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エピファニー (後編)

お言葉に甘えて明日以降のスケジュールの再確認をしている間に、蓮はケーキを上手いこと6等分に切り分けていた。
今いる3人分と、残りの2人+キョーコちゃんの分、ということらしい。
まあ5等分より6等分のほうが切りやすいし、そりゃそうするよな。

と、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「お待たせしました。うわあ、キレイに切り分けてくださってありがとうございます!美味しそう!!」
キョーコちゃんの声がはずんでいると、こっちまでうきうきしてくる。
なにより蓮の機嫌が急上昇するのがありがたい。
こりゃ、このあとの打ち合わせはスムーズに進みそうだな。

「でさ、何なの?ガレットなんとかって。」
「ああ。ガレット・デ・ロアはちょうど今日、1月6日に食べるお菓子なんですよ。」

さりげなくキョーコちゃんの隣に座り、ね?と顔を向ける蓮。
それを受けて、キョーコちゃんも”はい”とうなずく。
えっと、俺空気?
てか何なの?お前ら。いつの間にかすっかりツーカーな感じになっちゃって。
よく見ればどっちの頬もほんのり赤く染まっているように見えるのは俺の見間違いか?
もうさ、このまま付き合っちゃえよ!
なんてお兄ちゃんとしてはけしかけたくなるけれど、あのキョーコちゃん相手じゃ下手なことを言うととんだやぶへびになりかねない。
ま、俺はおとなしく見守り役に徹することにするよ。

そんなわけでケーキを食べながら、蓮とキョーコちゃんがタッグを組んでガレット・デ・ロワについて説明してくれた。
1月6日にこのケーキを食べるのは、キリスト教の行事のひとつらしい。
で、このケーキの中にはフェーヴという小さい陶器の人形がひとつ入っているんだそうだ。

「・・・そのフェーヴが当たった人は幸運が1年間続くといわれていて、王冠をかぶってみんなから祝福を受けるんですよ。」

ああ、それで蓮がわざわざ王冠を出して見せたわけか、なるほどね。

「ちょっとしたゲームみたいですよね。そのせいか最近は日本でもこのケーキが売られていて人気なんです。」
有名パティスリーも続々ケーキを売り出していてどれもとっても美味しそうで・・・と続けたキョーコちゃんがぱくりとケーキを頬張り、それはそれは幸せそうな顔をする。
キョーコちゃんからは見えにくいのをいいことに、隣でそれを見つめる蓮も仕事の時とは打って変わった緩み顔になっていた。

お前、そういう顔はここだけにしろよ。
なんて少し思ったけれど、キョーコちゃんのいないところであいつがこんな顔するわけないな、と思い直す。

「あっ!」
そのとき、ケーキにフォークをいれた蓮が小さく声を上げた。
え?と隣を覗き込んだキョーコちゃんが、わぁっと手を叩く。
「敦賀さん、大当たりですね!おめでとうございます!」

蓮のフォークの上には可愛らしい陶器の人形がちょこんと鎮座していた。
テーブルの上に置いてあった王冠を手に取り、キョーコちゃんがさっそく蓮の頭にかぶせる。
お前・・・違和感ないな。そういうの。
ぺらぺらの紙の王冠が、お前がかぶるとなんだか繊細な金細工に見えてくるから不思議だよ。

「うわあ・・・・!」
ぱちぱちと手を叩きながら蓮をみつめ、思わずといった感じで声を上げたキョーコちゃんの瞳はキラキラと輝いている。
まさに恋する乙女!と言いたいところだけど、メルヘン好きな彼女のことだから、単純に『まるで王子様みたい』なんて理由でときめいてるだけなんだろうなあ。
なんとなく同情心が湧いてきてそっと蓮を見たが、もちろんあいつは俺のことなんてまるっとスルーだった。

「新年早々ラッキーだな。今年もいろいろがんばるよ。あ。社さんも今年もよろしくお願いしますね。」
おまけのように付け加えて俺に頭を下げた蓮。
「いやいやこちらこそ。にしても1年間幸運続きか。それなら仕事もプライベートもぜーんぶ全力でかっ飛ばせよな。」
冗談めかして返したら、見上げたヤツの眼光の鋭さにひえええっとなった。
おーこわっ!



「さて、そろそろ時間ですね。」
言われて時計を見れば、たしかに打ち合わせの時間が近づいている。
「あ、片付けモノはまかせてくださいね。すっかりごちそうになっちゃってすみません。でも本当においしかったです。」
「どういたしまして。喜んでもらえてうれしいよ。じゃあ、申し訳ないけどあとはよろしくね。」
手早くテーブルの上を片付け、俺たちはそろって立ち上がった。

「よかったらこれ。君にも幸運が訪れますように。」
そう言って立ち上がった蓮が、ティッシュできれいにしたフェーヴをキョーコちゃんに渡す。
「わぁっ!ありがとうございます!このフェーヴ、可愛いなあって思ってたんですよ。でもいいんですか?」
幸運のお守りなのに・・・と言いかけたキョーコちゃんを手で制し、蓮は言葉を続けた。
「あと、これも。王様から王妃様に。」
それまでずっと頭に乗せたままになっていた王冠を、キョーコちゃんの頭にかぶせなおした。

うん。
キョーコちゃんもよく似合う。お姫様みたいで可愛いよ。
なんて思ったのを見透かされたのか、蓮が俺の肩をポンと叩いた。
何気にお前、力入れすぎじゃない?ちょっと痛いんだけど。

「じゃあ、俺たちはこれで。社さん、急ぎましょう。」
・・・と、不意に蓮がキョーコちゃんに近づき、耳元に顔を寄せて何事か囁いた。

おいおい、俺には秘密かよ。
心の中で俺は思い切り蓮の腹をどつき、突っ込みを入れる。
まあ現実にはそんなこと絶対できやしないけれど、それにしてもこのお兄ちゃんをのけ者にするとはひどいじゃないか。
俺はこんなにお前の幸せを祈ってるっていうのに。

ジト目でにらんだ俺をあっさりと無視し、蓮はドアへと向かった。
「社さん。」
はいはい、今行きますよ。



最後の秘密がなんだか悔しくて、並んで歩きながらふと口に出した。
「お前、仕込んだだろ。」
いったい何を言うのやら、という顔で蓮が俺を見つめる。
そんなまんまるの目をしてみせたって、俺は騙されないからな。
「それとさ、さっきさりげなく王女様じゃなくて王妃様って言ったよな。あれってお前が王様だから?」
「俺まだ、娘を持つような年じゃないですから。」
いや、そういう意味じゃないだろ。
言いかけて、蓮の首筋がほんのり赤く染まっていることに気づく。

「ま、そういうことにしといてやるよ。」
俺は思わずぐふふと笑った。



* * *



「続き、楽しみにしてるから。ちゃんと調べておいてね。」

敦賀さんはそう囁いて去っていった。
続き?
いったいどういう意味だろう。

疑問に思いながら、携帯を取り出す。
こういうときはすぐ調べるのが一番だもの。
『ガレット・デ・ロワ』
打ち込んで検索。
Wikipediaを見てみるけれど、書いてある説明は私が話したのと同じ。
次も。
そしてその次も。
そして・・・。

『王様になった人は、ガレット・デ・ロワについている王冠をかぶり、自分の好きな人を王妃様として選びます。そしてキスするのです。』

キス?
キス?
キス!!!?????

立ち上がった拍子に大きな音を立てて椅子が倒れる。
放り出しかけた携帯を慌てて受け止め、呆然とそこに立ち尽くした。

いやいやいや、そんなはずない。あるわけない。
き、きっとなにかの冗談か、私の勘違いよね。
それともこんなのじゃなくて、なにか別の”続き”があるんじゃないかしら。
そうよ。そうに違いない。
絶対、そう。


そうしてキョーコは再び調べ始めた。
“続き”にあてはまりそうな何かを。


そんな”何か”なんて、いくら調べても絶対出てこないというのに。



*



本当は、蓮が一番伝えたかったのは『キス』よりも『自分の好きな人を王妃様として選ぶ』ということ。
でもキョーコがそうと気づくわけもなく。
それもちゃんとわかっていて蓮が投げた『キス』ネタは、これからに向けてのちょっとしたジャブ。
果たして蓮はちゃんと"続き"を叶えられたのか・・・それはまた別のお話。




fin
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コメント

  • 2016/01/07 (Thu)
    16:08

    やらかしましたね。。。
    策士、蓮(ニヤリ)

    ぴっぴ #5ezzJUZo | URL | 編集
  • 2016/01/07 (Thu)
    18:29
    そんなルールがっ!

    キョコさん同様知りませんでした。

    なるほど、蓮さんが王様に「なった」訳ですね。←

    好きな人を・・・・部分はスルーされてますけど。

    (笑)

    誕生日あたりにもらえるといいですね。希望のものが。Ψ( ̄∇ ̄)Ψ

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/01/07 (Thu)
    22:21
    幸せ♡

    1日に、二回もちなぞさんのお話を読むことが出来るなんて!!シ・ア・ワ・セ♡( *´艸`)

    キョーコちゃんに当たりを仕込むかと思いきや、自分に仕込んでキョーコちゃんにプレゼントして、ちゃっかり好きなことを伝えようとするなんて、蓮様可愛い〜♡

    心温まる素敵なお話をありがとうございます〜☆

    風月 #- | URL | 編集
  • 2016/01/12 (Tue)
    11:00
    Re: タイトルなし

    ふふふ。
    まさに「策士」のくせにツメが甘い敦賀さんでした!
    ツメの甘さを、どこでどう挽回するのやら・・・。
    いや、無理かなw
    それと知った社さんのため息が聞こえてきます。

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/01/12 (Tue)
    11:01
    Re: そんなルールがっ!

    そうなんですよ!
    1月6日ってどんな日なんだろう?って思ったらこれが出てきて…
    もうこれは敦賀さんが王様になるしかないだろう、とw

    1か月後・・・自分からねだる敦賀さんが目に浮かぶようです(涙

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2016/01/12 (Tue)
    11:03
    Re: 幸せ♡

    私こそ風月さんのうふふな集中連載を堪能できてシアワセに浸っておりました♪

    ちゃっかり敦賀さん(でも詰めが甘い)、けっこう好物なのです~。
    そしてその隣で頭を抱えるやっしーはもっと好きだったりw ←おいおい

    ちなぞ #- | URL | 編集

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