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ため息

勢いだけで書いちゃいました。



プチッ

テレビを消したとたん、奏江と千織は顔を見合わせた。
「ついにやったわね。」
「やりましたね。」
「ずいぶん地道にがんばってたけどね。」
「まあ、ここいらが潮時じゃないですか。」
「さすがに限界よね。」
「ええ。」
「仕方ない。援護要請に応じますか。」
「ですね。」


*


はあああ・・・・。


「35回目。」
「へ?」
「あんたがこの部屋に入ってきてからついたため息の数。2分に1度はため息ついてる計算ね。」
「え?もう1時間以上経ったの?」
「・・・・時間の問題じゃないでしょ。」

あきれ顔でこちらを見る奏江から思わず視線をそらす。
そのまま流れで、握っていたスマホに目を遣った。

「ついでに言うと、スマホ眺めるのはもう24回目。」
今度はそう言われ、キョーコはぷうっと口を尖らせた。

「だって、しょうがないじゃない。」
「何が?」
「出ちゃうんだもの。」
「ああ、ため息ね。私はまた―――。」
言いかけて言葉を止め、奏江はキョーコを眺めた。

(ほんとにこの子はいつまでたっても・・・)


「キョーコさん、だいたいあなた贅沢すぎます。」
突然千織が口を挟んだ。

「いったい何が不満なんですか。」
「不満って。そういうのじゃなくって・・・。」
「じゃあ、なんなんです。」
「何って言われると困るんだけど。不満があるわけじゃないの。」
「そりゃそうですよ。不満なんて言ったら罰が当たります。
罰が当たるどころか、それと知った日本中、いや下手したら世界中の女性から石を投げられます。」
「そ、そんな大げさな・・・」
「ちっとも大げさじゃありません。」
ぎろりと睨む千織の鋭いまなざしに、キョーコはひいいっと身を縮めた。
「まあ、気持ちはわからないではないですけどね。だからといって、今回のこれは見過ごせません。」
そういうと千織は、目の前のテーブルに置かれたテレビのリモコンを取り上げた。

「せっかくこうして何年かぶりにこの元ラブミー部室に3人で集まることができたんです。今日はきっちり話を聞かせていただきますよ。」
電源ボタンをぼちりと押したとたん現れたのは、キョーコが部屋に来る前に奏江と千織が見ていたものとまったく同じ映像。
ちなみに今日は朝から各局のワイドショーでその映像がこれでもかと流れている。

「もちろん知ってますよね。コレ。」


*


「結婚?そうですね。俺は今すぐにでもしたいんですが。」
突然繰り出されたその一言にスタジオが騒然となる。

「でも、なかなか彼女がうんといってくれなくて参ってるんです。」
今度は会場のあちこちから悲鳴が上がった。

「ええ、もちろん京子さんです。彼女以外の人と結婚なんて考えられないですから。」


*


画面を見ていた千織が向き直り、口を開いた。
「・・・で、どうするんですか?」

ぎょっとした顔でキョーコが身を竦めた。
「どうするって。どうもこうも・・・・」
うにゃうにゃと言葉を濁すキョーコに、千織がぐっと身体を乗り出して詰め寄る。

「お付き合いをはじめて何年でしたっけ?」
「えっと・・・7年?」
「その間に何回プロポーズされました?」
「何回?何回って言われても・・・」
顔を上げ、遠い目をするキョーコは、どうやら頭の中で回数を数えているようだ。
その様子に、奏江も千織も揃ってハァとため息をつく。

「つまり、すぐには答えられないほど何度もされてるってことですね。しかもそれを全部スルーしてきた、と。」
「スルーってわけじゃ・・・。」
「でも、受けてないじゃないですか。それでいて別れるでもない。これがスルーでなくていったい何だっていうんです?」
千織の突っ込みは相変わらず厳しい。
一方、キョーコは亀のように首をすくめ平身低頭している。
その様子にこれ以上同じ方向で攻めても無駄だと思ったのか、千織がいきなり話を変えた。

「ああ、そういえばアレ。ほんとなんですか?」
「アレ?」
「アカデミー主演男優賞ですよ。ノミネートの内示があったって聞きましたけど。」
「ああ、私も聞いたわ。それ。」
いったいどこから聞きつけたのか。
情報の早さに、キョーコは一瞬口ごもる。
「ああ、それね。・・・・・・・・・・うん。事実。」
どうせ数日内には公になることだし、この二人に秘密にする必要はないかとキョーコは頷いた。

「さすがね。」
「さすがですね。」
そろって感嘆の言葉を口にしながら、表情はくやしげにひきつっている。
日本ではトップクラスの女優として第一線で活躍している二人だが、さすがにアカデミー賞となるとまったく手が届かない。
それ――しかも主演男優賞をノミネートとはいえあっさりと手中におさめた先輩俳優に対し、同じ俳優として尊敬と同時に羨望の念を抱くのも仕方ないといえば仕方ないことだった。

「そりゃ強硬手段にも打って出ますよね。どう考えても、ここが落としどころでしょうし。」
「それ以前に、よくまあここまで我慢したもんだと思うわ。あの人が。私はてっきりアメリカ進出が決まったときに、キョーコを荷物に詰めて連れてっちゃうかと思ったもの。」
「ああ、私も思ってました。まさか素直に遠恋するとはね。そりゃキョーコさんが日本でもう少しがんばりたいって譲らないから、そうするしかなかったんでしょうけど。だからといって、ねえ。
なんていうか、ほんとキョーコさんにメロメロなんだなあってあきれ・・・いや感心しました。」
淡々と交わされる会話。

「そ、そんなぁ、だって私、女優としてちゃんと一人前になるまでがんばりたかったんだもの。それを目標にがんばってきたんだから。」
情けない声を上げたキョーコを、二人は揃ってじろりと見た。


「なにが一人前に、よ。」
奏江の声が鋭さを帯びる。
その言葉に千織も大きく頷いた。
「あんたは」
「あなたは」
「「それより前にアカデミー助演女優賞にノミネートされてたでしょうが!!!」」


そう。
たった今二人が切れて叫んだように、キョーコは今から3年前にアカデミー助演女優賞にノミネートされた。
日本ではまだまだ無名に近かったなかでの突然のノミネート。
それは世間に大きな衝撃を与え、京子の名前は一気に注目の的となった。
結果受賞こそ逃したが、今も国内外からの出演オファーが殺到している。
蓮はちょうどその時期に単独アメリカへ渡り、その後本格的にハリウッド進出を果たしたのだった。

「そりゃ、焦るわよね。」
「先輩俳優としても、恋人としても、負けたって感じでしたもんね。」
「それでも別れたりしないのはさすがって思ったけど。」
「相当きつかったでしょうね。」
「正直、心底同情したわ。私も悔しかったけど、あの人見てたらいやいやこの人に比べたら・・・って感じだったもの。」
「ラブミー部のラスボスを決死の覚悟で攻め落として4年。さあ、そろそろ結婚をってときでしたしね。」
「あの時点ではあの人のほうが順調にステップアップしていたしね。」
「それがまさか、ね。」
「ええ、ほんと。」

「あ、あんなの偶然だもの。何かの間違いか、監督の手腕だったのよ。私なんて、まだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさん・・・」
ぶつぶつと呟くキョーコを二人が同時に手で制す。

「いいかげん、自覚しなさい!それがあんたの実力なの!」
「そうですよ!行き過ぎた自己卑下はかえってイヤミですよ!」
「あなたは」
「あんたは」
「「私が認めた最高の女優なんだから!!」」

奏江と千織が顔を見合わせ、ぷっと噴き出した。



「話はもどるけど、それで結局・・・」
奏江が、キョーコの顔を覗き込む。
「あんたはどうしたいの?」
先ほど千織がした、同じ質問を繰り返す。

「だから、それは・・・」
言いかけたキョーコの頭をぺしっとたたいた。
「いい加減、はっきりしなさい!あんたも敦賀さんももう十分がんばったじゃない。一人前どころか、五人前、十人前以上の錚々たる結果をだしてるでしょ。それでもまだ不安があるわけ?」
「だ、だって今さら・・・。」
「今さらなによ。」
「あんなに何度も受け流して・・・。」
ほらやっぱりスルーしてたんじゃないですか、と千織がぼそりと口にして、奏江にシッとたしなめられる。
けれどそれには気づかぬ様子で、キョーコはショボンと肩を落とした。
「今さらどんな顔して、“はい”って言えばいいのかわからない。」


「あーーもうっ!はっきりしないわね!」
ダンッとテーブルを叩き、奏江がその場に立ち上がった。

「敦賀さんのこと好きなんでしょ!?」
「うん。」
「ずっといっしょにいたいんでしょ?」
「うん。」
「敦賀さん以外に結婚したい人でもいるの?」
「いるわけない!」
「じゃあ、たとえ敦賀さんとでも結婚なんてしたくないの!?」
「そうじゃない・・・。」
「じゃあ、してもいいんでしょ!?」
「でも・・・。」
「どっち!?したいの?したくないの?」
「したい・・・です。」
「したいのね?」

こくりと頷きふっきれたのか、キョーコは堰を切ったようにしゃべりだした。

「したいよ・・・私だって大好きだもの。離れてみてわかったの。そばにいられないのがどんなに辛いことか。もう離れるのはイヤ。敦賀さんといっしょにいたい。ずっと、ずっといっしょにいたい。
だってそのために、そのためだけに今までがんばってきたんだよ?ほんとにものすごくがんばったんだから。
だからもし許されるなら・・・本当は素直に“はい”って言いたい。そうして一生、敦賀さんの傍にいたい。いたいの。」

瞳に涙を滲ませて。身体を震わせながら。
キョーコは、思いの丈をぶちまけた。



「・・・だそうよ。先輩。」

(え?)

キョーコはびくりと肩を揺らした。
奏江の視線がいつの間にか自分から、その背後の誰かへと移っている。
まさかと思いながら、ある予感に後ろを振り向けない。
ドクドクと全身が心臓になってしまったように脈打つのがわかる。

(まさか。)


――――そのとき。
ふわりと間近に漂った香りがあまりに覚えのあるもので、キョーコは全身を硬直させた。

「うれしいよ。キョーコ。愛してる。」

一段と強くなった香りとともに、背後から逞しい腕が巻き付いた。
同時につむじに落とされたキス。
そしてやさしく穏やかな温もりが、キョーコの身体を包み込んでいく。
何度味わっても、そのたびに心臓が破裂しそうなほど高鳴ってしまう唯一の温もり。
キョーコはそれを噛みしめるように味わい、ゆっくりと顔を上げた。

視界の隅に、大切な二人の友人の笑顔が見える。
ほら、さっさと素直になって、そのまま幸せになっちゃいなさい。
そんな声がたしかに聞こえる。
ぐっと背中を押されたような気がして、キョーコは精一杯の気持ちを込めて囁いた。


「私も。」




fin
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コメント

  • 2016/01/11 (Mon)
    18:27
    これで

    悲しい溜め息はつかずに済みそうですね。

    オンエアでプロポーズを明かした蓮さんは、報告と称して即にまた「バラし」たいのを(ほんの短い間)我慢して、社長プロデュースの婚約会見に挑むのでしょうが。

    その顔は緩みっぱなしできっと世間様には会見前からバレバレですね。

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/01/12 (Tue)
    11:06
    Re: これで

    おっしゃるとおり「バラす」前に、表情・態度・行動で周囲にはバレバレになることと思いますw
    あ、それ以前に社長が大騒ぎしそうでもありますね。

    というかローリィプロデュースの婚約会見…キョコちゃんが裸足で逃げ出しそうな予感w

    ちなぞ #- | URL | 編集

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