。認めたくないけど。」

―――くそっ、こいつ。
半分不貞腐れてグラスを一気に飲み干した。
いっそ酔えたらラクなのに。

「なんか悔しいけど。たぶん、そういうことよね。」
言いながらこくりと頷くせいで肩にかかる重みがぐんと増し、花の香りが強くなる。
俺は思わず唇を噛み、拳を握り締めた。
ったく。
我ながら、この鋼鉄の自制心を褒めてやりたいよ。


「あーあ。」
俺が心の中で呟いた同じ言葉を、秦江が同時に声にした。
「まさか10年かかるとは思わなかったけど。」
カランカランといつの間にか氷だけになったグラスを振りながら、秦江はまだぼやいている。
言いながら頭を振る仕草を繰り返すから、そのたび花の香りがふわりと立ち上り、ますますたまらない気持ちになった。

「あの二人がお互いの気持ちに気づいたら、もうあっという間に結婚までいっちゃうだろうなっていうのは予想の範疇だったのに。」

それにしても・・・。
俺が20歳を過ぎてからずいぶん何度も飲みに行ったけど、奏江のこんな姿は初めてだ。
それだけお前は・・・
「なんだかんだ言ってアイツのことが大好きだったってことだろ。」
秦江の手が止まる。
ひとしきり沈黙が続き、それから思い出したようにこくんと素直に頷かれて、なぜかひどくムカついた。


*


「そんなにちょくちょく顔を合わせてたわけでもないのに、単なる友達なのに、淋しいとかおかしいよね。」
これで最後だからと喚かれ、仕方なく渡したグラスを片手に奏江が呟く。
「でも、なんていうのかなー。不思議とあの子の一番は私って自負があったのよ。一時は本気で敦賀さんと張り合ってたし。」
そう言ってくすりと笑う顔は、めったに見れない柔らかな表情で。
そのくせどこか遠くを見つめる瞳が寂しげに瞬いたのが無性に心に響いた。

―――分かってる。
昔からコイツは意外と見栄っ張りでいいカッコしいで、人に弱みを見せるのが大っ嫌いだった。
人一倍努力をしているくせに、その努力をぜったい人に悟らせない。
他人には興味がないって顔をして突っ張って。
そのくせ本当は情が深いんだ。
だから、その懐に初めて臆面もなく飛び込んできたアイツは、奏江にとって本人が思う以上に大切な存在だった。

「やんなっちゃうな、もう。別に二度と会えないわけじゃないのにね。」
友達に変わりはないし、と言って吐き出したため息の大きさが奏江の淋しさを示している。
「あーもう、敦賀めっ!あの子を泣かしたら承知しないんだからっ!」
ふざけたように口にするソレだって、じつは本気だ。
「ま、あの人があの子を泣かすとしたら、嬉し泣き以外に考えられないけど。でもねー。なーんか、悔しいのよね。」
ありえない饒舌ぶりが、奏江が抱えるやるせなさをつぶさに伝える。
「・・・悔しいのよ。」
しまいにそう呟くと、奏江はカウンターに突っ伏して、突然すぅすぅと寝息を立て始めた。

―――マジかよ。

俺は呆れて肩を落とした。
いくら酔ってるからって、男と二人でいるときに寝るかよ。

そりゃここは会員制バーの個室で、しかも親父の代からつきあいがある店だから何の気兼ねもいらない。
聞かれたくない話や愚痴も安心して話せる。
奏江と飲むときは、基本いつもここだ。
つい気が緩むのもわからないではない。
わからないではないけれど。
こうあからさまに警戒心を解かれると男心は複雑だ。

・・・・・ああ、そうか。
さらにがっくり肩が落ちた。
俺ってやっぱり、”男”に見られてないってことか。

奏江にとって、素の自分を出せる人間は少ない。
アイツがそういう人間だっていうのは前から分かっていたことだけど、こうして寝顔を晒すってことは俺もその数少ない一人だっていう証拠だ。
それは素直にうれしい。
うれしいけど・・・。
要は、単なる弟分ってことなんだよな。
気兼ねない“弟”相手なら、そりゃ眠たくなりゃ寝るよな。
自分で思って、自分で落ち込んだ。

―――待てよ。

好きな女が無防備に眠る姿を肴に、頬杖をついてふと考える。

―――もし俺だったら、どうなんだ?

不意に頭を擡げた疑問。
考えまいと思っても、頭から離れない。

―――もし俺が、こいつから離れていきそうになったら・・・


バチンッ!
「こらっ、聞いてる?」
「ぃてっ!」
いきなりがばっと身を起こしたかと思えば、奏江は俺の額を指先で思い切りはじいた。
じーんと芯まで響く痛みに、思わず眉をしかめる。

「私の話、聞いてなかったでしょ。」
「ちゃんと聞いてたよ。・・・つか、お前今寝てただろ。」
「寝てませんっ。」
「寝てました!」
「寝てませんったら。」
「いーや、寝ーてーまーしーた!」

アイツからもよく"姉弟喧嘩"と揶揄された他愛ないやりとりを繰り返す。
けれどその間も、頭にこびりついた疑問はどうしても消えなかった。




(続く)
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