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小春日和

昨日までの寒さが嘘のように澄み切った青空。
差し込む光はキラキラと眩く、1月半ばとは思えないほどの暖かさに満ちている。
ガラス越しに降り注ぐ日差しに背中を温められ、ふと眠気を覚えたキョーコは思わずあくびをこぼした。


「あーーー、さすがに疲れちゃった。」
読んでいた台本から目を上げ、ふわわぁ~っと大きく伸びをする。
1日も早くセリフを覚えないと、と根を詰めすぎたのか。
脇目も振らず台本を読み続けていたせいで、なんだか首も肩もひどく凝っている気がする。

(気分転換、気分転換。)
立ち上がって窓際に行き、青空を眺めながら首をぐるぐると回した。
(ほんと、今日は真冬とは思えないくらいあったかいな。)
こうしているとまるで春の陽だまり、なんて思った瞬間に一人の顔がふっと浮かび上がり、頬がカァーッと熱くなる。
(やだ。私ったら。)
こつんと頭をたたき、それでもおさまらずパンパンと両手で頬を叩いて、やっと席に戻った。
でも、一度浮かんだその顔はなかなか消えてくれない。
それどころか、ますます強く頭の中を占めてしまう。

(そういえば、年が明けてからまだ一度も会ってないんだ。)
すれ違いすれ違いの連続でまだ年始の挨拶すらしていないのが、なんだかとても礼儀知らずな気がして申し訳ない。
いや、それよりなにより・・・本当は顔が見たい。
そう思ったら、我慢しきれぬ想いがせり上がってきた。
(ちょっとだけ。ちょっとだけだから。)
見ればきっと気持ちも落ち着く、なんて自分への言い訳だってことはほんとはちゃんとわかっている。
わかっていながら見て見ぬふりをして、鞄からそっと携帯を取り出した。

(誰もいないから、いいよね。)
さらに自分に言い訳を重ねて、その中に保存している大切な大切な1枚の写真を呼び出した。
やわらかな陽ざしの中で、羊枕とともにうたた寝する蓮。
(私だけの・・・秘密の、宝物。)
両手で隠すようにして、画面に映し出されたその人をじっと見つめる。

見ているだけで幸せ。
確かにそう思っているのに、なぜか胸がキュッと締め付けられるような痛さも感じて。
(敦賀さん・・・。)
手にした携帯をギュッと抱きしめながら、キョーコはその名前を何度も何度も噛みしめた。



* * *



コンコン

ノックしたけれど中からは何の反応もない。
(たしかにいるって聞いたんだけど。)
首を傾げながら蓮は、その部屋のドアを開けた。
すぐ目に入ったのは、部屋の真ん中に置かれたテーブルに俯せ寝入っている茶色い頭。
両手を枕代わりに横向きに頭を埋め、華奢な肩を上下させている。

「あ・・・」
声をあげかけた口を慌てて手でふさぎ、その場に立ち止まった。
閉まりかけていたドアを手で押さえ、音を立てないようゆっくりと閉める。

ぴくりともしない茶色い頭の傍らには、伏せられた分厚い台本。
(そういえば、映画に出るって言ってたっけ。)
それもけっこうセリフの多い役だと聞いた。
まもなく撮影が始まるらしいから、今はセリフ覚えに必死なんだろう。

耳をすませば聞こえてくる、すぅすぅと規則正しい寝息。
起こしたらいけないと足音を忍ばせ、そのままそっと隣に腰かけてみた。
それでもまだキョーコは起きそうにない。
(それにしても・・・。)
すやすやと幸せそうな寝顔は、あまりにも無垢で無邪気で純粋で。
思わずじっと見入ってしまう。
緩やかな日差しに透けて煌く柔らかな髪。
トレードマークの大きな瞳は当然閉じられ、代わりに長い睫毛が呼吸に合わせて震えている。
口もとがときおりむにゃむにゃと動くのは、覚えたセリフを確かめてでもいるんだろうか。

(まったく君は無防備すぎるよ。)
呆れたつもりなのに、なぜか自然と口許が緩んでしまう。
こうして隣にいるだけで十分すぎるほど幸せだなんて、我ながら信じられない純情さだ。
同じテーブルに肘をつき、蓮はただただじっとあどけない寝顔を見つめつづけた。
いくら眺めていても飽きる気がしない。
それどころか、このまま永遠に見つめていたいとさえ思う。

『キョーコちゃん』

心の内で呼びかけるだけで、すべてが満たされていくようなこの気持ち。
同時に感じるこの温もりは、けっして差し込む日差しのせいだけではないだろう。
うららかな陽ざしの中、蓮はひとときのやすらぎに身を揺蕩え無意識に目を細めた。


キョーコはずいぶん深い眠りに落ちてしまったらしい。
5分が過ぎ10分が過ぎても身じろぎひとつせず、すやすやと眠り続けている。
そのことに気が付いて、つい手が伸びた。

そぅっとそぅうっと。
顔を隠すようにはらりと落ちた髪をつまみあげ、よけてみる。
差し込む光の反射で、桜色の唇が濡れたようにきらりと光った。

(まるで・・・誘われてるみたいだ。)

ドキリと胸の奥が波立ち、思わずその場所に指先が伸びた。
触れたか触れないか、わからぬほどの接触。
けれどたったそれだけで、心臓が壊れそうなほど高鳴り、指先が震える。
(まったく情けない男だな。)
顔をしかめて自嘲した。
彼女に対しては、いったいどれだけ臆病なんだ。
好きになればなるほどどんどん臆病になっていく。
(君がイケナイんだよ。)
あどけない寝顔に向かって音を出さずに呟いた。


偶然か、それとも必然か。
そのとき目の前の唇がわずかに開いた。
まるで、キスをねだっているかのようなその動き。

(キョーコ・・・ちゃん)

言い得ぬ力に引き寄せられるように、蓮は目の前の唇へと顔を近づけていった。
気配が近づくにつれ、抑えていた想いが次から次へと溢れ出してくる。

あと20cm。
あと15cm。

バクバクと激しく胸を打つ鼓動。
聞こえてくる寝息が、爆弾のカウントダウンのように鼓膜を揺らす。

あと10cm。
あと・・・。

『・・んぅん・・・』

不意に耳元に響いた小さな声音にハッと我に返った。
見上げた瞼がぴくりと大きく震え、慌てて身を引く。

(俺はいったい・・・。)

古いゴムにもほどがある。
大丈夫と豪語してみせた、あの俺はいったい何だったのか。
思わず苦笑しながら切れかけた理性のゴムに喝を入れる。
だましたり、不意打ちするようなキスは、1度きりで十分だ。
臆病者と謗られてもかまわない。
続きはちゃんと君を捉えてから。

(覚悟しておいてね。)
――――ぜったい君を捕まえるから。


もう一度そっとキョーコの唇に指をあて、蓮はようやく腰を上げた。



* * *



「わわっ!すっかり寝ちゃってた。」
慌てて顔を上げた瞬間、抱き込んでいた携帯に顎がカツンとぶつかった。
「うそっ!」
思わず口に出したのは、画面に写真を呼び出したままになっていたから。
慌ててキョロキョロ辺りを見回したけれど、
「誰かに見られる・・・わけないわよね。」
キョーコはほっと息をついた。

(さっ、居眠りはもうおしまい!)
眠気覚ましにと、窓を細く開ける。

―――え?

ふと感じた匂いにドクンと心臓が震えた。
覚えのある、大好きなその匂い。
一瞬焦って、ううんまさかと首を振る。
(ないない。)
大きく何度も首を振り、それから慌てて携帯を鞄にしまった。

ヒュゥゥ~~~!
その直後、開けた窓の隙間から冷たい風が滑り込み、部屋をぐるりとかき回して消えていった。
わずかに残っていた蓮の気配を何もかもぜんぶ引き連れて。




季節はまだ冬。
けれどうららかな日差しの中にはすでに春の気配が混じっている。
それは、もう遠くない場所まで春がたしかに近づいている証拠。
蓮にも。
そしてキョーコにも。


――――春はすぐそこまで来ている。





fin
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コメント

  • 2016/01/06 (Wed)
    00:36
    二人の春が待ち遠しいです。

    今現在、互いの気持ちが凄い勢いでどんどんどんどん育っているのですね。

    秘密の恋を閉じ込めている頑丈な鍵も、春になれば消え失せていそうです。

    気配でしかなかったものが、そのときにはどうなるのか。

    楽しみです。(‘▽’)ノ♪

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/01/12 (Tue)
    10:55
    Re: 二人の春が待ち遠しいです。

    コメントありがとうございます^^

    二人の恋の雪解けが1日も早くきますようにと願いつつ、書いてみたこのお話。
    春になって鍵が消え失せたら・・・

    押しまくり迫りまくりの敦賀さんがふっと頭に浮かび、思わず噴き出しちゃいましたw

    ちなぞ #- | URL | 編集

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