ソウイウコト

途中のセリフを敦賀さんに言わせたくて書きました。



「やあ、敦賀くん。見たよ、この間の記者会見。」
にやにやとイヤな笑いを浮かべながら、その男は蓮に近づいてきた。

「ああ、ご覧になったんですね。」
世間を大きく騒がせたキョーコとの婚約発表。
男が言っているのはおそらくそのことだろう。

それは今打ち上げを行っているこのドラマの撮影中の事だった。
様々な都合からそのタイミングでの発表になったのだが、突然の発表に撮影現場には多くの報道陣が押し掛け、一時は大変な騒ぎになった。
その件に関する謝罪はすでに共演者はもちろんスタッフにもきっちり済ませていたはずだ。
しかし、わざわざ話を蒸し返すあたり、男にはどうやら心に含むものがあるらしい。

「いろいろお騒がせして申し訳ありませんでした。」
とはいえ相手は共演者。しかも先輩にあたる。
蓮は謝罪の言葉とともに深く頭を下げた。
「いやあ、ドラマの宣伝にもなってよかったんじゃないの。」

たしかに男の言うことは一理ある。
偶然ではあったが、ドラマにはキョーコも初回にゲスト出演しており、それも含めて大いに話題になったのだ。
結果、初回から現在まで相当高い視聴率を維持し続けているらしい。

「あ、それとも本当に視聴率狙いのネタ?だったら、敦賀くんもなかなかやるなあ。」
嘲弄するような口調。
作り笑いの下から、顔をのぞかせる敵意。
蓮は心の内でちっと舌打ちをした。
「・・・にしても、驚いたよ。」
男はしゃべり続ける。
「まさか敦賀くんが、あの京子ちゃんとねえ。」
“あの”にいやらしいアクセントを置き、15cm以上低い場所から男はなめるように蓮を仰ぎ見た。
「たしかに化けるけど、あの子、素顔は平凡でつまらないじゃないか。身体も鶏ガラみたいなもんだし。」

(ああ、意趣返しか。)

男が実は裏でキョーコをしつこく口説いていたのを蓮は知っている。
それもただ口説くだけでなく、先輩であることを盾にしてキョーコを飲みに連れて行こうとしたり、無理やり自分の車に乗せようとしたり、果ては嘘をついて自分の家に連れ込もうとしたり・・・。

(とにかく汚いマネをするやつだった。)

もちろんキョーコはそれを頑として拒んだ。
蓮が表立って出ることはできなかったがLMEから警告も入り、ようやく男の行動は鳴りを潜めた。
しかしどうやらキョーコの拒否ぶりは、業界でもプレイボーイとして知られる男にとって相当プライドを傷つけられることだったらしい。

「敦賀くんが落とされるなんてよっぽどだよな。もしかして見かけによらず何かいいワザでも持ってるのかい、あの子。」
明らかにソチラを意識したいやらしい目つき。
「君が飽きたら、次はぜひ俺がお手合わせ願いたいもんだね。」

反吐が出そうな言葉の羅列に蓮の顔から張り付けていた笑顔が消え、空気がすっと冷え込んだ。
けれど男は気づかない。

「間違えないでくださいね。彼女にメロメロなのは俺のほうなんです。必死の思いでがんばってようやく口説き落としたんですから。飽きるなんてありえません。それに・・・」
ぎりぎり感情を抑え、蓮は淡々と返した。
そうして再び笑顔を貼り付ける。
場所を考えろ、必死に自分に言い聞かせながら。

「彼女の良さは俺だけが知っていればいいことですから。いや、むしろほかの男が知る必要はないくらいに思ってますけどね。」
繕った笑顔に何か勘違いしたのか。あるいは単なる虚勢か。
男が笑い声をあげた。
「あははは、いったい何を言うかと思えばばかばかしい。あれよりもっといい女を君ならいくらでもモノにできるじゃないか。」
口元を歪め、持っていたグラスから液体をごくりと飲み干す。
もう何杯飲んでいるのか。
酒の匂いを強く漂わせながら、不躾に顔を近づけてくる男。

「君なら、星の数ほど女はいるだろう?」
「そう、ですね。たしかに。女性なら星の数ほど。」
蓮はあえて逆らわない。
「フフッ、君もなかなかいうねえ。」
我が意を得たりとばかりに男は含み笑いをし、蓮の肩に手を伸ばした。

「でも、太陽はひとつですから。」

伸ばされた手をするりと避け、蓮はきっぱりと告げた。
口もとはにっこりと、それでいて一つも笑っていない鋭利な目つきで男を見下ろす。
思わぬ答えとその態度に、男の顔が醜く歪んだ。

「日の当たらない毎日、なんて俺は二度とごめんなんですよ。」

重ねて告げた言葉は、蓮にすれば自嘲に近かった。
しかし男は端役ばかりの自分に対する当てこすりと感じたらしい。
その顔からさっと血の気が引いていく。
「敦賀っ。てめえ・・・。」


「失礼。」
そのとき、図ったように二人の間に柔和な声が割って入った。
社だった。
「そろそろ時間だから。」
蓮に声をかけ、男に丁寧に頭を下げる。
そんな社に小さく頷き、蓮は“いつも”の笑顔を男に向けた。
「それではお先に失礼します。」
そうして去り際、蓮はさりげなく男の耳元に顔を寄せた。
「忘れないでくださいね。彼女は俺の唯一無二の太陽なんです。変な真似をするやつがいたら・・・。」
ふっと息を吐き、声をさらに潜めた。
「俺、何をするかわかりませんから。」
はっと顔を上げた男が見たのは、向けられた者だけがわかる、背筋が凍るような極悪の笑みだった。
ごくりと唾をのみ、身体を硬直させる男。

「さ、蓮。」
社の声が再びかかり、蓮は踵を返した。
そして今度は社がゆっくりと男に顔を向ける。

「そうそう、京子はうちの社長の秘蔵っ子なんですよ。これからどんどん活躍の場も広げていくことになると思いますので、もし共演などあった際には彼女のこともどうぞよろしくお願いします。」
言いながら頭を上げた社が見せた、すべてを見透かすような瞳の色。
その色に飲まれたように、男は再び背中を大きく震わせた。


*


「気持ちはわかるけどさ、蓮。」
車に乗り込んだ途端、社が口を開いた。
「ほどほどにしておけよ。」

「ほどほど?いったい何のことですか。」
少し間を置き小首を傾げる蓮に、社は苦笑を禁じ得ない。
「ま、いいけどな。さて、今日はこれでおしまいだ。帰るぞ。どうせ今日もキョーコちゃんが家で待ってるんだろ?」
「ええ。」

話をふったのは確かに自分だが、それにしても思わず言葉を失うほどの破顔を見せつけられ、社ははぁっとため息を零した。
「ったく。」
呆れたように呟きながらシートベルトをカチリと締める。
と、社は思いついたようににやりと笑った。
「そうそうもう知ってると思うけど、明日は二人ともオフだから。・・・でもな。」
そして社は、先ほどとまったく同じセリフをもう一度繰り返した。

「蓮、ほどほどにしておけよ。」
「それは難しいですね。」

今度は躊躇いなく即答され、社は思わず声をあげて笑い、そして心の中で大いにキョーコに同情したのだった。





fin
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コメント

  • 2016/01/24 (Sun)
    13:36
    蓮さん素敵!

    今年になってから怒涛の更新ですね!
    ちなぞワールドを楽しめて本当に嬉しいです。

    病んでる蓮さんも悩んでるキョコさんも
    ラブラブな二人もどの話も全部面白かった
    です。

    どの話の蓮さんもキョコさんを大好き過ぎるのがよくわかりました!(笑)
    次のお話しも楽しみしています。

    ponkichibay #- | URL | 編集
  • 2016/01/25 (Mon)
    10:26
    Re: 蓮さん素敵!

    コメントありがとうございます^^
    今年はがんばって更新している…つもりなので
    喜んでいただけて嬉しいです♪

    > どの話の蓮さんもキョコさんを大好き過ぎるのがよくわかりました!(笑)
    ふふふ
    キョコちゃんを大好き過ぎて暴走する敦賀さんは私の何よりの好物なのですw

    よかったらまた遊びにいらしてくださいね~。
    コメントも楽しみにお待ちしております!

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/02/29 (Mon)
    23:34
    にやり…。

    このお話を見て、まずにやり…。
    ( ̄+ー ̄)←こんな感じ。

    同じ社さんの問いかけに、すっとぼけと即答なんて、楽しすぎです。

    この蓮さんも、格好いぃ〜〜。

    馬の骨退治も私の大好物です。

    かばぷー #- | URL | 編集
  • 2016/03/01 (Tue)
    23:53
    Re: にやり…。

    おお、にやりとしていただけてこちらこそニヤリw

    こういう馬の骨が相手だと、蓮さんってほんとに徹底的にやっつけてくれそうで書いていても楽しいです♪
    我が家はヘタレ率が高いので、ときどきカッコイイ蓮さんも書かないと!

    ちなみにこの翌日やっしーがにやにやしながら蓮さんにいろいろつっこみをいれ、思いっきり反撃される模様w

    ちなぞ #- | URL | 編集

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